夏風邪への対応

 風邪は一般的に風寒の邪、つまり冷たい風に侵され、体が冷えることによって起こる。ところが最近外来では暑い夏でも風邪をひいて治りにくいという人が少なくない。なぜ暑い夏に風邪をひくのか問題である。
 このところ毎日最高気温34度の日が続き、最低気温も25度を超す熱帯夜が続いている。普段冷たいものは体に良くないと言い続けている自分も、この暑さには参って、クーラーの設定温度は高めにするようにとその使用を進めている。そのような状況で、冷たい飲食物を摂りすぎたり、クーラーが強すぎたり、薄着をしたり、寝冷えをしたりすることが夏風邪をひく原因であろうと私は自分の経験から推測している。
 私は昨年は何度か風邪をひいて発熱し、気管支炎まで併発し、すっかり健康に対する自信を無くしてしまっていた。今年は幸いにも風邪をひいていないので、昨年との生活上の違いを整理するのも無駄にはならないと思われる。
 寝るときは必ず袖のあるもので肩を冷やさないようにし、タオルケットを掛け、さらに必要なら薄い布団を合わせるようにしている。クーラーを使わないと暑くて眠れない。クーラーのタイマーが切れると目が覚めてしまうので、クーラーはつけっぱなしのほうがいいと考えて、衣服や寝具で冷えないようにした。昼間もクーラーの中では極端な薄着はしないように心がけている。このような対応で幸いにも今年はまだ風邪をひかずにいる。
 あまりにも暑いためクーラーを使用すると、温度調節が非常に難しいという経験をしている。直接風にあたると寒いし、温度を極端に下げるわけにもいかない。厚着をすると汗をかいてかえって冷えるし、薄着をすると冷えすぎて体温調節が極めて難しい。そこでなんとなく冷えると感じるときに面倒がらずに被服やクーラーの設定温度調整を面倒がらずにやることが重要であると感じている。以前は問題なかったのだが、と思わないでもないところをみるとこれも加齢変化かもしれない。
 夏風邪の漢方処方は、あまり悪寒を訴えないので冬の風邪の処方とは違っており、一口にこれだというわけにはいかない印象で、診察によって思いつく処方にしている。微熱があり、体がだるく咳が止まらない人には柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、痰の切れない激しい咳に麦門冬湯(ばくもんどうとう)を処方することもあった。また夏バテで倦怠感を訴える人が多いので、清暑益気湯(せいしょえっきとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を処方する機会が多い。

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雨降りの梅雨で目立つ訴え

 今年は梅雨明け間近になって雨が降り続いていた。梅雨の期間の訴えで気になるのが、雨が降る前の頭痛である。雨降り前の頭痛は漢方的には水毒の症状とされている。もともと浮腫んでいる人は頭の中の脳脊髄液も増える傾向にあり、頭皮も浮腫んでいる。雨降り前は湿度が上がるので体表面からの水分の蒸発すなわち不感蒸泄の効率が悪くなるので、体の表面からの水の排せつも悪くなり、脳の浮腫みも強くなり、頭痛が起こると説明する。
 体表面からの水の排泄が悪いときは尿量を増やしてむくみをとればいいわけで、漢方では五苓散(ごれいさん)が使われ、雨降り前の頭痛によく効いている。
 身体が浮腫みやすい状態は女性では排卵後の黄体期に起こりやすい。すると生理前は黄体ホルモンの作用で体が浮腫みやすい時期になる。したがって月経前緊張症の症状ではイライラ以外に頭痛を伴うことが多く、加味逍遥散(かみしょうようさん)に五苓散を併用すると頭痛がよくなる場合が多い。
 身体が浮腫みやすくなる生活習慣に炭水化物や糖分の摂りすぎがある。果物や野菜の栽培では果実の糖度を上げるために収穫前にできるだけ水分の補給を少なくするという。糖には水分を保持する作用があるため、水不足の栽培環境では植物は糖分が増やして命をまもるというのである。このように、糖分とむくみには興味深い関係があり、人間の場合は糖をとりすぎると逆に浮腫んでくるのではないかと考える。従って頭痛もちの人は普段から糖分の摂りすぎに注意する必要がある。
 このように漢方では症状を改善する漢方処方の効能から生活習慣の問題点を推測し、生活上の課題を改善して根本治療に結び付けるのである。頭痛の背景には体のホルモンバランスのリズムや生活習慣が複雑に絡んでいることが考えられる。

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体温調節の難しさ

 最近私は風邪で体調を崩した。今年は暑い日が続き、職場でも家でもクーラーや扇風機の世話になることが多かった。特に夜間の熱帯夜は寝苦しく、冷房でつい寝冷えをしがちであったし、職場でも夕方になるとクーラーが効きすぎて、体も冷えすぎかなと思うことがあった。そんな中で、どうも冷えにやられたのではないかとひそかに思うことがあった。なんとなく喉が痛み、体がすっきりしないのである。このとき少し仕事のペースを落とすか、朝の運動などの日課を少し減らすなどして調整すればよかったのだが、慣性の法則で簡単には日課の軌道修正ができない。そのうち夜寝汗をかき、体が熱くなったり、冷えすぎたりで体温の調節が難しくなってきた。しばらくすると咳が出て気管支炎のような症状になってしまった。ベッドの敷物では温まりすぎて汗が出る、クーラーは冷えすぎる、扇風機では冷えすぎる。タオルケットをかけると、汗をかいてなんども寝間着を変えなければならなかった。そんな時、イグサでできたゴザをベッドに敷いたら下からのマットの熱が調節されちょうどよかった。そして自然の風による涼しさでやっとで眠れるようになった。上半身に汗をかいて微熱があるので柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、さらに出すぎる汗を止めるために玉屏風散(ぎょくへいふうさん)を合わせて飲んだら汗が少しずつ減り、やっと体が楽になった。抗菌剤も併用した。体温の調節難しいことを改めて実感した。また年齢のことも気になった。
 暑い季節には冷たいものを飲み、クーラーを強くしたくなるのが人情である。しかし冷たいものを飲み、胃を冷やされた体は体温を維持するために、皮膚を引き締めて汗腺を閉じ、汗をかかないように反応すると考えられる。すると体は余計に暑く感じるので、勢いクーラーの設定温度を下げ、思い切り冷やそうとする。すると体が余計に冷やされ、鼻炎、体のほてりなど、冷えによる症状はなかなか治らないどころかこじれていく。冷えに反発して体温が上昇する場合、病気も余計にこじれていくのではないかと考える。
 最近温熱蕁麻疹の人が見えた。体温が上がると現れるタイプのじんましんである。それで熱くならないようにと考えて冷たい水を飲んだようで、汗が出なくなり余計に暑くなり、蕁麻疹もひどくなった。そこで温かいものを飲んだ方が体は汗をかくように反応するので体温は下がりやすいと納得してもらって、飲み物をあたたかくし、体を冷やす薬を処方したらやっと落ち着いてきた。
 また乳がん手術後でホルモン療法に伴うホットフラッシュの場合でも冷たいものをしっかり飲んで暑がっている人がいた。
 このように生活環境における体温調節は薬の効果と体の調節機能が同じ方向に向くように、飲食物の体温調節に対する影響にも配慮し、指導することが効果的な治療につながると痛切に感じる。

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今年の風邪

 今年の初め、まだ暖冬でインフルエンザが多くない頃、風邪で咳を訴える人が目立った。多くは痰の少ない空咳が一定の間隔を置いて激しく起こる。喉から気管支に至る気道が乾燥しているため、痰が切れにくいので、勢い激しい咳になり、やっとで痰が少し出ると止まる。それを繰り返すのである。つまり風邪の急性期の症状が治まり、咳だけ残る。このような咳を“大逆上気”といい、麦門冬湯(バクモンドウトウ)がよく効く。胃腸の働きを良くして、腸から吸収された水を肺に運び、痰を柔らかくして出しやすくする結果、咳が治まるのである。
 ところが2月になると暖冬が一変して厳冬に変わり、インフルエンザの患者さんが目に付くようになった。悪寒、発熱、筋肉痛や関節痛を訴え、汗をかかず、お腹を触ると皮膚の表面が熱く、熱感が強い。脈は力強く、高熱を出す。このような風邪に使う処方は大青竜湯(ダイセイリュウトウ)である。悪寒、発熱、汗をかかない、関節痛がある、脈が浮いて緊張しているという所見を呈する麻黄湯(マオウトウ)よりもさらに熱感が強く、麻黄湯でも汗をかきにくい一番難儀な風邪が大青竜湯の適応である。横になっても体が休まらず転々として身の置き所がない状態を煩躁というが、大青竜湯の風邪はこの煩躁を伴う。大青竜湯には麻黄と石膏と桂枝が配合され、強力に発汗を促すことで解熱する仕組みになっている。大青竜湯で風邪が治せるようになると、漢方で風邪はなんとかなる、とほっとしたことを思い出す。
 ところが、漢方のエキス剤には大青竜湯がないので、先輩方は越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)と麻黄湯のエキス剤を組み合わせたり、麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)と桂枝湯エキスを組合わせたりして、麻黄、石膏、桂枝を含む大青竜湯と同じ効が得られるように工夫しておられる。このような処方で治療すると煩躁の状態でもよく熱が下がり、早く楽になることを経験している。
 風邪の治療の原則は温かく安静にして、温まり、汗をかくことである。十分体が温まると自然に発汗して解熱する。薬だけ飲んでも安静を怠り、冷たいものを飲んで、温める漢方薬の作用を弱めると風邪はこじれて長引いてしまうことを知らなければならない。
 人体は自動調節の限界を超えて冷えると代謝を上げ発熱し、体温の高いうちに治ろうと戦っているように見え、これを陽証と言い、温まろうにも体温をあげる体力がなく熱も出せない悪寒の厳しい状態を陰証といった。陰証の風邪はより重篤で余裕がないことが理解される。陰証の状態に対する治療法を知っていた点で漢方は現代医学より風邪の治療に優れていた。

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夏に見られるわかりにくい二つの病態

 毎年夏になると、今年の夏は特別暑いと最近思うのであるが、猛暑日の発生回数は明らかに以前より増えているのではないかとテレビの天気情報を見て思う。それを裏づけるように熱中症で運ばれる人は昨年より増加し、その中で死亡する人も後を絶たない。
 そこで最近では外来では気分が悪いというとまず熱中症ではないかと疑って診察することにしている。口の乾き、汗の書き具合、便秘の有無、尿の出具合、体のほてり感、頭痛などの症状を確認する。そして手の甲の皮膚を摘み上げて、皮膚の乾き具合とつまんだ皮膚のもどりの悪さを確認する。頭痛、気分が悪いという場合、普通は感冒を考えるが、熱中症がらみの場合は寒気がないので鑑別できる。
 つまんだ皮膚の戻りが悪い場合に熱中症に対する注意を喚起すると、意外にも本人が脱水に気づいていないことが多い。特に気分が悪い場合には点滴を行う。口渇や吐き気があると柴苓湯(さいれいとう)、動悸があると炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などの漢方薬を飲んでもらう。症状が軽い場合は水分の摂取を促し、胃腸から水の吸収を促す五苓散(ごれいさん)や、暑気あたりの清暑益気湯(せいしょえっきとう)、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)などを処方する。とくに高齢者の場合自分では水分をよくとっているつもりでも、実際にはあまり飲んでおられない方が多い印象を受ける。注意して水分やミネラルの摂取の重要性を強調すると感謝される。クーラーをつけているので熱中症にならないと思っておられる方もおられるので要注意である。
 一方、最近熱を出して入院していろいろ検査をしたが原因不明で退院したという方が見えた。発熱の症状がある場合、感冒や細菌感染、膠原病などの病気を疑って検査するのが一般的な対応であるが、それで原因がはっきりしない場合には治療の仕様がないことになる。最近特に暑いのでクーラーの中で長時間過ごし、冷たいものを摂りすぎて体を冷やすと発熱してくるのである。そのような場合は発熱しているにもかかわらず、血液検査やCT,MRIなどの検査で大きな異常が見つからないのである。その病態は、冷えすぎて自動調節では体温の維持ができないため、体温を保つ非常手段として発熱して体温を維持しようとしている体の仕組みによるのではないかと私は考える。
 また食欲がない、元気がないという人が見えた。手の甲の皮膚を摘み上げて見ると皺の戻りが悪いので、脱水があるので水分摂取を確認したところ、しょっちゅう水は飲んでいるということであったが、腹を診察してみると胃のあたりがヒヤッとして冷たい。冷たいものを飲んでいるのではないかと問いただすと、暑いので冷蔵庫でキンキンに冷やした水を飲んでいるという。これで脱水と食欲不振、全身倦怠感の謎が解けた。冷たい水分をとると胃が冷えて動かなくなる。すると吐き気がして食欲がなくなる。冷えた胃腸は消化吸収が悪くなるので、飲んだ水も吸収されない。すると水を飲んでも胃にたまるだけで吸収されず、血管の中の水は増えず、全身にも水が運ばれないので水を飲んでも脱水の状態のままになる。飯は食えない、水を飲んでも吸収されない、元気はないという状態になるのである。この方の場合はまず点滴をしながら脱水を改善し、その間に附子理中湯(ぶしりちゅうとう)を飲ませると本人が気づくほどに胃が温まってきた。そこで温かい白湯をのますと胃も楽になって、食事もとれるようになってきた。胃を冷やす冷たい水やコーヒー、果物などを控えるように厳しく注意して帰ってもらった。漢方ではコーヒーの性味は苦寒で、ホットでも胃を冷やすと考える。おしゃれな飲み物であるが元気のない人は要注意である。
 暑い季節は熱によって温まりすぎて、水分摂取が追い付かないと熱中症になる危険性がある一方、暑さをしのぐために冷たいものを摂りすぎて胃腸や体を冷やしすぎて不調を起こす逆の現象も起こる二面性があることに注意する必要がある。このような病態は漢方的な病態認識をもたないとわかりにくいのではないかと私は考えている。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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