医学的共感について

 共感するという心のはたらきは、対象となる人と感情或いは感動を共有することによって起こる精神的にリラックスした状態と定義してみる。そこには相手を思いやる心の働きが起こっている。それが行動或いは言葉として表現されると、こころの交流が起こってくる。共感はきわめて人間的な脳の働きである。
 人間が人として成長していく過程において共感する心は、自ずから培われており、共同生活を営み、伴侶を求め、子孫を残し、時代を越えていくことが可能になっている。
 共感にあえて医学的という言葉をくっつけたのは、既成の医学があまりにも人の訴えに共感できない部分を持っているのではないかという懸念からである。
 現代西洋医学は日本が明治に富国強兵という基本方針を打ち出した時にドイツ医学を範(モデル)にすることからスタートしている。伝染病に対するワクチンの開発、詳細な解剖学に基づく外科手術、抗生物質の発見による感染症への効果、糖尿病に対するインスリンの発見、内臓が機能をほとんど失っても人工臓器や臓器移植によって延命できる部分も大きくなってきた。言葉に尽くせないほど現代医学は科学技術の発展に支えられてその可能性を広げてきた。その威力は特に救命救急に活かされていると私は考える。以前新型インフルエンザの勉強会があった。肺炎を合併した重症例は人工呼吸器につなぎ肺機能が回復するのを待つ。肺機能が回復しないときは全身性血管内凝固症候群で出血が止まりにくくなり、肝臓、腎臓機能が低下してくると多臓器不全になって死亡する。ところが最近では人工呼吸器に加え、人工心肺まで装着して急命するとの事であった。しかしこの方法は人手がかかることと装置の数に限りがあるので、一度にせいぜい一人、無理して二人くらいしか使えないのではないかと思う。ともかく現代医学は重症肺炎を人工心肺を回して救命するまでになったのである。
 ところが、そこまで進歩した現代医学でも頭痛、肩こり、腰痛、眩暈など比較的単純な訴えに対して、検査の上で明らかな異常がないとなす術がないような場合が多いのが現状である。しかし、現代西洋医学ではわかりにくい症状も別の立場から見るとわかりやすく治療も明確なばあいがある。たとえば漢方、鍼灸や骨の歪みをみる整体などである。これらの医学的立場はバランスを整える、或いはホメオスターシス維持機能を回復させるという、現代医学とはことなる立場から症状や訴えをみることが特徴である。つまりパラダイムすなわち医学の枠組みをかえると患者の訴えの成り立ちがわかり、共感できやすくなると思うのである。
 医学的に共感できるということはその症状の成り立ちがわかり、相手の苦痛を理解でき、回復の道筋が見えることによって成り立っている。
 人は自分が理解できることについては共感しやすいが理解できない場合には共感がしにくい。
 最近いろいろな訴えの患者さんを診ていると既存の医学ではどうしようもないのではないかと思うことが多い。できるだけ異なる医学体系例えば漢方や鍼灸にも目を向けて医学的共感の幅を広げる必要があるのではないかと考える。
 現代生理学は自律神経と免疫、ホルモンが影響し合って身体が調節されているという認識に到達した。これによって人体が人間関係などの精神的ストレス、外界の気象条件の変化、飲食、衣食住の不適切によって微妙にバランスを崩してくることが理解できるのであるが、現代医学でこれらを評価することが困難で治療に結びつかない。従って多くの医者も医学的共感が持てないのではないかと思われる。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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