何故病気になると発熱するのか

 人間の最も代表的な病気は風邪であるが、風邪の初期症状は頭痛・悪寒・発熱で、発熱を伴うことが多い。風邪以外の感染症でも例えば細菌性疾患でも発熱するのがふつうである。膠原病や白血病なども原因不明の発熱で発症することがある。発熱が人体の病気の最も一般的な症状であることは間違いないが、人体はなぜ熱を出すのだろうか。
 人間は恒温動物で哺乳類に分類されている。恒温動物はどのような環境下でも体温を一定に維持できるように進化した体温調節機能を備えて、活動における最大の自由度を獲得した。ところがいつでもどこでも活動できる自由と引き換えに風邪を引くことを余儀なくされたように見える。
 体温を維持するということは、生まれてから死ぬまで代謝活性を維持し、熱を発生させなければならないことを意味する。そのために燃料となる食物を消化管から吸収し、それから燃料を精製し、その燃料を呼吸器である肺から取り入れた酸素で燃やし、熱を発生させ、体温を維持する。使用済みの酸素は炭酸ガスCO2として呼気によって排泄する。さらに体温の調節は呼気の水蒸気や汗、尿、糞便に含まれる温かい水分として排泄されることにより余分な熱を排泄することによって行われる。つまり水分の排泄量を調節することによって体温を調節するように進化してきたのである。人体も水の惑星地球と同じように水の循環・調節による恒常性を獲得したのであった。そして体温を維持できなくなると死を迎える。
 ところで体温の調整は水の排泄量を自動的に調節することによって行われるが、それは具体的には発汗、排便、排尿による水の量を調整することによるが、それらは自律神経とホルモンの働きによって行われる。
 ではなぜ人は発熱するのだろうか。風邪を引くのは自動調節で体温を維持できなくなった時である。かなり気温が下がったのに薄着をしていて自動調節で体温を維持できなくなったとき、体温コントロール中枢が非常用の体熱産生装置のスイッチを入れ、悪寒と震えが起こり、筋肉の収縮により熱を発生させる非常用発電を起こし、体を温め体温を上げる。その非常用発電でも十分体温が上がらない時に葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)でもう一段皮膚を温めてやると、十分温まったところで体は発汗して、解熱する。十分温まった体温レベルをセットポイントと呼んでいる。
 冷えの程度が強く体の深部まで冷えると、より広範囲の組織が熱を帯びてくる。すなわち病気が進むと、より深い範囲に発熱するので、熱を冷ます方法も一筋にはいかない。風邪の場合、少しこじれた場合、咽喉や気管や気管支あたりまで熱を帯びると咳が止まらなくなり、粘っこい黄色みを帯びた痰を出すようになる。漢方ではこの状態を肺熱と呼び、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)を使う。これには石膏が入っており気道や肺の熱を冷ます作用があり、その結果咳も収まる。
 インフルエンザのように、より強い寒さにより強力に体が冷えると、生体は思い切ってセットポイントを上げ、熱により身の置き所がないような状態になる。そんな時、大青龍湯(だいせいりゅうとう)により強力に発汗させ熱を下げるのであるが、その中にも石膏が入っている。
 生体の代謝活性が旺盛であると、より強力な冷えに対しても広範囲に発熱して炎症を起こすが、このように激しい発熱反応を起こすことができる病態を陽病という。反発して発熱した結果ひきおこされた、より深く段階的に広がる範囲の熱を冷ますため、その部位に因り発汗、下痢、排尿など、水を排泄する種々の作用の薬を組み合わせて、体温を下げる処方が組み立てられた。発熱する人体で、その体温を調節するための適切な生薬を組み合わせすなわち漢方処方を見つけるのに一定の学習と経験が必要となる。
 外の冷えに対して反発する力が弱く、体がどんどん冷えてしまう場合を陰病という。人参や乾姜、附子など代謝活性をあげる生薬の入った処方を使う。
 人間はいつでもどこでも活動できるという自由と引き換えに風邪を引くという宿命を背負ったように見える。また清涼飲料水やクーラーなど、そんなに強くない冷えの作用でも、長く繰り返しているうちにボディーブローのように効いて、体の深い部分まで冷え、その反発で発熱し、膠原病などの複雑な病態の慢性炎症性疾患を引き起こしてくるように見える。
 そのような観点から体温の調節を眺めたら、新な病気の治療のヒントが得られそうである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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