夏に見られるわかりにくい二つの病態
毎年夏になると、今年の夏は特別暑いと最近思うのであるが、猛暑日の発生回数は明らかに以前より増えているのではないかとテレビの天気情報を見て思う。それを裏づけるように熱中症で運ばれる人は昨年より増加し、その中で死亡する人も後を絶たない。
そこで最近では外来では気分が悪いというとまず熱中症ではないかと疑って診察することにしている。口の乾き、汗の書き具合、便秘の有無、尿の出具合、体のほてり感、頭痛などの症状を確認する。そして手の甲の皮膚を摘み上げて、皮膚の乾き具合とつまんだ皮膚のもどりの悪さを確認する。頭痛、気分が悪いという場合、普通は感冒を考えるが、熱中症がらみの場合は寒気がないので鑑別できる。
つまんだ皮膚の戻りが悪い場合に熱中症に対する注意を喚起すると、意外にも本人が脱水に気づいていないことが多い。特に気分が悪い場合には点滴を行う。口渇や吐き気があると柴苓湯(さいれいとう)、動悸があると炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などの漢方薬を飲んでもらう。症状が軽い場合は水分の摂取を促し、胃腸から水の吸収を促す五苓散(ごれいさん)や、暑気あたりの清暑益気湯(せいしょえっきとう)、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などを処方する。とくに高齢者の場合自分では水分をよくとっているつもりでも、実際にはあまり飲んでおられない方が多い印象を受ける。注意して水分やミネラルの摂取の重要性を強調すると感謝される。クーラーをつけているので熱中症にならないと思っておられる方もおられるので要注意である。
一方、最近熱を出して入院していろいろ検査をしたが原因不明で退院したという方が見えた。発熱の症状がある場合、感冒や細菌感染、膠原病などの病気を疑って検査するのが一般的な対応であるが、それで原因がはっきりしない場合には治療の仕様がないことになる。最近特に暑いのでクーラーの中で長時間過ごし、冷たいものを摂りすぎて体を冷やすと発熱してくるのである。そのような場合は発熱しているにもかかわらず、血液検査やCT,MRIなどの検査で大きな異常が見つからないのである。その病態は、冷えすぎて自動調節では体温の維持ができないため、体温を保つ非常手段として発熱して体温を維持しようとしている体の仕組みによるのではないかと私は考える。
また食欲がない、元気がないという人が見えた。手の甲の皮膚を摘み上げて見ると皺の戻りが悪いので、脱水があるので水分摂取を確認したところ、しょっちゅう水は飲んでいるということであったが、腹を診察してみると胃のあたりがヒヤッとして冷たい。冷たいものを飲んでいるのではないかと問いただすと、暑いので冷蔵庫でキンキンに冷やした水を飲んでいるという。これで脱水と食欲不振、全身倦怠感の謎が解けた。冷たい水分をとると胃が冷えて動かなくなる。すると吐き気がして食欲がなくなる。冷えた胃腸は消化吸収が悪くなるので、飲んだ水も吸収されない。すると水を飲んでも胃にたまるだけで吸収されず、血管の中の水は増えず、全身にも水が運ばれないので水を飲んでも脱水の状態のままになる。飯は食えない、水を飲んでも吸収されない、元気はないという状態になるのである。この方の場合はまず点滴をしながら脱水を改善し、その間に附子理中湯(ぶしりちゅうとう)を飲ませると本人が気づくほどに胃が温まってきた。そこで温かい白湯をのますと胃も楽になって、食事もとれるようになってきた。胃を冷やす冷たい水やコーヒー、果物などを控えるように厳しく注意して帰ってもらった。漢方ではコーヒーの性味は苦寒で、ホットでも胃を冷やすと考える。おしゃれな飲み物であるが元気のない人は要注意である。
暑い季節は熱によって温まりすぎて、水分摂取が追い付かないと熱中症になる危険性がある一方、暑さをしのぐために冷たいものを摂りすぎて胃腸や体を冷やしすぎて不調を起こす逆の現象も起こる二面性があることに注意する必要がある。このような病態は漢方的な病態認識をもたないとわかりにくいのではないかと私は考えている。
そこで最近では外来では気分が悪いというとまず熱中症ではないかと疑って診察することにしている。口の乾き、汗の書き具合、便秘の有無、尿の出具合、体のほてり感、頭痛などの症状を確認する。そして手の甲の皮膚を摘み上げて、皮膚の乾き具合とつまんだ皮膚のもどりの悪さを確認する。頭痛、気分が悪いという場合、普通は感冒を考えるが、熱中症がらみの場合は寒気がないので鑑別できる。
つまんだ皮膚の戻りが悪い場合に熱中症に対する注意を喚起すると、意外にも本人が脱水に気づいていないことが多い。特に気分が悪い場合には点滴を行う。口渇や吐き気があると柴苓湯(さいれいとう)、動悸があると炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などの漢方薬を飲んでもらう。症状が軽い場合は水分の摂取を促し、胃腸から水の吸収を促す五苓散(ごれいさん)や、暑気あたりの清暑益気湯(せいしょえっきとう)、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などを処方する。とくに高齢者の場合自分では水分をよくとっているつもりでも、実際にはあまり飲んでおられない方が多い印象を受ける。注意して水分やミネラルの摂取の重要性を強調すると感謝される。クーラーをつけているので熱中症にならないと思っておられる方もおられるので要注意である。
一方、最近熱を出して入院していろいろ検査をしたが原因不明で退院したという方が見えた。発熱の症状がある場合、感冒や細菌感染、膠原病などの病気を疑って検査するのが一般的な対応であるが、それで原因がはっきりしない場合には治療の仕様がないことになる。最近特に暑いのでクーラーの中で長時間過ごし、冷たいものを摂りすぎて体を冷やすと発熱してくるのである。そのような場合は発熱しているにもかかわらず、血液検査やCT,MRIなどの検査で大きな異常が見つからないのである。その病態は、冷えすぎて自動調節では体温の維持ができないため、体温を保つ非常手段として発熱して体温を維持しようとしている体の仕組みによるのではないかと私は考える。
また食欲がない、元気がないという人が見えた。手の甲の皮膚を摘み上げて見ると皺の戻りが悪いので、脱水があるので水分摂取を確認したところ、しょっちゅう水は飲んでいるということであったが、腹を診察してみると胃のあたりがヒヤッとして冷たい。冷たいものを飲んでいるのではないかと問いただすと、暑いので冷蔵庫でキンキンに冷やした水を飲んでいるという。これで脱水と食欲不振、全身倦怠感の謎が解けた。冷たい水分をとると胃が冷えて動かなくなる。すると吐き気がして食欲がなくなる。冷えた胃腸は消化吸収が悪くなるので、飲んだ水も吸収されない。すると水を飲んでも胃にたまるだけで吸収されず、血管の中の水は増えず、全身にも水が運ばれないので水を飲んでも脱水の状態のままになる。飯は食えない、水を飲んでも吸収されない、元気はないという状態になるのである。この方の場合はまず点滴をしながら脱水を改善し、その間に附子理中湯(ぶしりちゅうとう)を飲ませると本人が気づくほどに胃が温まってきた。そこで温かい白湯をのますと胃も楽になって、食事もとれるようになってきた。胃を冷やす冷たい水やコーヒー、果物などを控えるように厳しく注意して帰ってもらった。漢方ではコーヒーの性味は苦寒で、ホットでも胃を冷やすと考える。おしゃれな飲み物であるが元気のない人は要注意である。
暑い季節は熱によって温まりすぎて、水分摂取が追い付かないと熱中症になる危険性がある一方、暑さをしのぐために冷たいものを摂りすぎて胃腸や体を冷やしすぎて不調を起こす逆の現象も起こる二面性があることに注意する必要がある。このような病態は漢方的な病態認識をもたないとわかりにくいのではないかと私は考えている。