漢方薬の投与量について

 漢方薬は保険診療あつかいで、一応一日量が決められている。飲む回数も慢性の病気などの場合には基本的には一日2回から3回となっているが、感冒(かんぼう)などの場合は汗が出るまで回数を2時間毎に重ねて飲んでもらうこともある。
 急性疾患などでは症状の激しい場合もあるので、例えばスズメ蜂に指されて腕がはれ上がったときなど、効果を出すために一日量を一回で飲んでもらうという治験例の報告も学会ではみられ、症状に応じて薬の量や回数を増やすという点では非常に参考になった。スズメ蜂に指されて腕が腫れる状態というのは沖縄であればハブに咬まれて腕がはれ上がった状態に似ている。沖縄本島のハブ咬症の場合は毒性が強く、注入された毒の量によっては、腫れの範囲と程度が強く、そのため血圧が下がるショック状態をきたし、呼吸循環管理までしないといけない重症例もあるので、ハブ毒の抗血清による治療を念頭に治療を行なう。しかし先島ハブでは腕や脚の腫れの範囲で収まる事がほとんどであったので、或いは炎症を治める漢方薬でも対応できるのではないかと、スズメバチ刺症の漢方治療の発表を聴いて感じた。すなわち漢方薬でも外科治療を回避し、内科的治療ですませるように使えるいわゆる保存的治療に変えられる場合が有る事を教えてくれたことがありがたかった。即ち症状が強い場合、症例によっては漢方薬の量を増やさないと効かないこともあるということである。
 最近漢方薬の一日の内服量を一時的に増やしてうまくいったので紹介する。
 不眠の患者さんは比較的よく見える。西洋の薬をやめたいので漢方薬で何とかして欲しいということが多い。先月来られた方は昨年連れ合いの方を亡くされその後不眠になったという。その後落ち着かなくなり、閉所恐怖症になって、狭い空間例えばエレベーターとか飛行機の座席などにいると気分が悪くなるという。もう何日も寝ていないといって見えた。このような場合普通は心療内科で少し強い抗不安薬などを使うのであるが、西洋薬が合わないので漢方薬を希望して来られた。当院では漢方薬も飲んでいただくが、首こり、肩こりなどを合併している頑固な症状の場合には、針治療や鎖骨調整などの治療を併用する事が多い。この方の場合もそのようにしたのであるが、少しは改善したものの納得のいくほどではなかった。漢方薬は比較的体格のいい人の不眠に使う柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)であった。更に不安が強い時にはヒステリー発作などに使う甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)を1包頓服で飲んでもらうことにしていた。それでもまだ眠れないと言うので、思い切って一回で二倍量を飲んでもらうことにした。すなわち一回で二包飲んでもらった。そしたら一週間後に『最近眠れるようになりました。人ごみの中に行ってもパニックになる事がなくなりました。もう薬は普通の量でもいいと思います。』といわれた。不眠、不安が強い場合に漢方薬のみでは効果が十分でなくて、外来の治療で困る事ことが時にはあるが、投与量を増やす事で何とかなる事もあるという貴重な経験をした。漢方薬が効果を発揮しない多くの場合は処方があっていないことと考えるべきであるが、それを考慮した上で処方はそのままでよいと考える時は思い切って内服量を増やしたらいい事もあるということである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

リンク
書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
(株)週間レキオ社又は全国の書店および「当クリニック」にて販売中

ブログ内検索
最近の記事
カテゴリー
月別アーカイブ