低炭水化物ダイエットその後

 低炭水化物ダイエットを外来で始めて数ヶ月が過ぎた。ドラマティックな変化が見られた。
 まず低炭水化物とは食事の炭水化物をできるだけ減らすということである。具体的には主食のご飯、麺類、パン、イモ類、糖分の入った菓子類や清涼飲料水、ビールや日本酒を控えるという事である。但し、食事は腹いっぱい食べてもいいのでおかずで腹を満たすことになる。肉、魚、豆腐、野菜、乳製品などを食べることになる。
 患者さんの取り組みをみて感じたことは、当然のことであるが、深刻な病気の人ほど一生懸命実行して劇的な結果が出るということだ。肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症の女性では一ヵ月半ほどで体重が5キロほど減り、ヘモグロビンA1cが8.7から6.7まで一挙に下がった。当然考えられることであるが血圧、悪玉コレステロール、中性脂肪も正常になった。また別の糖尿病の患者さんでヘモグロビンA1c10.1が一挙に8.1まで下がった。この人達はただ食事で炭水化物を控えただけで、血糖降下剤や脂質代謝の薬剤を内服していない。漢方薬は併用しているが、漢方薬でこのような変化が起ったとは考えられないのでダイエットの直接的な効果である。
 症例は多くないが、色々なことを考えさせられる。潜在的な糖尿病患者がドンドン増えている現状は、我々が何の気なしに口に運ぶ砂糖を含めた炭水化物食物の摂りすぎが原因ではないか。薬を使わずに食事を少し見直すだけで生活習慣病は劇的に改善、減少するヒントを示しているのではないか。薬を使わないので医療費の効果的な削減の切り札になる可能性がある。また生活習慣病がどのようにして起るかを直接的に示しており、食事を正すことにより、肥満、糖尿病などを予防することができるのではないか等等である。
 糖尿病の治療で最近話題になっているのは食後の急激な高血糖である。これは専門用語でグルコーススパイクと呼ばれている。何故これが問題になるかというと食後の急激な高血糖が糖尿病の基本的合併症である血管障害に関係しているからである。急激な高血糖は毛細血管や大血管の内皮細胞を傷つけるので微小循環障害や動脈硬化を起こしてくる。その結果具体的には腎障害、網膜症、中枢神経障害などいろいろな加齢による病気に関連し、遂には失明、腎不全、心筋梗塞、脳梗塞などの深刻な障害につながり、個人の不幸、国家的には医療費の増大による財政問題にまで発展していくのである。したがって食後高血糖を回避する薬物治療が最近の糖尿病の治療のトピックスになっている。
 また臨床的にわかりにくい腎障害の発症のメカニズムを示していることに興味を引かれる。私が学生の頃にはCKDという概念がなかった。Cはchronic(慢性)、Kはkidney(腎臓)、Dはdisorders(障害)、すなわち「慢性腎機能障害」とでも訳せる概念である。なぜ腎機能が徐々に傷害されるかということがよくわかっていなかった。
 もちろん糖尿病、高血圧、動脈硬化などはっきりした病気で腎機能が悪くなっていることはあきらかであるが、はっきりした病名がつかないうちに、忍び寄るように徐々に腎機能低下が起っていく不気味な現象があり、その状態を早期に捉えようとしてこのような概念ができたのではないかと想像している。
 極端な話ではあるが炭水化物や、砂糖などの消費が極端に増えて、国民全体が過剰な糖質に晒されている社会の現状では、一回一回のグルコーススパイクは特に目立った変化を起こさないが、長年にわたり積み重なって血管を痛めつけると、高血圧や動脈硬化、糖尿病の準備状態に進展してくと考えたらどうであろうか。
 また腎臓の老廃物のろ過装置である糸球体、これは丸まった構造をした毛細血管の塊であるから、毛細血管が傷つくと即腎機能に微妙に影響すると考えられる。ただ糸球体の数は非常に多いので少々数が減っても検査値の異常としてはすぐには表れないが、ちりも積もれば山となるで、何十年という時間経過のうちに数字に表れてくると考えてみたらどうだろうか。発症のメカニズムを理解して養生を自覚しないと、知らないうちに腎機能が落ちていくことになる。
 さらに極端な話であるが経済的に豊かになり、同じような理由でさまざまな文明社会の難病奇病も起っているのではないかという思いを禁じえない。なぜなら多くの病気のスタートはまだまだ明らかになっていないのであるから、血管の傷害を積み重ねる現代社会の食習慣が、人体の種々のシステムに作用して色々な病気に進展していくのではないか考えることは無理な想像とも思えない。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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