漢方薬を何時まで飲むか

  漢方薬を飲み続けることは難儀なことである。
  多くの場合、体に症状のあるときは苦痛から逃れる方法として仕方なく薬を飲むが、症状がなくなると間もなく勝手に止めてしまって、しばらくすると症状が再発して来院することが少なくない。病気をちゃんと治すためにはもっと続けるべきであるのに勝手に中断して!と思うことが少なくない。そこに病気に対する当人の考え方、生活状況、社会生活等、種々の要素が絡んで自主判断による内服の中断に至るようである。
  では何時まで薬を飲めばよいのだろうか。
  その答えは病気の種類や目的によって異なるということになる。
  病気には急性、と慢性の経過がある。急性の病気は突然急に起こる病気で、多くの場合短期間に決着がつく。その代表的な例が風邪である。頭痛、発熱、悪寒に始まるが対応がよければ葛根湯の一服でよくなり以後薬はいらない。ところが一服で治らず、悪寒発熱を繰り返し、食欲が落ちるともう少し回復に時間がかかる。それでも一、二週間のことである。服薬の期間も短期に限られる。ところが慢性の病気になるとそうはいかない。例えば糖尿病である。自覚症状ほとんどないが、糖尿病の診断を受けると以後ずっと治療を続けなければならない。慢性関節リウマチなども一度発症すると基本的にはずっと治療及び経過観察を続ける必要がある。さらに老化に伴う腰痛や頻尿などの膀胱の症状などは加齢とともに進行する病気の性質上ずっと治療を続けることが望ましい。なぜなら老化に伴う症状は少しずつ進行して、完全に元に戻ることはないからである。中古車は古くはなっても、新車にももどることはないし、古い車ほどまめなメンテナンスが必要であることを思えば納得しやすいのではないかと考える。要するに慢性の症状については長期の内服が必要である。
  また経過の長い冷え症には長期の内服が必要である。喘息などの慢性疾患は一冬かふた冬越さないと効果の判定ができない。胃腸の弱い人の治療は体質的な場合は特に時間のかかることが普通である。リウマチなども経過が長いことが内服で症状はよくなっても根が切れたわけではないから、無理を重ねるなど条件がそろえば症状は簡単に戻ってくる。重症のアトピーの治療には一年以上はかかると覚悟しないといけない。
  このように慢性の病気では治療に時間のかかることがあることをよく理解し、治療が長続きするような心構えが必要である。
  漢方には標治と本治という概念がある。標治は表面に現れた症状に対する治療で、対症療法にちかい。本治は病気の原因に対する根本治療である。例えば気管支喘息である。激しい咳や、喘鳴の治療が標治である。激しい症状がよくなると喘息の元になっている冷え症や虚弱体質の治療を行なう。すると風邪を引きにくくなり、結果的には喘息の予防になる。問題ははげしい症状にたいしては苦痛をのがれるために治療を続けやすいが、根本治療になると派手な症状はないので治療の動機付けがむずかしい。病気の成り立ちに対する十分な理解がないと地味な根本治療の継続はむつかしい。そしてそれは養生や予防医学様相を帯びてくる。毎日の過ごし方、生き方にかかわってくる。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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