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七情以前

 漢方医学では病因を内因、外因、不内外因に分けている。外因は気象条件の風寒燥湿熱のこと、不内外因は過労、食事の問題である。さらに内因は七情すなわち喜怒憂思悲驚恐となっている。つまり七情は現代医学的には大脳辺縁系の情動の問題となる。そこで情動がどのようにして形成されるかということが問題で、それを七情以前とした。
 情動とは喜び、怒り、憂い、思いつめる、悲しみ、恐れ、驚きなどの感情であるが、病気の原因となるには、長く、強力に作用しなければならない。たとえば思い詰めることが病気になるためには、ずっといやなこと思い込み続ける状態が続く。そうすると胃やのどのあたりが詰まった感じになる。ものが飲み込みにくい、或いは胃が張ってお腹がすかないという症状になり、食事が取れなくなる。最初は検査で食道や胃に何の変化も見られなかったのに時間が経つと、食道炎や、胃潰瘍、や十二指腸潰瘍を起こしてくることもある。
 この場合、問題は情動の起こる程度に個人差があることである。同じことに対してある人はさらっと受け流して何とも思わないのに、ある人には深刻な問題として作用する。そして病気になるほどの刺激となる人も出てくる。その違いが何によって起こるかということが問題なのである。それを個性と呼べばそれまでであるが、感受性が強すぎて病気になりやすいと、単なる個性というよりは病的な傾向を帯びてくる。このように病的な傾向を帯びた感情を漢方では七情としたのではないかと考える。情緒が安定している場合は感性が豊かであると肯定的に捉えられるが、情緒が不安定な場合は病的な様相を帯びて七情となり、治療を必要とすることになる。
 そこでどのような場合に情緒が不安定になり、病気になりやすい程心が敏感になるのだろうか? その明確な答えはわからないが、そのうちの一つその人の生い立ちに問題があるということに最近気がついた。その人の生育過程の状況がどうであったかを調べるべきであるということを最近又吉正治氏の著書に教えられた。
 両親の夫婦関係が良好で安定した家庭で子供が育てられると、当然その子は情緒が安定し、両親特に母親を絶対的に信頼することから他人をも信頼しやすくなり、心が安定することは容易に理解される。ところが小児期に両親が不和であったり、離婚したりして両親特に母親が精神的に不安定であるとどうであろうか。母親や父親の精神状態が子供に伝わり、子供もいつもびくびくして不安定になることは容易に理解できる。その子は常に不安な状況にあり、神経は過敏になり、集中力がなくなり、落ち着かなるであろう。そして子供の年齢が低いほどその記憶は無意識にしまいこまれ因果関係も忘れられるのではないだろうか。
 そのよう状態で成長して大人になっていったらどうか。その人は人間不信に陥りやすく、常に漠然とした不安にさらされ、その原因を知らないということになるのではないだろうか。これまで私は不安、イライラ、神経過敏などを訴える患者にについて、それらの症状に対応する漢方処方があるので、患者の背景については本人の訴え以上にあまり追及してこなかった。しかし、訳もわからずに不安や不眠、神経過敏になる患者が増え、治療に難渋するようなケースが増えると、何故そのような状況に至ったか考えなければならないと最近痛感し、七情以前の原因を教えられた。
 すなわち七情以前について調べて的確な生活指導をするべきではないかと思うようになった。するとその背景にはその生い立ちすなわち両親の状況、兄弟関係、両親の生い立ち、家系まで調べなければならないという。病院で治らない場合にはユタに行かないといけないこともあると巷で言われることはこのようなことであったようである。
 よく動物の子育ての番組で野生のサルの親子を見ることがあるが、子猿は生まれるとずっと母親のおなかにくっついている。そして成長するにつれて少しずつ親から離れていく距離を伸ばすようになる。そして一定期間が過ぎると親離れ、子離れが起き一人前の猿となり、群れの中で生きていくことになる。ところが動物園の猿では親が子育てを放棄したり、子供に関心を持たなくなる場合があり、子ザルは飼育員が世話しなければ死んでしまうこともあるらしい。なぜ猿が子供を育てないかというと、親にちゃんと育てられなかったからである。つまり子育ての学習をしていないのである。学習をするためには情緒が安定してなければならない。母親に守られているという絶対的な安心が必要なのである。
 このように野生の動物の姿に素朴な七情以前のあり方が表現されていることに気が付いた。現在の社会で幼児虐待、うつ状態の多発、学校のいじめ、通り魔的衝動殺人など深刻な社会問題が多発しているがその解決の糸口すら見えていないように見える。我々はもう一度野生を振り返り、その中で人間が失ったものを検証する必要があるのではないかと思う。
 漢方は病因の七情から診察をスタートするのであるが、それ以前の問題にも目を向けないと効果的で的確な治療や予防ができないと感ずるようになった。そして根が深い病態は簡単には解決できないことも理解されてきた。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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