今年の風邪

 今年の初め、まだ暖冬でインフルエンザが多くない頃、風邪で咳を訴える人が目立った。多くは痰の少ない空咳が一定の間隔を置いて激しく起こる。喉から気管支に至る気道が乾燥しているため、痰が切れにくいので、勢い激しい咳になり、やっとで痰が少し出ると止まる。それを繰り返すのである。つまり風邪の急性期の症状が治まり、咳だけ残る。このような咳を“大逆上気”といい、麦門冬湯(バクモンドウトウ)がよく効く。胃腸の働きを良くして、腸から吸収された水を肺に運び、痰を柔らかくして出しやすくする結果、咳が治まるのである。
 ところが2月になると暖冬が一変して厳冬に変わり、インフルエンザの患者さんが目に付くようになった。悪寒、発熱、筋肉痛や関節痛を訴え、汗をかかず、お腹を触ると皮膚の表面が熱く、熱感が強い。脈は力強く、高熱を出す。このような風邪に使う処方は大青竜湯(ダイセイリュウトウ)である。悪寒、発熱、汗をかかない、関節痛がある、脈が浮いて緊張しているという所見を呈する麻黄湯(マオウトウ)よりもさらに熱感が強く、麻黄湯でも汗をかきにくい一番難儀な風邪が大青竜湯の適応である。横になっても体が休まらず転々として身の置き所がない状態を煩躁というが、大青竜湯の風邪はこの煩躁を伴う。大青竜湯には麻黄と石膏と桂枝が配合され、強力に発汗を促すことで解熱する仕組みになっている。大青竜湯で風邪が治せるようになると、漢方で風邪はなんとかなる、とほっとしたことを思い出す。
 ところが、漢方のエキス剤には大青竜湯がないので、先輩方は越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)と麻黄湯のエキス剤を組み合わせたり、麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)と桂枝湯エキスを組合わせたりして、麻黄、石膏、桂枝を含む大青竜湯と同じ効が得られるように工夫しておられる。このような処方で治療すると煩躁の状態でもよく熱が下がり、早く楽になることを経験している。
 風邪の治療の原則は温かく安静にして、温まり、汗をかくことである。十分体が温まると自然に発汗して解熱する。薬だけ飲んでも安静を怠り、冷たいものを飲んで、温める漢方薬の作用を弱めると風邪はこじれて長引いてしまうことを知らなければならない。
 人体は自動調節の限界を超えて冷えると代謝を上げ発熱し、体温の高いうちに治ろうと戦っているように見え、これを陽証と言い、温まろうにも体温をあげる体力がなく熱も出せない悪寒の厳しい状態を陰証といった。陰証の風邪はより重篤で余裕がないことが理解される。陰証の状態に対する治療法を知っていた点で漢方は現代医学より風邪の治療に優れていた。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

リンク
書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
(株)週間レキオ社又は全国の書店および「当クリニック」にて販売中

ブログ内検索
最近の記事
カテゴリー
月別アーカイブ