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夏のインフルエンザ

 インフルエンザは冬の病気であるというのが一般的認識で、予防接種も冬を前にした10月頃から始まる。ところが今年のインフルエンザは冬が過ぎても流行しているようであったし、最近市内の公立病院では職員が50名もインフルエンザで休んでいるという深刻な話も聞こえてくる。なぜそうなったのだろうか。
 インフルエンザは冬に流行る風邪の一種と考えると、漢方的には傷寒すなわち寒冷刺激による障害と考えることができる。つまり冬の冷たい北風により、体を冷やし、体温を維持できなくなったために悪寒・発熱を起こして体温調節機能の回復を図ろうとしていると考える。では最近なぜ夏に風邪を引くかということが疑問になる。
 最近地球の温暖化が進んだせいか、近年夏も特に猛暑の日が続く。何年か前までは沖縄の最高気温はせいぜい31度であったと思うが、最近では33度が珍しくなくなった。確実に夏の気温は上がっていると思うし、以前より暑くなっていると体感される。すると勢い暑さ対策でクーラーを利用する機会が増え、強力に冷やしてくる。その結果外は夏であるのに、部屋の中は冬ということが起こると考えられる。また暑いので薄着をしているのに、室内では長い時間クーラーの効いた寒い中で過ごすことになると、漢方でいう傷寒が夏にでも起こりえると考える。
 そのような理由で夏でもインフルエンザが流行するということが理解できるのではないだろうか。
 ただ最近のインフルエンザでいつもと違うのは症状である。冬のインフルエンザは悪寒発熱、関節痛などの風邪の初期症状で来院することが多かったが、最近は体がだるい、食欲がない、のどが痛いなど、いつもの典型的な風邪の症状と違うのに、検査をするとインフルエンザ陽性となっている。するとそれらの症状に合わせた漢方薬を選ぶのが少し面倒な感じがしている。つまり一つの処方では対応できず、症状に応じた処方を選択しないとならない点で専門的な評価が必要になる。
 温暖化が進みクーラーの設定温度が下げられ、その上冷たいものを飲んで腹を冷やすような機会が増えると、夏風邪や夏のインフルエンザは今後更に増えてくるのではないかと予想される。
 睡眠時薄着をしないこと、せめて肩は冷さないように袖のある寝間着を着るように注意すること。クーラーの設定温度はできるだけ上げておくこと、職場では必要に応じた防寒対策を遠慮せずに行うことなどして冷えないように心がけることが、夏風邪の予防になると考える。
 今年の連休に東南アジアに旅行した時、旅行社の注意事項に長袖のシャツを一枚余分に持ってくださいとあった。なぜだろうと思っていたが、飛行機に乗ってしばらくするとその理由が分かった。飛行機やホテルのクーラーが強力であった。あれでは長時間のフライトに薄着でいると体調を崩すと思った。そこで毛布をもらって冷えないようにして事なきを得た。

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夏風邪への対応

 風邪は一般的に風寒の邪、つまり冷たい風に侵され、体が冷えることによって起こる。ところが最近外来では暑い夏でも風邪をひいて治りにくいという人が少なくない。なぜ暑い夏に風邪をひくのか問題である。
 このところ毎日最高気温34度の日が続き、最低気温も25度を超す熱帯夜が続いている。普段冷たいものは体に良くないと言い続けている自分も、この暑さには参って、クーラーの設定温度は高めにするようにとその使用を進めている。そのような状況で、冷たい飲食物を摂りすぎたり、クーラーが強すぎたり、薄着をしたり、寝冷えをしたりすることが夏風邪をひく原因であろうと私は自分の経験から推測している。
 私は昨年は何度か風邪をひいて発熱し、気管支炎まで併発し、すっかり健康に対する自信を無くしてしまっていた。今年は幸いにも風邪をひいていないので、昨年との生活上の違いを整理するのも無駄にはならないと思われる。
 寝るときは必ず袖のあるもので肩を冷やさないようにし、タオルケットを掛け、さらに必要なら薄い布団を合わせるようにしている。クーラーを使わないと暑くて眠れない。クーラーのタイマーが切れると目が覚めてしまうので、クーラーはつけっぱなしのほうがいいと考えて、衣服や寝具で冷えないようにした。昼間もクーラーの中では極端な薄着はしないように心がけている。このような対応で幸いにも今年はまだ風邪をひかずにいる。
 あまりにも暑いためクーラーを使用すると、温度調節が非常に難しいという経験をしている。直接風にあたると寒いし、温度を極端に下げるわけにもいかない。厚着をすると汗をかいてかえって冷えるし、薄着をすると冷えすぎて体温調節が極めて難しい。そこでなんとなく冷えると感じるときに面倒がらずに被服やクーラーの設定温度調整を面倒がらずにやることが重要であると感じている。以前は問題なかったのだが、と思わないでもないところをみるとこれも加齢変化かもしれない。
 夏風邪の漢方処方は、あまり悪寒を訴えないので冬の風邪の処方とは違っており、一口にこれだというわけにはいかない印象で、診察によって思いつく処方にしている。微熱があり、体がだるく咳が止まらない人には柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、痰の切れない激しい咳に麦門冬湯(ばくもんどうとう)を処方することもあった。また夏バテで倦怠感を訴える人が多いので、清暑益気湯(せいしょえっきとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を処方する機会が多い。

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雨降りの梅雨で目立つ訴え

 今年は梅雨明け間近になって雨が降り続いていた。梅雨の期間の訴えで気になるのが、雨が降る前の頭痛である。雨降り前の頭痛は漢方的には水毒の症状とされている。もともと浮腫んでいる人は頭の中の脳脊髄液も増える傾向にあり、頭皮も浮腫んでいる。雨降り前は湿度が上がるので体表面からの水分の蒸発すなわち不感蒸泄の効率が悪くなるので、体の表面からの水の排せつも悪くなり、脳の浮腫みも強くなり、頭痛が起こると説明する。
 体表面からの水の排泄が悪いときは尿量を増やしてむくみをとればいいわけで、漢方では五苓散(ごれいさん)が使われ、雨降り前の頭痛によく効いている。
 身体が浮腫みやすい状態は女性では排卵後の黄体期に起こりやすい。すると生理前は黄体ホルモンの作用で体が浮腫みやすい時期になる。したがって月経前緊張症の症状ではイライラ以外に頭痛を伴うことが多く、加味逍遥散(かみしょうようさん)に五苓散を併用すると頭痛がよくなる場合が多い。
 身体が浮腫みやすくなる生活習慣に炭水化物や糖分の摂りすぎがある。果物や野菜の栽培では果実の糖度を上げるために収穫前にできるだけ水分の補給を少なくするという。糖には水分を保持する作用があるため、水不足の栽培環境では植物は糖分が増やして命をまもるというのである。このように、糖分とむくみには興味深い関係があり、人間の場合は糖をとりすぎると逆に浮腫んでくるのではないかと考える。従って頭痛もちの人は普段から糖分の摂りすぎに注意する必要がある。
 このように漢方では症状を改善する漢方処方の効能から生活習慣の問題点を推測し、生活上の課題を改善して根本治療に結び付けるのである。頭痛の背景には体のホルモンバランスのリズムや生活習慣が複雑に絡んでいることが考えられる。

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体温調節の難しさ

 最近私は風邪で体調を崩した。今年は暑い日が続き、職場でも家でもクーラーや扇風機の世話になることが多かった。特に夜間の熱帯夜は寝苦しく、冷房でつい寝冷えをしがちであったし、職場でも夕方になるとクーラーが効きすぎて、体も冷えすぎかなと思うことがあった。そんな中で、どうも冷えにやられたのではないかとひそかに思うことがあった。なんとなく喉が痛み、体がすっきりしないのである。このとき少し仕事のペースを落とすか、朝の運動などの日課を少し減らすなどして調整すればよかったのだが、慣性の法則で簡単には日課の軌道修正ができない。そのうち夜寝汗をかき、体が熱くなったり、冷えすぎたりで体温の調節が難しくなってきた。しばらくすると咳が出て気管支炎のような症状になってしまった。ベッドの敷物では温まりすぎて汗が出る、クーラーは冷えすぎる、扇風機では冷えすぎる。タオルケットをかけると、汗をかいてなんども寝間着を変えなければならなかった。そんな時、イグサでできたゴザをベッドに敷いたら下からのマットの熱が調節されちょうどよかった。そして自然の風による涼しさでやっとで眠れるようになった。上半身に汗をかいて微熱があるので柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、さらに出すぎる汗を止めるために玉屏風散(ぎょくへいふうさん)を合わせて飲んだら汗が少しずつ減り、やっと体が楽になった。抗菌剤も併用した。体温の調節難しいことを改めて実感した。また年齢のことも気になった。
 暑い季節には冷たいものを飲み、クーラーを強くしたくなるのが人情である。しかし冷たいものを飲み、胃を冷やされた体は体温を維持するために、皮膚を引き締めて汗腺を閉じ、汗をかかないように反応すると考えられる。すると体は余計に暑く感じるので、勢いクーラーの設定温度を下げ、思い切り冷やそうとする。すると体が余計に冷やされ、鼻炎、体のほてりなど、冷えによる症状はなかなか治らないどころかこじれていく。冷えに反発して体温が上昇する場合、病気も余計にこじれていくのではないかと考える。
 最近温熱蕁麻疹の人が見えた。体温が上がると現れるタイプのじんましんである。それで熱くならないようにと考えて冷たい水を飲んだようで、汗が出なくなり余計に暑くなり、蕁麻疹もひどくなった。そこで温かいものを飲んだ方が体は汗をかくように反応するので体温は下がりやすいと納得してもらって、飲み物をあたたかくし、体を冷やす薬を処方したらやっと落ち着いてきた。
 また乳がん手術後でホルモン療法に伴うホットフラッシュの場合でも冷たいものをしっかり飲んで暑がっている人がいた。
 このように生活環境における体温調節は薬の効果と体の調節機能が同じ方向に向くように、飲食物の体温調節に対する影響にも配慮し、指導することが効果的な治療につながると痛切に感じる。

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今年の風邪

 今年の初め、まだ暖冬でインフルエンザが多くない頃、風邪で咳を訴える人が目立った。多くは痰の少ない空咳が一定の間隔を置いて激しく起こる。喉から気管支に至る気道が乾燥しているため、痰が切れにくいので、勢い激しい咳になり、やっとで痰が少し出ると止まる。それを繰り返すのである。つまり風邪の急性期の症状が治まり、咳だけ残る。このような咳を“大逆上気”といい、麦門冬湯(バクモンドウトウ)がよく効く。胃腸の働きを良くして、腸から吸収された水を肺に運び、痰を柔らかくして出しやすくする結果、咳が治まるのである。
 ところが2月になると暖冬が一変して厳冬に変わり、インフルエンザの患者さんが目に付くようになった。悪寒、発熱、筋肉痛や関節痛を訴え、汗をかかず、お腹を触ると皮膚の表面が熱く、熱感が強い。脈は力強く、高熱を出す。このような風邪に使う処方は大青竜湯(ダイセイリュウトウ)である。悪寒、発熱、汗をかかない、関節痛がある、脈が浮いて緊張しているという所見を呈する麻黄湯(マオウトウ)よりもさらに熱感が強く、麻黄湯でも汗をかきにくい一番難儀な風邪が大青竜湯の適応である。横になっても体が休まらず転々として身の置き所がない状態を煩躁というが、大青竜湯の風邪はこの煩躁を伴う。大青竜湯には麻黄と石膏と桂枝が配合され、強力に発汗を促すことで解熱する仕組みになっている。大青竜湯で風邪が治せるようになると、漢方で風邪はなんとかなる、とほっとしたことを思い出す。
 ところが、漢方のエキス剤には大青竜湯がないので、先輩方は越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)と麻黄湯のエキス剤を組み合わせたり、麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)と桂枝湯エキスを組合わせたりして、麻黄、石膏、桂枝を含む大青竜湯と同じ効が得られるように工夫しておられる。このような処方で治療すると煩躁の状態でもよく熱が下がり、早く楽になることを経験している。
 風邪の治療の原則は温かく安静にして、温まり、汗をかくことである。十分体が温まると自然に発汗して解熱する。薬だけ飲んでも安静を怠り、冷たいものを飲んで、温める漢方薬の作用を弱めると風邪はこじれて長引いてしまうことを知らなければならない。
 人体は自動調節の限界を超えて冷えると代謝を上げ発熱し、体温の高いうちに治ろうと戦っているように見え、これを陽証と言い、温まろうにも体温をあげる体力がなく熱も出せない悪寒の厳しい状態を陰証といった。陰証の風邪はより重篤で余裕がないことが理解される。陰証の状態に対する治療法を知っていた点で漢方は現代医学より風邪の治療に優れていた。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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