最近子供の治療で教えられたこと

 最近小児の漢方の勉強会に参加して、非常に教えられたことがあった。子供は大人とは体も心も未熟である。其のことを漢方的に踏まえて治療しなければならないということであった。これは小児科学では『子どもは小さな大人ではない』と教えられた。これは医学的常識ではあるが漢方では処方上どのように反映されるかが問題であった。
 子供は精神的に未熟である。ということは外的なストレスに過剰に反応することにみてとれる。小さな子供であれば人見知りをしてビービーうるさいほど泣く。これを漢方では癇癪といい、肝の問題である。怖いことが続くと夜泣きする。これは心の問題である。また子どもは風邪を引きやすい。小さいころはよく鼻をたらしていたことと関係があることに気がつく。これは肺の問題である。子どもは脱水に弱い。これは非常にわかりにくい。あんなにみずみずしいのに何故脱水になりやすいのか。子どもの体の水分の割合は約70%と教科書に書かれている。大人は60%、老人になると55%にまで下がる。子どもは70%の水の割合を維持しなければならないので脱水に比較的弱いということであろう。脱水の症状としては皮膚の乾燥、便秘などが思いつく。また汗をかくと熱中症になりやすくなる。これは漢方的には腎の問題である。
 子どもが脱水になりやすいことについて具体的なイメージは庭の植木の観察から具体的に理解できる。植物の新芽が生えた状態で水遣りが遅れると、新芽はクターとなって乾燥の影響をもろに受け、ひどい場合は枯れてしまう。これを人体に当てはめると、子どもは急性の場合は脱水のため熱を出して元気がなくなってしまうことに相当すると考える。ゆっくり慢性的に脱水がくれば皮膚が乾燥してアトピーや湿疹になりやすいことに関連する。またこれは新芽の皮が柔らかくて外の刺激により容易に傷つき易いことに例えると子どもの体の特徴を少し理解し易い。皮膚が弱いということは全身の皮膚や粘膜も弱く、したがって消化管や呼吸器の粘膜も弱いので、当然傷つき易いことが理解される。すると腸炎、気管支炎などにもかかりやすい。
 以上のことを漢方的にまとめると子どもは肝・心が実しやすく、脾・肺・腎が虚しやすいので、二瀉三補が治療の原則と言われたのである。
 最近六味丸が皮膚の痒みに効いた症例を経験した。その子は少し風邪を引きやすいくらいの普通の男の子であった。冬であるのに夜中に暑がってパンツを脱ぐという。そこで六味丸エキスを飲ませたら、ちゃんとズボンをはいて寝るようになった。また子どものアトピーの患者が多いが、教科書的には補中益気湯や黄耆建中湯がよいことになっていうが、それらを処方してよくなる場合もあったが、あまり変化の無いことも多かった。そんな時に六味丸を併用すると更によくなることを経験したのである。このように子どもに六味丸を使う機会が多いのは確かなようである。
 ところで六味丸は腎陰虚の薬で、出典は『小児直訣』で、それは子どもの医学書である。腎陰虚とは性ホルモンの作用が十分でなく、組織が乾燥した状態と考えられる。性ホルモンの作用が十分でない状態は一般的には老人の精力減退、即ち老化に伴う組織の乾燥を考えてきたのであるが、思春期以前も性ホルモンの量は少ないことに思い至った。ただ老人と子どもでは体の状態が全く違う。一方は枯れているのに他方はみずみずしい。しかし子どもが枯れるということは考えにくいので子どもの場合は萎れていると表現した方がいいのではないかと思いついた。萎れた子どもに六味丸を使い、水分を体の隅々に行き渡せると組織が元気になり本来のみずみずしさを取り戻すと考えれば理解し易い。
 暫くは子どもたちに六味丸を使って其の可能性をみてみたい。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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