FC2ブログ

漢方の立場から新型コロナウィルス感染症を考える

 新型コロナウィルス感染症も感冒様症状から始まるので風邪の一種とみることができ、当然症状に応じた漢方薬を選択することができるはずである。漢方では、風邪は風寒の邪によって体の体温調節機構が対応できなくなる、つまり体温の自動調節ができなくなり、体温を維持するのに発熱という非常手段をとり発症すると私は考えている。コロナウィルスでも北海道やイタリア北部など寒い地域で患者の発生が多いことから、一般の呼吸器疾患のように寒さが発症に関係しているのではないかと考えてみるが、最近の傾向では温暖な地域でも発症がみられることから、必ずしも寒さだけではなさそうである。
 インフルエンザも重症化すると肺炎で死亡することが知られているが、それと新型コロナウィルス感染症とどこが違うかが気になる所である。
 インフルエンザは毎年寒い季節に起こる病気で、人類との付き合いも長く、その全貌が良く知られているので、ワクチン接種による予防が行われ、治療薬も開発され、なんとか人為的コントロールが及ぶと思われているだけ精神的な不安は少ない。またインフルエンザの場合は重症度も判っており、治療者側の感染のリスクもあまり深刻ではないと感じる。一般診療で注意することはマスク、手洗い、咳エチケットくらいで、対応に困ることはない。
 ところが得体のしれない新型コロナの場合は治療者や看護にかかわる医療関係者の診療の負担の大きさから、過労・疲労にともなう免疫力の低下も影響していると思われるが、医療者側の感染による死亡も目立っている。またウィルスの病原性が強力であることが次第に明らかになり、医療関係者にも仕事柄感染に対するリスクが高いだけに精神的負担が大きい。その上伝染病として法律による診療の規制もあり、関わりが面倒なものになっているだけにさらに負担が大きい。
 従って漢方薬の効果を確認するという診療行為が簡単にはできない点で新型コロナウィルス感染症に対する漢方薬の効果を直接確認するということは困難である。
 もし一人の新型コロナウィルス感染症の患者がクリニックに受診し、ウィルス反応が陽性に出たら、クリニックは二週間閉院し、濃厚接触者として職員は二週間自宅待機しなければならないという深刻な対応を迫られる。
 もう一つ際立った現象が、新型コロナウィルス感染症の社会的な影響である。病原性の強さ、重症性から社会生活の規制が起こってきて、経済活動が大幅に制約されるようになってきた。日々の生活にもじわじわとしわ寄せが起こってきている現状を見ると、景気の落ち込みからくる経済活動の停滞がさらに深刻になるのは明らかで、その点もインフルエンザと違うように見える。インフルエンザの感染状況の情報が医師会から届いても、クリニックの外来の状況が特に変わることはなかったが、新型コロナの場合、現状では見えない敵に囲まれているような不安が漂っていることは否めない気がする。
 早くCOVID-19の全貌が明らかになって、インフルエンザ並みの対応が許されるようになれば、外来業務も楽になるのだが。当分は慎重に遠巻きに眺めるしか手がなさそうである。
 何か他にできることはないか。風邪に対する抵抗力をつけることである。冷たい飲食物を控える、しっかり睡眠をとる、疲れやストレスをためないなどである。その上で疲れの溜まっている人は疲労回復の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲んでおく。予測される風邪の症状に対して前もって漢方薬を出しておき、おかしいと思ったら内服して風邪の出鼻をくじく。さしあたりこれくらいしか思いつかない。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

四物湯について

 四物湯(しもつとう)は当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)・芍薬(しゃくやく)・地黄(じおう)の四味からなる補血の漢方処方である。補血とは「血を補う」という意味であるから、貧血にいいと思われがちであるが、貧血が良くなるというよりは貧血によって起こった組織の劣化症状を改善すると考えた方がよさそうである。
 血虚によって起こる症状は、血色が悪く、皮膚は潤いがなく、かさついて、髪の毛が抜け全身状態が悪く、それぞれの臓器の働きが低下してくると考えられ、多彩な症状が起こる。
 『金匱要略』(きんきようりゃく)という古い漢方の教科書には四物湯は記載されず、四物湯に艾葉(がいよう)・阿膠(あきょう)・甘草(かんぞう)を加えた芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)という処方が載っている。艾葉・阿膠は子宮からの出血を止める作用があるから、出産のとき出血多量で貧血になり、しかも血が止まらないときに処方される。
 最近注目されていることは、血虚が単なる貧血、つまりヘモグロビンが少ないということではなく、血液そのものの組織に対する作用、すなわち組織への栄養供給が低下するのでその作用が衰えるという見方をしていることである。
 四物湯は少し前に精神科領域で桂枝加芍薬湯合四物湯(けいしかしゃくやくとうごうしもつとう)すなわち“神田橋処方”として注目されたことがあった。神田橋譲治先生によるとパニック障害のフラッシュバックの症状が改善するというのであった。なぜフラッシュバックに効くのか思いつかなかった。
 先日の漢方学会では九州支部会長の田原先生がめまい・立ちくらみや集中力低下を訴える不登校の子供たちに四物湯を含む漢方処方したところ症状が改善した例を報告しておられた。四物湯が精神の働きを回復させたということは四物湯が脳細胞の栄養不良を改善したと考えるべきであろう。それを裏付けるように血液検査ではストレス関連のホルモン機構の活性化を意味するACTHおよびコルチゾール値の上昇が確認されたということであった。つまり脳のホルモン分泌細胞の活性化が証明されたと理解されるのである。
 身体にはいろいろな組織に多種類の細胞があるわけだから、それらの臓器の栄養不良があれば四物湯を含んだ処方を処方すればその機能回復が計られると考えられる。
 そこで思い出したのは恩師小川新先生の言われたことであった。小川先生は漢方における瘀血(おけつ)という病態が難病に関与していることに注目され、日本瘀血学会を立ち上げられた。そして瘀血の腹証の研究もしておられたが、その時に四物湯の腹証を見つけた話をされていた。下腹部の腸骨の内側から側腹部にかけての抵抗圧痛、鼠経上部の抵抗圧痛、恥骨結合上部の不揃いの抵抗が四物湯の腹証であると言われた。その頃私は漢方の初心者で駆瘀血剤その他の基本的な腹証の習得に手いっぱいで、四物湯の意義の理解まで考えが及ばず、聞き過ごしたのであった。最近になってやっと血虚に対する四物湯の臨床的意義などが理解できるようになったら、小川先生の言われたことが思い出され、その意図を少しは理解できるレベルになった気がしている。
 鼠経上部の抵抗圧痛は腸腰筋の凝りではないかと思う。腸腰筋の抵抗の左右差は骨盤の歪みやや背骨の捻じれとなって上部脊椎に連動し、その結果交感神経の過緊張に関連し、自律神経や内分泌中枢にも影響すると考えれば全体四物湯の全身への効果の解剖学的理解につながっていくではないかと思い至った。やっと自分が取り組んだ脊椎骨盤の臨床と四物湯の接点が見つかるところまできたような気がする。
 また、補血の治療が組織や細胞の栄養供給につながるとしたら、組織の老化、変性などによって起こる萎縮した組織の再生にも四物湯が関与すると考えられる。すると血虚・補血は治療学に計り知れない役割を果たすことが考えられ、その可能性を思うと気持ちが震えてくる。これで少し新しい可能性に向かって進めそうである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

リンク
書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
(株)週間レキオ社又は全国の書店および「当クリニック」にて販売中

ブログ内検索
最近の記事
カテゴリー
月別アーカイブ