最近の子どもの皮膚疾患―その後

 先に陰虚についての私の受け止め方が変わった事を書いた。病気の状態は生身に体の起こっている事を五感で確認してそれを言葉で表現するのであるが、例えば陰虚という状態を陰虚と言う言葉から生身の陰虚の症状をどれだけイメージで再現できるかで治療効果が変わってくる。 
 これまで皮膚疾患では血虚、虚熱という状態に温清飲で対応し、かなり手応えを感じ、さらに慢性化した場合は瘀血すなわち血液どろどろで循環が悪くなった状態を仮定して血液さらさらの薬を使ってよくなると考えてある程度の効果をあげたが、どうしてもよくならない人たちがいた。皮膚が乾燥し、カサカサになり、発赤があり掻き毟って傷ついた状態である。血虚、虚熱の薬を長く続けてもよくならないのである。その状態が実は陰虚といわれる状態であるとやっと思い至って滋陰剤を処方すると眼に見えてよくなってきた。従ってこれまでの好くならなかった人は陰虚が基本の病態であったことがやっとわかった。三十年近くも漢方を勉強してきてやっと身を以って陰虚を捉え、手応えを感じたこの頃である。
 子どものアトピーは黄耆建中湯や補中益気湯でよくなると先人によって書かれてあるが、それでよくならない病態に陰虚の状態があった。慢性化したアトピーで皮膚が乾燥してカサカサになり、発赤もあり、熱感もある掻きむしった状態に陰虚の状態も関与している事がわかった。そのような状態に六味丸や麦門冬湯、滋陰降火湯などを併用するとよくなるのである。このように考えて処方を工夫すると、これまでの治療で行き詰まっていた人たちのかなりの部分が改善されてきたのである。
 このような過程をみていると言葉すなわち概念によってどれだけ実体が伝えられ、把握されるかが問題となる。言葉というのは実体を指し示す記号である。記号からどれだけ実体を再現できるかで理解が深まり、経験を共有できるのであるが、実体の把握が出来ていないと見当違いの診療内容になって独り相撲になってしまう。このあたりに臨床で新しい事を習得するむづかしさがある。またその習得のむずかしいところに技術の問題も含まれているかも知れたい。そこで臨床実習で手取り足取りで言葉と実体が一致するような訓練が必要になることを改めて認識した。今回は陰虚という概念が知識だけの情報で五感で捉えた情報でない事が明らかになったのであった。
 今後の課題は陰虚と言う概念がアトピー以外の疾患でどれだけ応用されるかという事で、これにより新たな治療の可能性が広がると思われる。例えば皮膚は目で見えるが、多くの他の臓器は直接目で見ることはできないので間接的な情報で陰虚を診断しなければならない。そこに臨床の実際の難しさ、厳しさもある。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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