過活動膀胱

 年をとると尿が近くなる。これまで頻尿は前立腺肥大症で一回の排尿で完全に膀胱を空っぽにできないため残尿が発生し、それが少しずつ増えて、膀胱容量がいっぱいになるまでの時間が短くなって尿が近くなると考えていた。ところが自分が年をとってきてわかったのは、前立腺肥大症がなくても、比較的少ない量の尿に膀胱が過敏に反応して尿意が起こるため頻尿になることがわかってきた。つまり過活動膀胱である。
 そしてその尿意は、一定時間は続くがそれを過ぎると緊張がゆるんで収まることも観察すると分かってきた。
 そこで過活動膀胱の治療薬は膀胱の緊張を緩めるような薬を使用することになる。
 ところが別の問題も絡んで実際の臨床ではより複雑になっていることが実感された。それは加齢にともなう精神的動揺である。急におしっこがしたくなって慌ててトイレに行こうとするが間に合わずに漏らしてしまうことの精神的なショックが影響していると思われる。大の大人が失禁する。するとこれまでのプライドが傷つき、もう年を取ってしまったという衝撃は決して小さくないと思われる。そのショックで気が動転して踏ん張りがきかず、失禁が常態化していくことに対する不安と恐怖が大きくなる。そしてそのことでパニックになるのではないかと推測されるのである。
 そこで薬以外の過活動膀胱への対処法を研究してみた。この場合尿意の知覚過敏はあるが、膀胱括約筋がマヒしているわけではないのがミソである。膀胱括約筋がマヒしていないのであるから、尿意が強くなっても気持ちを集中して排尿を我慢すれば漏らさないはずである。しばらくすると尿意が弱くなってくるので、そこでゆっくりゆとりをもってトイレに行けばよいのである。それを自分で実行してみるとうまくいくので患者にはそのように指導している。するとしっかり尿意を踏ん張れば漏らさないということを学習し、自信ができ、精神的な動揺も納まるという計算である。
 ただ注意すべきは水を呑みすぎて膀胱が充満しているときは尿意をあまり長くは持ちこたえられないので早めに排尿した方が良いということである。
 先日離島の友人からそのような相談を受けたので、全神経を集中して尿意を我慢する訓練をするようにしたらいいと教えた。久しぶりに同期会で会ったら「あれでうまくいった。お前は名医だなあ。」といわれ自分の考えは間違っていなかったと内心うれしかった。
 ちなみに漢方では残尿感に効く猪苓湯や筋肉のけいれんを抑える芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)などを組み合わせるといいのではないかと考える。

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鉄不足による不定愁訴と漢方

 今年の東洋医学会総会の特別講演で、鉄不足により女性の不定愁訴が引き起こされ、鉄の補充により症状が改善することを紹介していた。女性は月々の生理により一定量の血液を排泄する体の仕組みから、鉄の補充を意識的に行わないと鉄不足になりやすい傾向がある。それが女性の不定愁訴と密接な関係にあるとすると、女性の不定愁訴の治療を得意とする漢方は患者の血清鉄の過不足に注意を向けなければならないことが浮かび上がってくる。
 鉄は血液の中で赤血球のヘモグロビン色素に含まれ、酸素と結合し、酸素を肺から全身の細胞に運ぶ一方、全身の細胞から炭酸ガスを肺まで運んで排泄する働きがある。つまり、呼吸によって取り入れた酸素を組織まで届け、その酸素で栄養を燃やし、その結果できた炭酸ガスを運び出し、エネルギーを作り出す仕組みにかかわっている。
 更に細胞の中ではグルコースを分解してエネルギーの本になるATPという物質を効率よく産生する化学反応に鉄イオンがからんでいることがわかっている。
 すると体内で鉄が不足するということはエネルギー不足に直結することから、鉄不足が体の元気に影響を及ぼすことは容易に理解できる。
 またエネルギー不足は自覚症状としては、体が冷えて温まりにくい、疲れやすい、疲労回復が遅いなどの症状として表現される。これらの症状を漢方では「気虚」すなわちエネルギー不足、さらに重症な場合は「陽虚」すなわち熱不足による体温低下と表現している。
 このような状態に使用する漢方薬は人参、乾姜、附子などで、細胞の代謝を刺激しエネルギー産生を促すとされる生薬である。漢方処方では四君子湯(しくんしとう)、人参湯(にんじんとう)、四逆湯(しぎゃくとう)などの処方になる。
 すなわち鉄のはたらきとこれらの漢方薬には共通の働きが見られるので、どのようにその働きが関与しあっているのかということは、漢方薬の薬理作用の現代医学的な理解に重要なヒントを与えてくれるのではないかと考える。
 最近更年期の女性で、小さいころから体が弱く、元気がなく、寒さに対する抵抗力が極めて低くて困っている人がいた。附子、人参、乾姜などの入った四逆加人参湯(しぎゃくかにんじんとう)という処方したところ、これまでになく元気が出て寝込むこともなくなってきたと喜んでいた。そこで血液検査をしたところヘモグロビンの値はそんなに低くなかったが、貯蔵鉄を測ってみたら極めて低かった。改めて聞いてみたら生理は若い頃からずっとだらだらと長く続く傾向があったという。鉄不足があることは間違いなので鉄材を処方したら興味深いことに、ギアーチェインジをしたように体が元気になったと教えてくれた。また鉄の効果が切れるとこれまた燃料切れでエンジンが止まったように元気がなくなるという。
 これは漢方薬ではカバーされない鉄の役割があることを示しており、漢方薬に加え鉄の不足を補うことがより効果的な「気虚」や「陽虚」すなわち「陰病治療」につながることを教えている。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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