実証の便秘

 漢方ではいろいろな症状について、まず陰陽を鑑別し、その次に虚実を鑑別する。陰・陽というのは陰証か陽証かということ。陰証では新陳代謝が極度に衰微して生命活動が低下しており、新陳代謝を鼓舞すること、温めることが治療の基本になる。陽証では新陳代謝が盛んで、発熱傾向を示す熱証に傾くため、体を冷やす治療が基本となる。陽証の中ではさらに虚・実の鑑別が必要であり、実証は余分な病邪を排除する治療が基本となり、虚証では元気を補い自然治癒力を助ける、補の治療が基本となる。
 さて便秘であるが、便秘にも虚実がある。虚証の便秘については以前に紹介したことがある。便秘の原因が、消化管の元気が衰えた気虚にあり、消化管の蠕動運動が低下しているため、消化管の元気をつけて正常の蠕動運動がおこるような治療を行う。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、小建中湯(しょうけんちゅうとう)など胃腸を元気にする処方を使うと下剤を使わなくてもスムーズに排便するようになる。
 今回は実証の便秘について紹介する。実証の便秘は比較的治療がやさしい。なぜなら消化管の動きは活発であるが、過剰に痙攣して排便がスムーズにいかないため、下剤の入った処方を適切に選ぶと多くの場合、スムーズな排便が得られるからである。たとえば桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、大承気湯(だいじょうきとう)、大柴胡湯(だいさいことう)、大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)などで比較的楽に通じがついて喜ばれることが多い。これらの処方には強力な瀉下作用をもつ大黄あるいは大黄・芒硝という生薬の組み合わせが含まれている。
 ところがこれらの下剤でも便が出ない難治例に時々遭遇する。そのような場合は大黄・芒硝の下剤の量を増やしてもすっきりした排便が得られず、蠕動運動を促進する枳実、厚朴などの理気剤を増やした処方でやっと排便が得られる場合がある。たとえば桃核承気湯エキス剤を常用量の二倍にして、やっと排便が得られたことがあった。また普通の人は煎じ薬で大黄芒硝、2~3グラムで激しい下痢をするのに、その量でほとんど変化がなく、7~8gまで増量してもまだすっきりしないため、さらに厚朴、枳実を加えて腸の運動をさらに強力に刺激してやっとうまくいった例がある。さらに、これに杏仁、麻子仁を加えて便の滑りを良くしてやっと排便を見た例もある。このように実証の便秘でも難治になると相当苦労する場合があることを経験した。
 そのような人はいつも便が出ないと訴えるので、スムーズに便が出たときは、あたかも自分の便秘もよくなったような開放感を味わう。
 子供の頑固な便秘は生活習慣によるものがあるので要注意である。朝寝坊して学校に間に合わないので便意をこらえて登校し、学校では便所が臭いのでいやだと我慢しているうちに便意が起こらず、1~2週間それ以上も便が出なくなるということがある。このような場合、早起きしてゆっくりトイレに入る習慣をつける必要がある。ある子はひどい便秘のため、朝の忙しいときに長時間トイレを占領すると家族に悪いと考え、時間をかけて便を出すために朝5時に起きていた。
 また便の硬さは含まれる水の量によって決まってくる。水分の摂取が少ないと便が難くなり、便秘の原因になることもあるので、特に高齢者の場合は生理的にも脱水の傾向があるので特に十分な水分摂取が必要である。
 最近関心が高まっている糖質制限ダイエットの場合もタンパク質中心の食事で食物繊維が不足すると便秘しやすくなるので、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)など下剤の入った処方を併用することが多い。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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