思うこといわざるは腹ふくるるわざなり―井戸端会議のすすめ―

 最近症状の背景にストレスを抱えた人の受診が多いような気がする。ストレスの多くは言葉として口に出し、吐き出すことでかなり発散されるのではないかと私は考えている。不平、不満を並べ、愚痴をこぼすことは自分の弱さをさらけ出すことで一般的にはいい印象はない。また社会的には口が軽いとか、おしゃべりとか、軽薄とかマイナスのイメージでとらえられる面がある。また悪口をいわれる方は当然いやな思いをするに違いないから、相手のことを思えばむやみに口にするべきでないこともあるかもしれない。それでも他に迷惑がかからないような場所と相手を選んで発散した方が病気の治療の面からはいい場合もあるように思う。
 肩こり、頭痛、疲れやすい、疲れが取れない、眠りが浅いなどの症状は一般的によくみられる症状である。それが針治療や漢方薬で効果的にとれにくい場合があるのでストレスの発散がうまくいっていないのではないか確かめてみるのである。少し治療になれた頃、背景に人に言えないような悩みがあるのではないかと聞いてみる。そして、その悩みを聞いてくれる人が誰かいるのかときくと、多くの場合は『そんなこと人には言えない』という。人に言えないような悩みは悲しみ、憂い、驚き、恐れ、怒りなどの感情すなわち情動につながり、それがストレートに表現されるとそこで解消されるが、心の奥にしまいこまれると無意識の中で視床下部や脳幹部に作用してホルモンの異常や自律神経とくに交感神経の緊張などにつながっていくのではないかと思う。
 不平不満の多くは口に出すことは社会的にはばかられることである。よっぽど信頼できる相手と場所を選んでしゃべらないと困ることになるのであるから、クリニックの診察では何をしゃべってもよいことにしてある。スタッフにとっては知らない人たちのことであるから愚痴の受け皿になっても右から左にききながせるから問題はないと話している。ただ話を聞く時間に制限があるので、聞くことにそう長い時間は割けない難点がある。そういう時はカウンセリングを受けられる施設を紹介することにしている。
 気軽に悩みを口に出せる人と口に出しにくい人がある。一般的に生真面目な人、やさしい人、相手を気遣ういい人はあまりストレスの発散がうまくいかないような傾向がみられる。社会的な価値観に逆らいにくいので自分の殻を破りにくいのではないかと思う。そういう人ほど身体の症状も頑固である。
 東洋医学の強みはストレスからくる身体の症状を積極的に治療する手段があるということである。直接悩みを聞かなくても身体がほぐれて頭や肩、首の重みや覆いかぶさっていたものが取れるので気分が楽になってくる。そしてイライラを鎮め、寝つきをよくしたり、だるさをとったりホルモンのバランスを整えるような漢方薬もあるので比較的に対応が楽である。しかしストレスが強い場合には潜在的な葛藤に専門的なアプローチが必要と感じることも出てくる。
 “思うことを言わざるは腹膨るるわざなり”とは徒然草に出てきた言葉であったと記憶している。ストレスで交感神経が緊張すると胃腸の運動が抑えられるので、腸にガスがたまって腹が膨れてくると解釈でき、医学的にも正しい言葉であると思う。
 以前は井戸の周りに集まって洗濯をしながら井戸端会議で主婦はたまりにたまった不平・不満・愚痴を吐けば腹も膨れずにいたと思われるのであるが、最近の生活の変化で井戸の周りに洗濯で集まることもないので、女性ストレスの発散もうまくいっていないようなのである。そういうと現在では『井戸端会議』が死語になっていることに気がついた。現代風には居酒屋会議、ティーラウンジミーティングになっているのかもしれないが、周囲に気を許せる仲間のいない孤立する傾向の現代生活の場合には『井戸端会議』成り立たちにくいかもしれない。時は流れている。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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