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触らぬ神に祟りなし

 “触らぬ神に祟りなし”余計なことをするから悪いことがおこるということの例えと理解しているが、同じようなことが診療の現場でも起こっているように思う。
 漢方をやっているとアトピーや湿疹など皮膚のかゆみを訴える患者さんが多く見える。その治療をしていると、皮膚が何とか落ち着いたころに治りかけた皮膚が痒いためをかきむしって元の木阿弥に戻してしまうことが少なくない。そんな時に“触らぬ神に祟りなし”と叫びたくなる。せっかく治りかけてきたのにと腹立たしくなるのである。
 皮膚の病気を見ていると触らなければそのまま治っていくのにと思われることが少なくない。どうも皮膚は治りかけたころに痒みが強くなるようで、皮膚をかき壊して悪くし、それを繰り返して慢性化して醜い皮膚になっているように見える。だから「できるだけ触らないようにそっとしてください。」と言い続けているが、「わかってはいるんですけどね。」と言われるのが落ちではある。
 風邪などの場合でも薬だけ飲んだら治ると思うのは誤りで、薬が効くように体を安静にする、体を休めることが必要である。それと同じように皮膚の病気でも皮膚の安静を図ることが治るために必要であると感じる。皮膚の安静ということは言い換えると痒いところを触らずそっとしておく、ということである。対処療法でもなんでも、とにかく痒みを抑えてそっとしておくことそれで時間がたてば自然に治っていくと思うのであるが、それを掻いてしまうためうまくいかないのである。
 医師会の会合で皮膚科の先生が「痒い所を掻くと気持ちがいいですからやめられないと思いますよ。」と意外なことを言われた。たしかに何かの拍子で痒みが起こった時に痒いところに手が届くと気持ちがいいということは、快感の表現にもなっているからそれは間違いないのである。しかし悪い皮膚をかいて悪くするのは、後で痛みも加わって辛くなるのであるから、掻くべきでないと思うのであるが、病人にとっては痒いのに掻くのを抑えるのは大変困難なように見える。
 ストレスがかかると悪い皮膚をかきむしって余計に悪くする人も見られる。そこでストレスの漢方薬を併用することもあるが、“触らぬ神にたたりなし”と言い聞かせながら試行錯誤の毎日である。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

漢方における最近の癌治療

 若いころは癌という病気について、漢方で何とかしなければと悲壮感に満ちて何が何でもねじ伏せようという意気込みで対峙していたように思う。しかし振り返ってみるとあの頃は漢方薬の使い方の技術が未熟であった。今でも未熟ではあるが。また死に向き合う深刻さから肩に力が入りすぎていたように思う。
 ところが最近は大分変ったと感じる。癌で見えるほとんどの患者さんは病名や予後について告知され、厳しい状況であることを自覚して漢方治療を求めてこられる。またお互いに簡単に治るとも思っていないので、ダメ元という気持ちのゆとりを持てるのがいいのではないかと感じる。
 漢方薬の使い方の技術については漢方を30年以上も続けてくると、情報と経験からある程度は見通しが立ってくる。またクリニックでの外来治療を前提としているので、入院が必要になれば、病院の主治医に引き受けてもらえるということも精神的負担をかるくしてくれる。治療する側もリラックスできるようになった。
 さて専門的になるのであるが、癌は瘀血であるという考え方が漢方の基本にある。従って駆瘀血薬という範疇の漢方薬を使えばよいということになっている。瘀血とは滞った血液という意味で、それによって起こる血の巡りの悪さから起こる体の状態を瘀血とみて、その瘀血の病態から癌が起こると考える。瘀血には熱をもった瘀血と冷えた瘀血の区別があり、前者は通導散(つうどうさん)、後者は芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)を基本にした治療を山本巌先生は提唱しておられる。その基本的な考えを知っただけでも、だいぶ気分的に救われた思いがしている。駆瘀血薬を使うと癌の発育する環境が改善され、痛みの症状などが緩和され、運が良ければ治らないまでも病気がおとなしくなりそうなのである。そのうえで全身状態を改善する適当な漢方薬を組み合わせ得ればよい。
 80代の老人が肝内胆管癌でステントを入れて黄疸は良くなったが、食欲もなく、元気がなくなったと来られた。そこで通導散加桃仁牡丹皮という煎じ薬に、全身の免疫力を上げる補中益気湯エキス、胆汁排泄を促進する茵沈五苓散エキスを合わせて処方した。すると食欲が出て体重が増えて元気になり、農作業にも出られるようになった。すると少し外来がおろそかになってきた。しばらくして姿が見えなくなったので聞くと、どうも入院しているらしい。外来通院中の検査で腫瘍マーカーは上昇していたので病気は進んでいるだろうとは思われた。そして結局最近亡くなられたという。しかし半年近くも持ち直して元気に農作業に戻れたのは大きな救いではなかったかと考える。漢方薬の手ごたえを感じた。
 症状がよくなって外来が少し遠のいたころ、「自分の病気は何か知っておられますか?」と聞いたら「癌です」と答えられたので、「難しい病気ですからしっかり漢方薬を飲んだ方がいいですよ」と伝えたのではあるが、一時的にはせよQOLが改善したのは、まあ手ごたえはあったと感じている。このように癌は少しでも良くなれば儲けものという気持ちで命を見据えながら治療ができるようになったのは年を重ねたことによるゆとりではないかと思う。

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頻尿の原因がわからない

 昼も夜も一時間おきにトイレに行くが原因がわからないという女の子が来た。婦人科、泌尿器科、心療内科にも行ったが検査で異常はみとめなかったという。
 少しやせ気味で顔色はあまりよくない。下半身が冷えるという。冷たいものやコーヒーなど体を冷やす飲み物を摂っている。生理不順で生理痛もひどい。
 頻尿の原因で最も多いのは膀胱炎である。膀胱炎では尿が濁り、排尿痛が強いが、この女の子の場合排尿痛はなく、尿も濁っていなかった。尿が濁っていない頻尿の場合は精神的な要因を考えるのが一般的である。精神的なものからくる頻尿は起きている時だけに起こり、寝ている夜間に頻尿はないという特徴がある。ところがこの女の子の場合寝ている時も尿意が起こり目を覚ますというのである。そのような場合の頻尿は精神的な原因ではなく、膀胱組織の異常による頻尿で、例えば間質性膀胱炎などのように膀胱の壁が固くなり、膀胱の容量が小さくなった場合である。膀胱が小さくなり尿をたくさん貯めることができないため尿の回数が増える。ところが泌尿器科の検査で膀胱の容量は正常であった。こうなると西洋医学的には頻尿の原因は不明ということになる。
 ところで漢方では腰の冷えるよる頻尿の場合がある。俗に腰が冷えて尿が近いというような頻尿である。このような頻尿に腰を温める漢方薬を処方する。現代医学的には腎臓の糸球体でろ過された尿の再吸収を高める結果、排泄される尿量が減るので頻尿がよくなる仕組みになっている。この場合最も注目すべきことは冷たいものをよく飲んだり食べたりして体を冷やしていたことで腰が冷え、尿が近くなったことである。そしてそれが冷え性や生理痛の原因にもなっている。
 そこで冷たいものを控え温かいものを飲むように厳重に注意した。冷えは万病のもとである。
 最近前立腺肥大症と言われ、昼間の尿の回数が多いという人が見えた。なんとか手術しないで治療できないかという。残尿が200cc近くもあると言われた。その割には夜間の尿の回数が2回と案外に少ない。すると精神的要因も大きいのではないかと考えたが、エコーの検査で前立腺の大きさを調べたところ確かに大きいし、残尿も多いので手術を勧めた。

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訳のわからない胸痛

 原因不明の胸痛で何年も困っている人を時々診る事がある。いろいろな検査をしても原因がわからず、一日中痛むので不安になり、日常生活がきわめて不快になり困っている。
 胸痛で最も心配なのは心疾患で、その中でも心筋梗塞である。重症の場合はできるだけ早く検査をして心臓の塞がった血管を広げてあげなければ命の危険に直結する。これは心電図をとり、血管造影などを行うとわかるので問題ないと思われる。それ以外に大動脈など大きな血管が裂けたり、破裂したりすることもあるがこれも早く病院にいって検査をすればわかる。胸部の帯状疱疹のごく初期の場合は皮膚に変化がないためわかりにくいこともあるが、そのうち左右どちらか片方に水疱ができてくるので間違えることはない。これに対して原因のわからない胸痛に何年も悩まされる人がいて、あらゆる検査で異常を認めないのである。
 何時のころからかその原因について知ることができた。真幸先生から教えられたのか自分で見つけたのか記憶が定かでない。ヒントは背骨の棘突起に会った。その胸の痛みはふつう前胸部の上から肋骨弓の間のどこかに訴える。その痛みの胸の高さでで線をグルッと背中側に回したあたりの背骨の棘突起を指で押さえるか、腱反射を見るハンマーでたたいていくと特に痛みの強い突起を見つけることができる。胸痛はふつう右か左かどちらか一方に強いから、少し堅い台にうつぶせに寝かせ、その痛む棘突起を痛みとは反対側から痛む方に押し戻すつもりで手のひらで押し付ける。すると多くの場合パチンと音を立てたあと胸痛が一瞬のうちに消えている。全身の筋肉の緊張をぬいた状態で行なうことがコツである。
 胸椎の棘突起が何らかの機転で少し左右にずれたために反対側の肋間神経が引っ張られて神経痛を起こしていると考えたら説明がつく。そのずれを元に戻したとき棘突起がはねた音がパチンという音で、患者は自分の体の中から発する音だから自覚できる。
 これによってこのような胸痛が肋間神経痛で、胸椎の捻じれによっておこることが理解される。
 此の痛みのメカニズムはほとんど知られていないため、放置され、患者を悩ませている。ところが一瞬の整復操作を加えると痛みが瞬時に消える。知っておくと多くの人が楽になると思う。これは関心を持ち理解できる人の為に記録を残しておく。

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肝経の湿熱

 漢方の中でも後代いわれた言葉に『肝経の湿熱』という言葉がある。肝経というのは鍼灸における厥陰肝経という経絡、すなわちツボをつなぎ合わせた気の流れの通路の名称である。具体的には足の親指の爪の外側の付け根の角から少し外側に寄った太敦というツボから足の甲の内側寄りを上向し、下腿前面内側、膝関節前内側、鼠蹊部から外陰部を通り、下腹部前内側を上向、肝臓の上を通り、胸部側面から腋、鎖骨の上の窪みを通って則頸部を上向し、耳から頬のあたりまでつながっている。湿熱というのは現代医学的には炎症による浮腫のことであるから、上に示した厥陰肝経の通路に起こった炎症を肝経の湿熱という。
 肝経の湿熱をきたす病気には現代医学的にどういうものがあるかと云うと、足の方から挙げて見ると、先ず足の親指の炎症である痛風である。また同じ部位の水虫もそれにあたる。少し上に行くと下腿前内側の湿疹や化膿性の病気、静脈瘤による炎症。もう少し上の膝にいくと、膝の関節炎である。さらに上にいくと鼠蹊部のリンパ節縁である。さらに進むと陰部の炎症である。陰部の潰瘍や尿道炎、前立腺炎、膀胱炎、膣炎などがある。更に上にいくと肝臓や胆嚢があるので、肝炎や胆嚢炎もそれにあたる。更に上にいくと乳房があり、乳腺炎があり、腋のほうでは腋の毛嚢炎やリンパ節炎、首の方へ行くと頚部リンパ節炎、更に耳の周りの炎症、顔の吹き出物や炎症口内炎も挙げられる。このように実に多くの病気が肝経の湿熱に属していることが分かる。そんなに沢山の病気が龍胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)が効くというのが、後世方派という漢方流派のふれ込みである。この処方は竜胆(リンドウ)山梔子(クチナシ)黄芩など炎症性浮腫を除く生薬に地黄、当帰など血流を増やす薬、車前子(オオバコの種)沢瀉など浮腫みを取る薬を組み合わせて、いわゆる肝経の湿熱に対応している。
 私が竜胆瀉肝湯は肝経の湿熱によく効くということを実感したのは15,6年前ハートライフ病院に勤務していた頃であった。ある時鼠蹊部から陰嚢にかけて蒸れやすいところに湿疹ができて、鼠蹊部の皮膚が爛れて歩行もままならないという老人が見えた。もう何年も皮膚科に通っているがよくならないという。竜胆瀉肝湯を処方したら一週間で好転しそのうち治ってしまったのには私の方がびっくりした。
 また研修医の頃、慢性前立腺炎の患者さんは治療の効果が上がらず医者泣かせで、ドクターショッピングをする代表的な病気であると教えられた。生殖器の慢性炎症は竜胆瀉肝湯であると考え、この処方を使いだして比較的効く感触を得て、それで困るようなことは無くなった。
 また最近、鼠蹊部の顔面の湿疹を伴いながら陰茎がただれて困るという人が見えた。仕事で酒を飲む機会が多く、過労気味であるという。竜胆瀉肝湯で即座に手ごたえが得られた。この方のように酒を飲むと前立腺や、膀胱、痔など下半身の病気や湿疹など炎症性の病気は確実に悪くなる傾向がみられる。アルコールにより組織が充血し熱を帯びるので、それが炎症を悪化させると考えられる。すると肝経の湿熱という病態はアルコールのように顔が赤くなり熱を帯びる、すなわち炎症を起こしやすい飲食物の摂りすぎによって起こる可能性が考えられる。従ってお酒の飲みすぎや過労、睡眠不足など身体に内熱を引き起こすような生活は改めるような養生の指導は不可欠である。又からし類などの刺激物もその強く温める作用により炎症が悪化すると考えられるので注意が必要である。いくら漢方薬が効くといっても病気を悪化させる生活要因を放置しては効く薬も効かないのは道理である。
 このように病気が起こってくる病理がわかると、其の人の生活背景の何が悪さをしているかも見えてきて漢方薬による治療が効果を発揮してくる。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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