本治と標治

 漢方には本治と標治という言葉がある。標治とは現在表れている症状に対する治療いわば対症療法である。鼻炎であれば鼻づまり、くしゃみ、鼻水の症状を抑えることで、それに対し上気道を温める治療を行う。薬を飲み続けると自然に症状は軽減していくが、薬をやめるとすぐに症状がぶり返すのは根本的な原因にたいする治療が行われていないからである。本治というのは本を治すという事で、病気の根本原因を治すことである。根本原因は漢方で病因となる外因、内因、不内外因とされ、それらのどれが病気の根本的な原因であるか追及しなければわからない。鼻炎に頻用される小青龍湯の場合、上気道を温める生薬と、甘草乾姜という胃腸を温める生薬が組み合わされている。すなわち上気道や胃腸の冷えという病理があることを示している。すなわち気道の冷えによる症状が胃腸の冷えという根本原因によっておこっていることを示している。すなわち鼻炎であれば体の冷えが根本にあるから、生活のどこに体を冷やす原因があるのか調べ、衣食住を調えなければならない。そこに踏み込んでいくことが本治となる。すなわち根治になる。
 鼻炎で体格がいい人では冷たいものすなわちビール、アイスクリーム、果物などをよく摂取していることが多い。すなわち、冷える飲食物を控えさせることが根治になる。鼻炎でも冷たいものを飲んでいないという人はお菓子や果物が好きという人が多い。砂糖や果物は体を冷やすと漢方では考えている。お菓子も果物もあまりとらない人は生来胃腸虚弱なための冷え症であると考え、根気よく胃腸の働きをよくするような漢方薬、理中湯(りちゅうとう)や小建中湯(しょうけんちゅうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲まなければならない。
 そして本治には時間がかかるし、何よりも病気の本態を見抜く医師の力量が必要とされる。病気の原因が生活にあり、生活の問題が貧しさや社会制度に基因するような場合に医師が行政に口を出すことになるかもしれない。つまり本治は病気の本質に対する根本治療であるから適切な生活指導が出来なければならないし、それは医者にとっても患者にとっても手間暇がかかる作業で、病気をよく理解して根気よく治療を続ける信頼関係が必要になる。
 また漢方的に病態生理が明らかになれば病気の根本的な原因がわかり、根治への手がかりも見つかるが、病態がわからないと結局標治に終始してしまう。
 病気の原因がその人の価値観や生き方にまで行き着いてしまうとそれはその人の人権の問題にもなる。本人の理解で得られ許される範囲で病気の根本原因の軌道修正を図るしかないし、最終的には本人の意識に任せるしかない。病気の本治となると思いのほか根が深く泥沼にはまっていきそうである。
 現代医学的治療は多くの場合標治であるように見える。薬をやめるとすぐ症状が表れる。しかし色々な病気特有の不快な症状を抑えるだけでも進歩であると認識すべきかもしれないとも考える。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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