漢方における最近の癌治療

 若いころは癌という病気について、漢方で何とかしなければと悲壮感に満ちて何が何でもねじ伏せようという意気込みで対峙していたように思う。しかし振り返ってみるとあの頃は漢方薬の使い方の技術が未熟であった。今でも未熟ではあるが。また死に向き合う深刻さから肩に力が入りすぎていたように思う。
 ところが最近は大分変ったと感じる。癌で見えるほとんどの患者さんは病名や予後について告知され、厳しい状況であることを自覚して漢方治療を求めてこられる。またお互いに簡単に治るとも思っていないので、ダメ元という気持ちのゆとりを持てるのがいいのではないかと感じる。
 漢方薬の使い方の技術については漢方を30年以上も続けてくると、情報と経験からある程度は見通しが立ってくる。またクリニックでの外来治療を前提としているので、入院が必要になれば、病院の主治医に引き受けてもらえるということも精神的負担をかるくしてくれる。治療する側もリラックスできるようになった。
 さて専門的になるのであるが、癌は瘀血であるという考え方が漢方の基本にある。従って駆瘀血薬という範疇の漢方薬を使えばよいということになっている。瘀血とは滞った血液という意味で、それによって起こる血の巡りの悪さから起こる体の状態を瘀血とみて、その瘀血の病態から癌が起こると考える。瘀血には熱をもった瘀血と冷えた瘀血の区別があり、前者は通導散(つうどうさん)、後者は芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)を基本にした治療を山本巌先生は提唱しておられる。その基本的な考えを知っただけでも、だいぶ気分的に救われた思いがしている。駆瘀血薬を使うと癌の発育する環境が改善され、痛みの症状などが緩和され、運が良ければ治らないまでも病気がおとなしくなりそうなのである。そのうえで全身状態を改善する適当な漢方薬を組み合わせ得ればよい。
 80代の老人が肝内胆管癌でステントを入れて黄疸は良くなったが、食欲もなく、元気がなくなったと来られた。そこで通導散加桃仁牡丹皮という煎じ薬に、全身の免疫力を上げる補中益気湯エキス、胆汁排泄を促進する茵沈五苓散エキスを合わせて処方した。すると食欲が出て体重が増えて元気になり、農作業にも出られるようになった。すると少し外来がおろそかになってきた。しばらくして姿が見えなくなったので聞くと、どうも入院しているらしい。外来通院中の検査で腫瘍マーカーは上昇していたので病気は進んでいるだろうとは思われた。そして結局最近亡くなられたという。しかし半年近くも持ち直して元気に農作業に戻れたのは大きな救いではなかったかと考える。漢方薬の手ごたえを感じた。
 症状がよくなって外来が少し遠のいたころ、「自分の病気は何か知っておられますか?」と聞いたら「癌です」と答えられたので、「難しい病気ですからしっかり漢方薬を飲んだ方がいいですよ」と伝えたのではあるが、一時的にはせよQOLが改善したのは、まあ手ごたえはあったと感じている。このように癌は少しでも良くなれば儲けものという気持ちで命を見据えながら治療ができるようになったのは年を重ねたことによるゆとりではないかと思う。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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