炭水化物ゼロダイエット

 現代の健康問題の多くは栄養のとりすぎの肥満である。半世紀前までは栄養不足が問題であったのに、今では栄養過剰が問題になり、メタボという言葉が普通に聞かれるようになった。肥満の問題は高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、心臓病と全身の病気に直結していく。また肥満体は現代の美的感覚からずれていくため容姿の上からもダイエットは深刻な課題のようである。そのせいか、巷にはあらゆる種類のダイエット法が氾濫している。
 医療界では肥満糖尿病の増加に伴い、予防医学すなわち減量、食事療法などの生活指導に力を入れるように対応が変化した。ところで一口に食事療法といっても簡単にいかないことに問題がある。食欲という本能を抑えることは至難の業である。したがって一時的に減量に成功しても、リバウンドで減量以前の体重より増えてしまうというのがお決まりのコースである。入院して食事制限をするならともかく、日常生活の中で食欲をコントロールし続けるのは非常に難しい。糖尿病食を実行しても少しずつ病気は進行し、インシュリンを注射しないといけないようになるのが一般的ではないかという印象を受ける。したがって糖尿病の根治は基本的に無理なことではないかと絶望的になるのが本音であった。漢方薬のある処方が糖尿病によいといっても、減量すらままならないのに薬だけで糖尿病が治るとも思えなかった。ところが最近『糖質ゼロダイエット』という考え方に接して目から鱗が落ちた。何故もっと早く気づかなかったのかと不思議である。
 人体が食事としてエネルギーを取り入れるのに三大栄養素がある。脂質、糖質、たんぱく質である。人類が農業革命により食料を安定確保できるようになったのは言うまでもなく穀物すなわち小麦、稲、トウモロコシやイモ類の栽培によるものである。これらはいずれも炭水化物である。炭水化物を摂取すると血糖が上昇する。すると膵臓のランゲルハンス島のβ―細胞からインスリンが分泌され、筋肉や脂肪組織などグルコースを必要とする組織にグルコースすなわち糖分を取り込ませ、血糖が下がる。大事なことは血糖を下げる作用を持つホルモンはインスリンだけであるということである。血糖を上げるホルモンはグルカゴン、アドレナリンや甲状腺ホルモンなど複数ある。交感神経の作用が必要な非常時に血糖をあげ骨格筋や心臓の筋肉に燃料であるグルコースをいきわたらせ、インスリンが組織に糖を取り込ませ利用させる結果、血糖が下がる仕組みになっている。
 食料に恵まれた飽食の現代、常にアルコール、菓子類などの嗜好品、主食のご飯などから大量の糖分が供給される。常に運動によりエネルギーを消費すれば問題ないが、多くの人は運動不足で、利用されない余分な糖は皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられる。そのとき糖を下げるインスリンが必要になる。そこで食事や糖分の大量摂取により大量の血糖を処理するのに、インスリンの利きが悪くなる場合や、インスリンの産生が低下して不足し、血糖の処理が鈍ってきた状態が最近問題になっている?型糖尿病である。つまり大量に摂取された炭水化物からできた血糖を処理するのにインスリンの働きが追いついていないのである。
 一方で大量に摂取された炭水化物の余剰分がドンドン脂肪として溜まっていくのが肥満である。人体で炭水化物からできるグルコースと脂肪組織から得るエネルギーのどちらを優先的に使用されるかというと、グルコースが真っ先に使用される。すると過剰に炭水化物を摂取すると蓄えられた脂肪はほとんど利用されずに残り、その上消費出来なかった余分の炭水化物が脂肪として更に蓄えられ、体重がドンドン増えていくのがお決まりの肥満のコースである。
 炭水化物ゼロダイエットとは一時的に炭水化物のみの摂取量を極端に減らし、たんぱく質や、脂肪を制限しない食事をするダイエットのことである。もちろん野菜や魚介類は食べなければならない。
 そこで炭水化物を摂らないとどうなるのか。まず炭水化物グルコースに代わる経路がストップするので、低血糖になる。そのときの症状は力が抜けたようになり、手が震え気分が悪くなる。低血糖発作である。それはいわば糖の禁断症状とも言える。その気分の悪さが嫌で、直ぐ甘いものに手を出すと肥満の悪循環は断ち切れない。それがこれまでのダイエット失敗の原因と思われる。
 このような時はその場でランニングの動作をしてカラダを動かすと交感神経とホルモンの働きで血糖を上げることができ、低血糖発作はおさまるようである。韓流スターたちはそのようにして減量を続けていると聞いたことがある。このようにして甘いものや炭水化物に手を出さなければ、脂肪燃焼の代謝にスイッチが入り、脂肪が分解され、エネルギーとして使用されるようになる。あとはしばらく炭水化物をできるだけ抑えていけば確実に体重が減るし、インスリンの必要量も減るので膵臓の負担もかるくなり、糖尿病にもなりにくいし、糖尿病の場合でも血糖が改善の方向に向かうとされているのである。
 一時的な低血糖の不快な症状を乗り越えると、食欲に悩まされることなくダイエットを継続できるところがいいし、野菜やたんぱく質は食べたいだけ食べても良いというところが気分的にも楽で、続け易いのではないかと思われる。
 これこそ究極のダイエットではないかと期待している。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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