なぜ風邪をひくと発熱するのか?麻杏甘石湯、小柴胡湯の成り立ち

 風邪をひくと寒気がして発熱する。しばらくするとくしゃみ、鼻水が出て咳をする。咳をするとき痰が出るが、痰が黄色いと肺の熱があると漢方では解釈する。なぜそうなるのかこれまで考えず、ただそうなっていると覚えてきた。しかしその反応は体の生命維持の仕組みの結果であるから、すっきりした理由があるはずである。最近やっと腑に落ちる理由を思いついた。
 恒温動物である人体は神経・免疫・内分泌のホメオスターシス維持システムにより体温を調節・維持している。そこに強力な寒冷刺激が作用すると、自動調節による体温維持の限界を超えるため、発熱装置にスイッチが入り、悪寒に続き発熱が起こると考えられる。この時寒冷刺激が強烈であるほど、発熱も強力になるのは理解できる。強力な寒冷刺激による激しい悪寒に伴う発熱反応がおこる一連の経過を漢方では傷寒と呼んだ。その時寒さに反発して発熱はしたものの、熱が上がりっぱなしになり気分が悪くなる。そこで何とか早く正常の体温にもどそうとするとき、冷えた体表を強力に温めて、寒邪を排除しようとするのが麻黄湯(まおうとう)の作用であった。麻黄湯は発汗作用により解熱するとされているが、発汗する前に麻黄の辛温の性質で体表を温め、まず体温をまず上げる。体温がある一定の温度(セットポイント)にまで上がると、今度は体温を下げるための発汗装置が作動して、汗により余分な熱を排除し、平熱に戻ると考えられる。
 そこからが問題である。悪寒・発熱が続くとしばらくして喉が痛くなり、咳が出てさらに激しくなると痰が出る。痰が粘稠で、黄色くなると肺に熱が及んだと考える。つまり炎症を起こす。これは何を意味しているかが問題である。悪寒によって強烈に体表が冷やされるとそれに対する反作用としての発熱の影響が、気道に及び、より深く、広く起こった結果と考えれば納得される。すなわち体を冷やす寒冷刺激(寒邪)は体内では反作用としての発熱として表現され、さらに深く進むと、炎症反応として咽喉頭炎、や気管支炎となり、黄色い、粘っこい鼻汁や単に変わるのである。その熱すなわち炎症に対応した生薬が石膏で麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)という処方になっていると考えればその変化が納得でされる。
 また寒冷刺激がさらに強力で皮下組織まで及んだ時、そこで反発して高熱が起こる。そのとき、石膏の入った強力な発汗剤である大青龍湯(だいせいりゅうとう)で治療すると考えると病気の流れが納得される。
 さらに冷えに対する反発としての発熱が消化管に向かって行くと、悪寒、発熱を繰り返す往来寒熱の熱形となり小柴胡湯(しょうさいことう)の病態になっていくのではないだろうか。あるいは強力な寒冷刺激が皮下に作用して皮下の強力な発熱を引き起こして、発汗しても解熱しないほどに熱を帯びたとき、陽明病経証の白虎湯証になるのではないか。発熱が消化管に及び発熱しても解熱せず、全身に熱が及び、高熱のまま脱水が進み、便が固く便秘に至った状態になったのが大承気湯証と考えればすっきりする。 
 すなわち寒冷刺激が強いほど反作用としての発熱が強く、広範囲に及び少陽病や陽明病にまでなると考えた。
 陰病になる場合は寒冷刺激に対する発熱という反作用が起こらずに、冷えが体が体の深部に及び機能低下に陥って悪寒、食欲不振、下痢を起こしてくる。

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漢方における最近の癌治療

 若いころは癌という病気について、漢方で何とかしなければと悲壮感に満ちて何が何でもねじ伏せようという意気込みで対峙していたように思う。しかし振り返ってみるとあの頃は漢方薬の使い方の技術が未熟であった。今でも未熟ではあるが。また死に向き合う深刻さから肩に力が入りすぎていたように思う。
 ところが最近は大分変ったと感じる。癌で見えるほとんどの患者さんは病名や予後について告知され、厳しい状況であることを自覚して漢方治療を求めてこられる。またお互いに簡単に治るとも思っていないので、ダメ元という気持ちのゆとりを持てるのがいいのではないかと感じる。
 漢方薬の使い方の技術については漢方を30年以上も続けてくると、情報と経験からある程度は見通しが立ってくる。またクリニックでの外来治療を前提としているので、入院が必要になれば、病院の主治医に引き受けてもらえるということも精神的負担をかるくしてくれる。治療する側もリラックスできるようになった。
 さて専門的になるのであるが、癌は瘀血であるという考え方が漢方の基本にある。従って駆瘀血薬という範疇の漢方薬を使えばよいということになっている。瘀血とは滞った血液という意味で、それによって起こる血の巡りの悪さから起こる体の状態を瘀血とみて、その瘀血の病態から癌が起こると考える。瘀血には熱をもった瘀血と冷えた瘀血の区別があり、前者は通導散(つうどうさん)、後者は芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)を基本にした治療を山本巌先生は提唱しておられる。その基本的な考えを知っただけでも、だいぶ気分的に救われた思いがしている。駆瘀血薬を使うと癌の発育する環境が改善され、痛みの症状などが緩和され、運が良ければ治らないまでも病気がおとなしくなりそうなのである。そのうえで全身状態を改善する適当な漢方薬を組み合わせ得ればよい。
 80代の老人が肝内胆管癌でステントを入れて黄疸は良くなったが、食欲もなく、元気がなくなったと来られた。そこで通導散加桃仁牡丹皮という煎じ薬に、全身の免疫力を上げる補中益気湯エキス、胆汁排泄を促進する茵沈五苓散エキスを合わせて処方した。すると食欲が出て体重が増えて元気になり、農作業にも出られるようになった。すると少し外来がおろそかになってきた。しばらくして姿が見えなくなったので聞くと、どうも入院しているらしい。外来通院中の検査で腫瘍マーカーは上昇していたので病気は進んでいるだろうとは思われた。そして結局最近亡くなられたという。しかし半年近くも持ち直して元気に農作業に戻れたのは大きな救いではなかったかと考える。漢方薬の手ごたえを感じた。
 症状がよくなって外来が少し遠のいたころ、「自分の病気は何か知っておられますか?」と聞いたら「癌です」と答えられたので、「難しい病気ですからしっかり漢方薬を飲んだ方がいいですよ」と伝えたのではあるが、一時的にはせよQOLが改善したのは、まあ手ごたえはあったと感じている。このように癌は少しでも良くなれば儲けものという気持ちで命を見据えながら治療ができるようになったのは年を重ねたことによるゆとりではないかと思う。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
(株)週間レキオ社又は全国の書店および「当クリニック」にて販売中

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