病蔵に入れば半死半生なり

 漢方の古典に『病蔵に入れば半死半生なり』という言葉がある。五臓六腑の五臓、つまり肝脾肺心腎がやられると半数のひとは死にますという意味で、黄帝内経素問にあったと記憶している。いいたい事は病気になって内臓がやられないうちに手を打って死に至らないようにする、つまりはっきり病気とは言えないが全く健康とも言えない状態の未病を治すことが大事であることを強調していると理解する。これに関連する言葉が『上工は未病を治す』という言葉である。名医は内臓がやられる前の未病の状態で治療を行なうという意味である。昔はどんな名医でも内臓がやられると命を助けることができなかったので、できるだけ病気にならないように、つまり予防医学を心がけたということである。それは日常生活の衣食住から労働、睡眠、性生活にいたるまで健康生活を指導するということである。
 現代においては内臓がやられても人工臓器により命をサポートすることができる。人工心臓、人工呼吸器、血液透析、高カロリー輸液、更には臓器移植という方法もある。これらは命をサポートできるが止むを得ざる手段であり、できれば自前の臓器で対応するほうがQOLにおいて断然いいに決まっている。
当然のことながら古代においては臓器不全に陥ると死を意味したのであった。すると医者の大事な仕事のひとつは助かる病気と助からない者を明確に診断し、助かる者を助けることであった。この点、現在の救急医療と基本的なスタンスは変わっていない。ただ現代においては助かる病気の範囲が大幅に広げられたことは周知のとおりで、これが科学技術の進歩による現代医学の優れた面である。
 ただ未病を治す段になると伝統医学のほうが優れているように思える。病気にならないように予防するほうが唯一病気による死を避ける手段であれば、より確実な予防法を見つけるべく智恵を絞って命の在り様を観察したことが古典の中に読み取れるのである。
 傷寒論という漢方の聖典ともいうべき医学書の名前が示すように、人間は進化の結果、恒温動物つまり体温を一定に保つことによって生命を維持するような生理的な仕組みを供えており、体温の維持を妨げる要因とくに『冷え』が最も害を及ぼす。急激な激しい冷えの場合、凍死、凍傷などは因果関係がわかりやすい。また冷えると風邪をひくこともわかりやすい。冷たい物を飲み続けることが体調を崩すとなるとわかりにくい。コップ一杯の水で体調を崩すことは、よっぽど胃腸の弱い人で無い限りまず起こらない。しかし慢性的に身体を冷やすと少しずつ身体を冷やし、鼻炎を繰り返し、風邪を引きやすいなどの微妙な変化を繰り返すことになり、それが免疫機能を低下させ大きな病気の基礎に成ると考える。
 先日からだが浮腫むので診察を受けたら、透析の準備をしなければいけないといわれたとショックを受けて見えた方がいた。それ以前に身体の変調は無かったかと聴いたところよく風邪を引いて喉を痛めていたということであった。身体を冷やすようなことをしていないか確認したところアイスコーヒーが好きでよく風邪を引いたという。風邪を引いて喉をやられたときに慢性の扁桃炎を合併しその結果生じた免疫複合体が腎臓の糸球体に引っかかって炎症を起こし腎機能が落ちたとも考えられる。普段から風邪を引かないように注意したら腎不全は予防できたかも知れないと考えることもできる。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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