最近外来で見る不定愁訴の二つのタイプ

 最近外来にこられる患者さんの病態を観察していると大きく二つのパターンに分けられるような印象を受ける。
 一つは冷え症で疲れやすく、倦怠感があり、根気が続かない、腹が張る、便がすっきり出ないというタイプ。そんな人は青白い顔をして手足が冷たく、朝起きにくい、やる気が出ないなどの症状が見られる。もう一つのタイプは下半身が冷えているのに、上半身はのぼせてほてり、寝つきが悪く、イライラしがちな人で、ストレスを抱えながらも頑張って、よく働いている。
 いずれの場合も、疲れやすい、やる気が出ない、便秘傾向など共通の症状が見られるが、症状の成り立ちが違うように見える。
 最初のタイプは若い女性で、色白、顔色が何となく寒々として浮腫んだような感じ、甘いものや果物が好きな人達である。あまり無理をしていないのに疲れやすく、朝も寝起きが悪く、覇気がない。あまりたくさん食べないのに体重も少し増加傾向にあるという。漢方では、甘いものは脾に属し、腎の働きを弱めるとされている。また漢方でいう脾とは食物を消化吸収する臓器をさし、現代医学的には上部小腸のあたりの働きに対応しているように見える。また漢方で腎は身体の新陳代謝をコントロールしている。五行説による相克関係で土は水を克するので、土に属する甘いものを摂りすぎると新陳代謝をつかさどる腎の働きが抑制されて冷え症になると考える。甘いものの代表は砂糖である。豊かになった現代社会を象徴する嗜好品は砂糖を使った甘いお菓子や、果物に代表される。以前にも紹介したことがあるが、砂糖を取ると急激に血糖が上昇する。するとそれに呼応してインスリンの分泌が高まり、その結果急に低血糖になる。するとまた糖分がほしくなり、また甘いものをとると同じことを繰り返す。奇妙なことに砂糖を取り続けると低血糖になるのである。低血糖は飢餓の状態であるから、脳は身体を省エネモードにセットする。その結果自律神経バランスを副交感神経優位に維持する。副交感神経は新陳代謝を抑え、エネルギーを蓄える状態に連動する神経であるから、身体を動かすことが億劫になり、身体は冷え、やる気がなくあたかも欝(うつ)のような状態になる。また身体を動かさないからエネルギーの消費も少ないので、余り食べないのに体重は増えていく。この場合、大事なことはまず甘い物の摂取を止めることである。その上で新陳代謝を賦活する真武湯(シンブトウ)などで身体を温める治療をする。
 もう一つのタイプはまじめによく働く人に起こる。厳しい時代であるから残業が多くなる。職場では色々ストレスにさらされ、残業で無理を重ね、就寝時間も遅いのに朝は早い。睡眠時間は当然少なくなる。人間は労働と休息すなわち睡眠をくりかえすことにより、エネルギーを確保し活動が続けられるのであることは容易に理解できる。現代は夜型社会といわれるように、夜も働けるようになっている。最近の不況ではつい仕事の負担が重くなり、つい残業も増えがちでどうしても睡眠時間にしわ寄せがくる。夜遊びもすると活動の時間がながくなる。自律神経のバランスで行くと交感神経の興奮する時間が長くなる。交感神経は異化作用と連動するから、エネルギー消費の時間が長くなる。エネルギーを蓄える時間が減り、燃料が切れがちになると根気が続かなくなる。身体が興奮しっぱなしになると新陳代謝が亢進するので身体はほてり、眠りにくくなるという悪循環に陥る。疲れているのに眠れなくなる。このようにして働きすぎ、睡眠不足が不眠につながり、欝状態という診断に至るのではないかと思う。この場合大事なことは身体に睡眠不足を強いると生体のリズムが壊れ、健康に深刻な影響を及ぼすことをまず理解することである。その上でストレスに使われる加味逍遥散(カミショウヨウサン)や疲れているのに眠れないときに使う酸棗仁湯(サンソウニントウ)などを併用するとよいが、生活を調える事が肝要である。
 このように疲れてやる気が出ない状態にも陰陽のパターンがあるのは漢方の特徴が表れて興味深い。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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