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急性疾患における本治と標治

 本治について考えていたら、急性疾患の場合の本治と標治について考える必要に迫られた。なぜなら救命救急の場合まず命を救うことを最優先に対応しなければならないから、標治・本治という見方はできないのではないかと考えたからである。
 自分が救急医療を担ったとき、先ず救命のために何をすべきかが問題であった。目の前の患者をいかに救うか瞬時の対応を迫られる。気道を確保し、人工呼吸を施し、心肺蘇生を行う。その時原因探しは後回しになる。急性感染症の場合も起炎菌に効果のある抗生物質を選択して病気の進行を食い止めなければならない。外傷による内臓破裂や出血でもできるだけ速やかに破損部位を修復し、汚染や失血を止めなければならない。これからわかることは救命救急の場合は、目の前の病状を即座に把握し、救命のための治療に入ることが大事である。
 江戸時代の疾医といわれる吉益東洞、永富独蕭庵、原南洋、尾台容堂あたりの治験例は救命救急であったから標治・本治はあまり問題にならなかったと思われる。
 例えば胃潰瘍からの出血は、原因は何であれすぐ止血しなければならない。内視鏡による薬剤注射により止血に成功すると内服による胃潰瘍の治療を続ける。それは潰瘍の原因に対する根本治療ではない。あくまでも潰瘍を治す治療である。ところがなぜ潰瘍ができたかというとその人の生活に潰瘍を起こすような要因があったと考える。職場の人間関係によるストレスかもしれない。残業続きの過労かもしれない。すると根本的に潰瘍を治すためには、ストレスの認識、調整が必要になる。ところが現代医学では、しばらく潰瘍の治療を続けて薬を中止して再発の有無を観察するが、その時は特別に他の治療は行わない。つまり本治がない。最近の医学ではピロリ菌がどうも影響しているらしいと除菌治療に力が入れられているが、本治たりえるのか疑問がある。なぜなら除菌した後も胃のあたりの不快感を訴えて見える患者さんは珍しくないからである。
 私の漢方外来では内視鏡を直接実施するわけにはいかないので、臨床症状を指標に治療を行うのであるが、そのときその人の生活の何が胃の不調に最も影響しているかを問診によって探り出し、それに対して生活指導を行い、本治につなげていく。衣食住の問題、職場の人間関係や勤務状況、睡眠時間など社会生活全体に目を向け、どのあたりに問題があるか検討をつける。漢方処方だけでなく病気を引き起こす根本原因にも目を向けて病根を断つようにするのが本治となる。
 現代医学はとにかく潰瘍が治る臨床効果を重視する。薬を飲んだ人と飲まない人の潰瘍の治り具合の差を観察して有効性を確認する。いわゆる二重盲検試験である。これで効くとなれば潰瘍が治るまで内服を続ける。そして再発の有無を確認して治療を終わる。そのとき衣食住の問題や社会生活にかんする問題点についてほとんど問題にしてこなかった。再発をした場合その原因はどこにあるのか不明のままである。多くの場合薬の効果が不十分であったということになるのだろう。
 このようにみると本治、標治という考え方は漢方独特の概念でしかも慢性疾患の治療の場合に問題になる概念であるあることがわかる。ということは西洋医学の治療は原理的に対症療法で本治がないことを意味する。すなわち漢方で疾患の本治を追及することは病気の治療の新たな対応を開くことになりそうである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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