針治療について

 私は漢方の勉強を始めた時から一方で針による治療を試みてきた。中部病院で卒後研修を終えて県立八重山病院に赴任し二年ほどたった昭和57年頃、漢方の勉強を始めようと思い立って、学会の帰途に広島の小川外科へ見学に立ち寄った。その時漢方の診療風景を見せていいただき、針の打ち方も教えていただいた。
 その後八重山病院に戻ったら出張前に手術をした老人の付添いの方がその隣のベッドに横たわっていた。看病疲れで持病の腰痛が起こり、動けないという。ちょうど針治療用の針があったので、うつぶせになって腰を出してもらい、腰部脊柱の両側の太陽膀胱経の圧痛点に針を刺し、しばらく置いた。回診が終わったころもう一度、そのベッドへ行き、針を抜いたら、患者はすぐ起き上がってベッドの上に座り、腰痛がとれたと喜んでいた。「先生の針はほかの針とは違う」といわれた。これが私の最初の針の治験例で劇的に効果があった。
 あれから自分で簡単な針の本を読みながら皮内針を使って、生理痛やぎっくり腰、つわりの治療を行った。初歩的な針治療は痛む場所の圧痛点に針を置鍼して抜く方法であったが、それなりに効果はあった。しかしあたかも鎮痛剤を使うようで翌日には効果がなくなっていた。もう少し根治につながるような治療はないか探していたら、ある鍼灸師が臀部に針をすると膝の痛みが良くなることを教えてくれた。それは私にとって痛みのある場所以外の治療点で針の効果を上げる初めての遠隔点治療であった。
 さらにもっと効果的な治療法がないか調べたら沢田流の針で十二原の法というのがあることを知った。それは針の経絡、十二正経の原穴を使う治療である。ところが思ったほどの効果がない。そこで免疫療法で有名な安保-福田理論で免疫力増強のために井穴を使っていたので、ひょっとしたら井穴の方がよく効くのではないかと考え、試したところシャープな効果がみられた。それ以来、井穴を基本に針をするようになった。井穴というのは手足の指の爪根部の少し外側のツボの事である。難点は針を刺すと少し痛いことであるが、即効性であることから、少しだけ痛みを我慢してもらうことにしている。
 さらに井穴以外に腹臥位で太陽膀胱経のツボを使う。背骨の両側のツボで緊張の緩んだツボ、すなわち指先で押すと引っ込みの大きい側を“虚したツボ”として選び、首の付け根の上から下部腰椎まで“気を集めて”置鍼すると、左右のツボの緊張のバランスが取れて凝りや、痛みが解消される。この治療の型を私は運動器系の疾患の針治療の基本としている。
 針は見よう見まねで誰にでも打てる手技であるが、その効果となると術者によって雲泥の差がある。はじめの頃、ただ針を刺して抜くだけで簡単な治療であると思っていたが、効果が一定しないためどうしたらよく効くのか悩んだことがあった。そんな時人迎脈研究会の梶田先生に会った。梶田先生は今治で鍼灸治療院を開業しておられ、人迎脈診の小椋道益師の弟子であられた。早稲田大学を出られて針灸に方向転換された変わった経歴の方で人迎脈診により針を打つ実際の手技をみせていただいた。
 そのとき針治療の真髄が気を集める操作にあることがわかった。人体に針を刺すと皮膚組織は針を把持するような反応を起こす。すなわち針を引っ張り上げると貫かれた皮膚が針を締め付けるようにくっついて持ち上がる。皮膚の緊張の緩いツボではこの反応が弱いので針を刺すだけではそのような反応が起こりにくい。そこで皮膚に刺した針を少し捻ると皮膚組織が反応して針を把持する。この皮膚の反応を針の手技では気を集めるとよんでいるようである。その反応が起こっていることを確認して背部に刺した針を置鍼すると効果がよいと感じて、いつのころからかそのような手技が自然に身についた。治療効果はそれで安定しているように感じている。初めの頃針を刺すだけであったので、効いたり効かなかったりしたのではないかと考えている。これがすなわち気虚に対する補の針の手技になっている。
 経絡は気の流れる通路である。流れには自ずから方向がある。したがって十二経絡は流れの方向が決まっている。炎症反応や腫瘤は気が滞って熱に変わったり固形物になったりした結果であれば、その場所から下流に当たる場所に針をさして気を集めると上流の気が下に引き流されて、炎症が治まったり、腫瘤が消失したりする現象が起こるとことを教えられた。人迎脈研究会ではそのような現象を見せても立ったことが針治療の手技の大きな経験となった。針治療の真髄はこのあたりにあると考えている。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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