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瘀血について

 大学時代、漢方の勉強を始めようと思ったとき訪ねた方が小川新先生であった。そのとき瘀血という、大学では聞いたこともない言葉を使われた。卒業して5・6年たったころ小川先生の主宰された瘀血研究会の論文集『瘀血研究』が届いた。
 瘀血という言葉は西洋医学にはないため瘀血というものの考え方になじめなかった記憶がある。瘀血は漢方において重要な概念で、難しいわけのわからない病気には必ず瘀血が絡んでいるといわれてきた。そこで瘀血の実体を明らかにして治療医学への応用の道を開こうというのが瘀血研究会の目的であったと記憶している。
 そもそも瘀血の瘀は滞るという意味だそうである。したがって瘀血は血が滞っている状態、あるいは滞っている血そのものという意味になる。血が滞るということは医学的には末梢循環不全と同じ意味になる。つまり血流の末端になる毛細血管レベルで、組織に酸素・栄養を届け、二酸化炭素、老廃物を運び出す血液の作業が正常に行なわれなくなるため、組織が正常で健康な状態に維持されないことを意味している。そうすると身体はいろいろな変調をきたしてくる。肩こり、頭痛、腹部膨満、便秘、血色の異常、イライラ、不眠、夜間の固定性の痛みなどなどである。具体的に何処がどのようにおかしいというわけではないが漠然とした異常感が起こるようである。いわば漢方で言う未病の状態である。この状態が続くとそのうち具体的に内臓に異常が起こってくるのであろう。癌、膠原病、子宮筋腫、脳出血、心臓病、肝臓病・・・。
 このような瘀血が原因で起こる病気の一つが膠原病で、膠原病の一種に強皮症がある。それは皮膚あるいは皮下組織に繊維化が起こり、皮膚が硬くなる病気である。繊維化というのは我々が怪我をしたとき皮膚の傷は瘢痕を残して治癒する。その傷跡の瘢痕が線維組織であると考えたらよい。一見正常の皮膚のように見えるが、皮膚本来の機能すなわち発汗や温度の変化による収縮などの調節作用が起らない間に合わせの充填組織である。
 強皮症で組織の繊維化は皮下組織だけではなく、内臓にも起こってくる。それは息切れ、動悸、胸部圧迫感などの心臓や肺の症状、物が飲み込みにくい食道の平滑筋が硬くなったなどの症状である。その他、腎臓、肝臓、骨格筋など線維組織に置き換えられるとそれぞれの組織の働きが低下してくる。つまり正常の組織が線維組織に変わると、臓器本来の働きが傷害されるので当然生命を維持することが困難になり、ついには死にいたる。
 最近、全身性強皮症の人を、組織の繊維化が瘀血であるという考え方にもとづく漢方治療で効果を挙げた症例を経験した。それは漢方の大家、山本巌先生の『組織の繊維化は瘀血である。』という提言に従った治療であった。
 この考え方は病気の成り立ちについて重要な示唆を与えている。極端な話、老化は組織の萎縮により起こるのであるが萎縮した組織は線維組織に置き換わっていく。すると瘀血の治療を行なうことは組織の若返りに関連してくることが理解される。さらに考え方を広げると組織障害を起こすあらゆる病気、特に膠原病などの難病では瘀血が背景にあると考え、治療の基本に駆瘀血剤を使用することで治療効果があがることになる。内科の慢性的な疾患は根治がむずかしいが、駆瘀血剤を根気よく使うことで組織を少しでもより正常な状態に近く持っていくことができるのではないかという発想が生まれる。強皮症の症例はそういうことを教えてくれた。
 ちなみに駆瘀血剤とは当帰、川芎、紅花などの末梢循環を改善する生薬と桃仁、牡丹皮、蘇木、丁香、芍薬など血液をさらさらにする生薬、更に血の巡りを促進する気剤と組み合わされた方剤である。代表的な駆瘀血剤は芎帰調血飲、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯、通導散などである。さらに古い瘀血には動物生薬、蛭、虻、ごきぶりの一種などの生薬を混ぜた下瘀血湯、大黄シャ虫丸、抵当丸などの処方がある。
 駆瘀血薬の効果的な使用がいわゆる難病治療の突破口になりうることをやっと実感できるようになった。そしてそれこそ恩師小川新先生が瘀血研究会を結成して現代医学の限界を突破しようとした意図でもあった。改めてスタートラインに立った気がする。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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