生活不活発病、廃用症候群

 大震災の避難が長期化するにつれて問題になっているのが生活不活発病です。私たちは日常生活で家事や仕事を行なうため意識せずして身体を動かしています。なにげなく身体を動かしていることで、運動しようと意図しないで生活に必要な筋肉を動かし、筋力の衰えを防ぎ、運動能力を維持しているのです。震災という非常事態では避難して命が助かったという安心感、救援を待つ以外に特にすることもないことから、特に高齢者や慢性疾患のある人たちは、意識しければ一日中何もせずに座ったり、横になって過ごすことになります。これが一週間も続くと、いざ立って動こうとした時に思うように身体が動かないことがわかり愕然とすることになると思われます。これが生活不活発病といわれるものです。
 また災害避難時におこる注目された病気にエコノミークラス症候群とよばれる致命的になる病気があります。それは下肢静脈にできた血栓による肺塞栓症です。長時間足を動かさないでいると鬱滞した下肢静脈に血栓すなわち血の塊ができて、それが身体を動かした拍子にはがれて心臓に戻り、そこから肺に流れる肺動脈に詰って呼吸不全を起こす、きわめて死亡率の高い病気です。ちなみにエコノミークラスとは旅客機のエコノミークラスで、狭い座席で長時間じっと座っている状態で下肢静脈に血栓ができて起こることからつけられた病名で以前に注目されたことがあります。これもじっと動かないでいることが原因で、生活不活発病と同じ状況で起こります。
 このように避難という緊急時の行動が長期化し、日常生活を中断したとき、無意識に動かしていた身体の動きを止めて、運動しなくなった状態が引き起こす健康への影響は、最近災害が頻発して避難生活をしばしば経験する中で注目されるようになってきたことです。
 災害が起こって避難したときの心の状態、肉体的な状態をイメージしてみましょう。突然の出来事で日常生活が突然中断してしまい、家もない、ものもない、仕事もない。身近な人が命を奪われたかもしれない。恐怖と不安によるショック。最初の数時間は緊張して興奮しているので瞬く間に過ぎるでしょう。翌日夜があけるとあの出来事は夢ではなく現実であることを再確認する。さてどうしたものか、水も食料もない、当然することもないので身を横たえるしかないので身体を休ませることがしばらく続くと思われます。若い人達は体力があるので救援活動に従事し運動能力の低下の問題はないと思われますが、高齢者や持病があり無理ができないと思われる人達は、食事や水の配給をもらい、排尿、排便に動く以外は身体を動かさないと思われます。支援事業もまだ始まっていない。頭はボーっとして横になっているしかないという状況であると思われます。そうしているうちに足腰が弱り、歩行が不安定になり、心肺機能が衰え、生活運動能力の衰えに気づくのです。
 そこで生活能力の低下を予防するためには何が必要かということは先に説明したことから明らかです。すなわち、その人の体力、基礎疾患に応じて、非常時でも少しずつ身体を動かすことです。適度に身体を動かすことは病気予防の基本であることが明らかになったのです。無意識に身体を動かしている日常生活では気づかなかったことを、避難という非日常の生活が教えてくれたのです。
 ところで生活不活発病は災害時だけの問題だけではないのです。
 私の経験ですが、下腿骨折で入院し十日ほど右脚の牽引で臥床をよぎなくされたことがあります。手術をしてギプスを巻き、ベットサイドで立ち上がったときバランスを崩して危うく転びそうになりました。若い人でも動かないと筋力は極端に衰えてくるのです。ましてや年をとっている場合、少し体調を崩し、しばらくごろごろしているうちに、今まで難なくこなしていた動きができなくなっていたというようなことは日常しばしば起こることです。
 特に高齢者の場合は意欲の衰えや、少しの不調でも生活の不活発に繋がりやすいことを意識した対応が必要ではないかと考えます。日常の家事、散歩、軽い体操やストレッチなどが、健康を支えるいわば養生でもあったのです。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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