不定愁訴について

 不定愁訴とは『体のどこが悪いのかはっきりしない訴えで、検査をしてもどこが悪いのかハッキリしないものをさす。』と健康用語辞典にある。
 検査をしてもどこが悪いのかはっきりしないというと、現代医学的な評価ができないということで、根本的治療法もないということになり、対症療法に終始する。
 例えば原因不明の頭痛であれば、鎮痛剤で頭痛を抑えてその場しのぎをするのである。すると十年以上も頭痛薬を手放せないということも起ってくる。ところが原因不明というのはあくまで現代医学の枠組みの中の話で、漢方という現代医学とは別の枠組みで頭痛を考えると、頭痛の原因が明らかになる部分が増えて原因不明の部分がかなり減るのではないかと思うのである。
 現代医学は病気の原因を物質で捉えて発展してきた。細菌や化学物質、細胞の変化、更には細胞の中の微小構造の変化、更には遺伝子という物質基盤を徹底的に追究してきた。一方では解剖学的異常を、画像診断を駆使して徹底的に追究してきた。この枠組みで見つかった異常については対応策を見つけて治療に結び付けてきた。現代医学の華々しさはその成果の威力の実績にあると私は思う。ところがこれらの枠組みから外れると比較的簡単なことでも対応できないという弱点をもっている。この最たるものが不定愁訴はではないかと思う。
 漢方では病因を外因、風寒暑燥湿火すなわち気候の変化、内因の七情すなわち喜怒悲思憂恐驚の情動、不内外因の食毒、過労などと考える。これらは人体のホメオスターシス(恒常性)維持装置すなわちバランス維持能力の範囲を超えたときに病因として作動する。人体のホメオスターシスは生理学的には神経・免疫・内分泌システムによって維持されており、フィードバック機構によって自動調節されている。
 例えば冬に冷たい北風に吹き晒されるとする。きわめて短時間であれば問題ないが、多少薄着をして我慢していると悪寒がきて震え、頭痛、発熱、関節痛と続いていく。そのときおそらく検査では異常ないが、体温の自動調節機能の範囲を超えており、悪寒、発熱という非常手段が発動している。このようなときに葛根湯や麻黄湯などの風邪の漢方薬を使う。
 冷たい飲み物を取り続けると胃腸が冷え、食欲が落ちる。また胃腸の消化吸収が低下するので腹痛、下痢を起こしてくる。また腸の動きが悪くなり、腹が張ってガスがたまり、おならが増える。このようなとは人参湯、大建中湯などを使う。
 また仕事や人間関係の難しい問題を抱えたとする。そのストレスに直面すると不安に襲われ、動悸がして、胃腸の弱い人は食欲がなくなる。そして不安のため夜眠れなくなる。また眠りは浅く、悪い夢にうなされたりする。そしてわずかな物音にも敏感に反応する状態が続く。すなわち昼夜となく交感神経の緊張が続いた状態である。このようなときは柴胡加竜骨牡蛎湯などを使う。
 更年期は閉経を前にエステロゲンや黄体ホルモンの周期的な変動が不安定になり、さまざまな症状が出る。イライラ、不安、頭痛、肩こり、ホットフラッシュ、生理の異常等取り止めのない症状が起る。このようなときに加味逍遥散がよく効果を発揮する。
 このように気温の変化などの外界の刺激、恐れ驚きなど心の動き、不適切な飲食物、加齢など日常的に遭遇する要因が、ホメオスターシス維持機能の範囲を微妙に超えてくるとき不定愁訴が起ると私は考えている。このような微妙な変調を呈する時期は血液検査などでもほとんど異常をきたさず、現代医学的病名がつかない。従って治療法も見えないというのが現状であろう。
 ただ私の臨床経験ではその人のライフスタイルやストレス、過労による心身の負担は、脊椎や骨盤の微妙な歪み、捻れとなって蓄積され、それがわかりにくい不定愁訴に影響していると考えている。そこで背骨や骨盤の調整と漢方薬を併用して治療効果を挙げる戦略をとるのである。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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