節電反動冷え

 最近東京の内科外来で全身倦怠感や下痢で来院する人が増えているという。節電のためクーラーの設定温度を上げるので、暑いから冷たい飲み物の摂取量が増え、下痢や風邪、全身倦怠感など免疫機能低下の症状を訴えてくるという。これを節電反動冷えとよんでいるらしい。現代医学的に冷えの病態認識がないのによくそういう名前がついたと漢方をやる者の立場から感心している。
 この病態のメカニズムは、節電のためにクーラーの設定温度を上げると暑くなる。暑さを和らげるためにビールや清涼飲料水を沢山摂取する。すると腹が冷え、食欲がなくなり、下痢をして元気もなくなるというのである。暑いから冷たいもので身体を冷やすという直接的な対応をする気持ちはよくわかるが、体温調節の面では大きな問題を含んでいる。
 クーラーの設定温度を上げると暑く感じる。本土の昼間の気温を見るとクーラーはどうしても必要と思われるが、どの程度に設定するかは外気温との関係で決まってくる。あとは飲み物食べ物による体温調整の問題になる。最近夏ばてに対してスーパーでの売れ筋が甘酒と報道されていた。甘酒は常温で売られていたのでそのまま冷さないで飲むものと思われる。甘酒には麹による発酵でアミノ酸や糖などの栄養分が多いので滋養になり夏バテによいと売れているらしい。これを冷して飲むと又話がややこしくなる。
 沖縄の場合は電力不足に対して節電しているようには見えないが、同様のことが夏場は日常的に起こっている。すなわち暑いのでクーラーの設定温度を下げる。これで身体を外からガンガン冷す。そして清涼飲料水や生ビール等、冷たい飲み物をたくさん飲んで胃腸を冷す。身体は外と中から挟み撃ちで徹底的に冷される。元気な人の場合、或いは身体を冷してあまり時間がたっていなくてまだ体に余裕がある間は、目立った変化は現れないが、体力のある人でも時間がたつと、身体がだるい、疲れが取れない、鼻炎などの不調を訴えてくる。本来胃腸の丈夫でない人は下痢を伴ってくる。内と外から身体を冷やすことによってこのような症状が起こるのであるが、冷たい水をコップ一杯飲んでもさしたる変化のないことが日常の感覚であるから、このようなことで何故体調が悪いのかわからないのが一般の人の感覚ではないか思われる。
 漢方では病気の原因として最も重視するのは冷えである。身体を外から冷やして体調を崩すのが風邪である。これを漢方では傷寒とか中風と呼んだ。風邪を引かない程度に長期にクーラーに当たり、冷たいものを飲むと先に紹介した冷えによる症状が起こってくる。
 クーラーに当たり続けると身体の表面が冷えて汗腺が閉じて汗をかかない。するとクーラーの効いていない暑いところでは熱が発散できないので余計に暑く感じることになる。汗をかかないことによる調節障害が起こってくる。また冷たいものを飲むと冷された食道や胃は血流を増やし、熱を出して局所を温め、働きを維持しようとする。それによって内熱が発生し、よけい口の中が熱くなり、喉が渇き冷たいものを求めるという悪循環が起こる。さらにクーラーの設定温度をドンドン下げ、冷たい物を飲み続け、身体は体温維持のため余分なエネルギー消費を強いられ疲れてしまう。その結果、風邪を引いてなかなか治らない、下痢が止まらないということになる。これらの現象は人間が恒温動物であり、体温を一定に保つ必要から起こってくる出来事である。このようなことを踏まえ、身体の調節機能を高めるような日常生活の対応を示したのが、『暑いときは熱いものを飲む』生活の知恵として先人によって遺されたと考えるべきではないかと思う。
 先日、北京に旅行に出かけたという患者さんが体調を崩して見えた。その人は冷たいものが好きで、そのために体調を崩して治療を求めてきたため、冷たい飲み物の弊害を注意したのであるが、興味深いことを言っていた。北京でビールを注文したらぬるいビールが出たという。冷たいビールは無いと断られたという。又ホテルで水割りを飲むために氷を頼んだら、氷は無いといわれたという。北京では冷たいビールや氷を入れて酒を飲む習慣が無いようなのである。さすが漢方の本場中国で、生活の知恵、腹を冷やさないということがしっかり守られていると確認できた。
 実は私が20年以上も前に北京に出かけた時にもぬるいコーラを出された。そのとき漢方では腹を冷やすことを禁じているので中国ではコーラもぬるいのではないかと感心したのであった。しかし一方では中国は電力事情が悪いので冷蔵庫の普及が進まず、冷たいコーラを出しているのではないかという疑いもあった。将来電力事情がよくなっても果たして中国ではぬるいコーラが出るのか、興味を持って注目していたら、その患者さんが最近でも北京のコーラはぬるかったと教えてくれた。
 このような時、口が渇いて冷たい水を飲んでも口が渇く場合には五苓散を使う。身体がだるく食欲がない場合は人参湯、横になりたいほど身体がだるくて立ちくらみ、下痢をする場合は真武湯などを処方する。当然冷たいものを控え、温かい物を摂るようにした上でのことである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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