鼻について

  文学作品では芥川龍之介が大きな鼻をもてあます人の心理について書いていた。また童話の『天狗の団扇』では暇をもてあまして『鼻よ長くなれ』と団扇で扇いだら鼻が雲の上まで伸びる話であった。
  鼻は花に通じる。植物は生きるために大事な生殖器である花を最も目立つ場所に、最も魅力的にさらしている。
  人間の場合、生殖器を人前に晒すことははしたないと感じて下に隠して、代わりに鼻を顔の中心の目立つところに持ってきたのではないかと考えた。鼻の下を長くするという表現はそのあたりの消息を語っているに違いない。また自分をさすとき指で鼻を指す。鼻柱が強い、鼻息が荒いなどと自我の象徴を鼻が担っている。
  ここでは心理的側面よりも医学的で健康に直結することを鼻について考える。鼻は呼吸を通して外界につながる器官である。医学的には気道の一部で、その入り口にあたる。すなわち空気中の酸素を取り入れ、炭酸ガスを排泄する呼吸の働きの通り道の入り口が鼻である。概して外気は体温より低いし、湿度も飽和には達していない。せいぜい50~60%であろうか。体温より気温と湿度の低い外気を吸い込んで酸素を取り入れ、体温と同じ温度で湿度100%の気体を吐き出すのが呼吸運動で、その出入り口に位置するのが鼻である。
  皮膚は体の最も外側を覆うので一番外気に晒され冷えやすい器官である。そのために服で覆い、或いは毛皮や羽毛でおおっている。ところが鼻を被服で覆うわけにはいかないので、鼻は普通の状態では体で最も冷えやすい部位であると考えてもよいと思う。
  体温より低い空気を取り入れて加温加湿する最も外側の場所が鼻であるとすれば、体の冷えの影響はまず鼻に現れることが理解される。鼻づまり、くしゃみ、鼻水など鼻炎の症状がそれで、その背景には体の冷えがあることを表現していると考える。いわゆるアレルギー症状といわれるものの多くは体の冷えの症状と見るべきではないかというのが漢方診療にあたる筆者の見方である。喉が痛いのは気道の奥まで冷えが及んだと考え、咳が出るのはもっと奥の気管あたりの冷え、喘息の喘鳴は更に奥の気管支の部分まで冷えた症状と考える。すると呼吸器の病気は鼻から肺にかけて段階的に体の冷えの状態が強くなって、加温加湿の防衛機能の働きが追いついていない状態と理解することができる。
  ちなみに皮膚が冷えて体温維持がうまくできないのが風邪である。漢方ではそれを傷寒と表現した。冷えた場所は必ず熱を発生して体温を回復しようとする。それが悪寒発熱ということになる。十分温まると汗をかいて皮膚温を適度に調整するのがすなわち風邪の治癒過程になる。アトピーは皮膚の病気で身体が冷えて、発汗により皮膚温の調整がうまくいかないため炎症を起こす病気と考えることもできる。このあたりで鼻炎や喘息とアトピーの関連が現れてくる。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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