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四物湯について

 四物湯(しもつとう)は当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)・芍薬(しゃくやく)・地黄(じおう)の四味からなる補血の漢方処方である。補血とは「血を補う」という意味であるから、貧血にいいと思われがちであるが、貧血が良くなるというよりは貧血によって起こった組織の劣化症状を改善すると考えた方がよさそうである。
 血虚によって起こる症状は、血色が悪く、皮膚は潤いがなく、かさついて、髪の毛が抜け全身状態が悪く、それぞれの臓器の働きが低下してくると考えられ、多彩な症状が起こる。
 『金匱要略』(きんきようりゃく)という古い漢方の教科書には四物湯は記載されず、四物湯に艾葉(がいよう)・阿膠(あきょう)・甘草(かんぞう)を加えた芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)という処方が載っている。艾葉・阿膠は子宮からの出血を止める作用があるから、出産のとき出血多量で貧血になり、しかも血が止まらないときに処方される。
 最近注目されていることは、血虚が単なる貧血、つまりヘモグロビンが少ないということではなく、血液そのものの組織に対する作用、すなわち組織への栄養供給が低下するのでその作用が衰えるという見方をしていることである。
 四物湯は少し前に精神科領域で桂枝加芍薬湯合四物湯(けいしかしゃくやくとうごうしもつとう)すなわち“神田橋処方”として注目されたことがあった。神田橋譲治先生によるとパニック障害のフラッシュバックの症状が改善するというのであった。なぜフラッシュバックに効くのか思いつかなかった。
 先日の漢方学会では九州支部会長の田原先生がめまい・立ちくらみや集中力低下を訴える不登校の子供たちに四物湯を含む漢方処方したところ症状が改善した例を報告しておられた。四物湯が精神の働きを回復させたということは四物湯が脳細胞の栄養不良を改善したと考えるべきであろう。それを裏付けるように血液検査ではストレス関連のホルモン機構の活性化を意味するACTHおよびコルチゾール値の上昇が確認されたということであった。つまり脳のホルモン分泌細胞の活性化が証明されたと理解されるのである。
 身体にはいろいろな組織に多種類の細胞があるわけだから、それらの臓器の栄養不良があれば四物湯を含んだ処方を処方すればその機能回復が計られると考えられる。
 そこで思い出したのは恩師小川新先生の言われたことであった。小川先生は漢方における瘀血(おけつ)という病態が難病に関与していることに注目され、日本瘀血学会を立ち上げられた。そして瘀血の腹証の研究もしておられたが、その時に四物湯の腹証を見つけた話をされていた。下腹部の腸骨の内側から側腹部にかけての抵抗圧痛、鼠経上部の抵抗圧痛、恥骨結合上部の不揃いの抵抗が四物湯の腹証であると言われた。その頃私は漢方の初心者で駆瘀血剤その他の基本的な腹証の習得に手いっぱいで、四物湯の意義の理解まで考えが及ばず、聞き過ごしたのであった。最近になってやっと血虚に対する四物湯の臨床的意義などが理解できるようになったら、小川先生の言われたことが思い出され、その意図を少しは理解できるレベルになった気がしている。
 鼠経上部の抵抗圧痛は腸腰筋の凝りではないかと思う。腸腰筋の抵抗の左右差は骨盤の歪みやや背骨の捻じれとなって上部脊椎に連動し、その結果交感神経の過緊張に関連し、自律神経や内分泌中枢にも影響すると考えれば全体四物湯の全身への効果の解剖学的理解につながっていくではないかと思い至った。やっと自分が取り組んだ脊椎骨盤の臨床と四物湯の接点が見つかるところまできたような気がする。
 また、補血の治療が組織や細胞の栄養供給につながるとしたら、組織の老化、変性などによって起こる萎縮した組織の再生にも四物湯が関与すると考えられる。すると血虚・補血は治療学に計り知れない役割を果たすことが考えられ、その可能性を思うと気持ちが震えてくる。これで少し新しい可能性に向かって進めそうである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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