偏らない心、こだわらない心、とらわれない心

 『偏らない心、こだわらない心、とらわれない心、広く、広く、もっと広く』
大学時代に参加した薬師寺管長故高田高胤師の金堂再建勧進の講演で、仏教特に般若心経の真髄をわかりやすく紹介された言葉であった。
 煩悩具足の凡夫である我々の日常の心が、偏り、こだわり、とらわれているのは当然のことであるが、幸か不幸か心は目に見えないため、それを直接確認することはできない。そこで心の歪みの手がかりを目に見える形で捉えられないかというのが医学的な課題になる。
 結論を言うと、身体の歪みはレントゲンで骨格の写真を撮ると、骨の歪みとしてみることができる。そこで心の歪みが骨格の歪みに関連していないだろうかということである。心は見ることはできないが、心の偏り、こだわり、とらわれによる心の歪みが背骨や骨盤にも加わっていると仮定するならば、心の歪みを骨格の歪みで、すべてとは言わないまでもある程度評価することができることになる。
 一人静かに自分の心のありようを振り返るとき、心のひずみが感じ取られてくるのではないかと反省することはよく経験するところである。または他人が面接することにより、その人の物事への対応を確認し、一般常識からのずれを評価することも日常それとなくなされている心の歪みの評価である。
 そこで、こころの歪みはストレスとして身体に影響を及ぼすとなれば、体のゆがみから心の歪にアクセスできるのではないか、というのが今回のテーマである。
 心がなにかにとらわれると心は落ち着かなくなる。動悸が起こり、不安になる。さらに寝付きにくいか眠りが浅くなる。このようなことが続くと血液検査では白血球のなかで好中球とリンパ球のバランスに変化が起こる。具体的には不眠やストレスなどで交感神経の興奮が持続するとき血液中の白血球の好中球が増え、リンパ球は少なくなる。このような状態では筋肉に血液を送る細動脈が収縮する。そして筋肉の血流が低下すると首筋や肩や背中の筋肉がこってくる。全体として気分も身体も何となくすっきり落ち着かない状態になってくる。これらが医学的には不定愁訴と呼ばれる状態である。そのような状態が長く続くと身体の左右の筋肉の緊張のバランスが微妙に崩れて背骨や骨盤の歪みとして蓄積されてくるのではないかと考えてみるのである。そこでその捻じれや歪みをレントゲン写真で確認すると、心の歪みの蓄積を目に見える歪みとして確認できることになるわけである。しかし身体の歪みのすべてが心の歪みに起因するとは言い難い。特定のスポーツ或いは職業では特定の部位の筋肉を、特定の姿勢で使い続けることが身体の歪みを生ずることは容易に理解できることである。したがって生活習慣以外に心の偏り、ストレスもなども骨格の歪みに影響しているのではないかと考えるのである。
 脊椎や骨盤の捻じれ、歪みは微妙なものである。その影響は現代医学的にはほぼ無視されているといってよい。それは微妙な変化であるだけに因果関係がわかりにくいこと、治療法も明らかでないことに原因があるのではないかと考えている。またその歪みが直接命に関ることではないので、不定愁訴と同様に現代医学的には無視されている所以ではないかと思う。
 整理すると生活習慣や運動、肉体的作業による偏った身体の動きが、身体のバランスの崩れ、すなわち微妙な骨格のゆがみを生ずるとするのであるが、更に心の偏りも身体の歪みとして骨格に蓄積されると仮定する。すると骨格の歪みを調整することは心の歪を直すことにもなる。
 そこであのヒポクラテスの言葉である。『心に起こったことは必ず身体に影響を及ぼす。』逆も真なりで、骨格の歪みをなおすことで心の歪みを正すことに迫っていけるかもしれないのである。
 鬱の人や不安神経症、ストレスにさらされている人たちは肩凝り、頭重や、何となくうっとうしいという症状を持っており、レントゲン写真で多かれ少なかれ頚椎の捻じれを伴っている。それを治すことで気分が明るくなるという変化を多く経験するにつれてあのように考えるようになってきた。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

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