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外来患者の病気に見る西洋医学の課題

 以前から感じていたことであるが、漢方外来に見える患者さんの訴えをみていると、現代医学の問題点が見えてくるように思える。
 まず子供たちは鼻炎や副鼻腔炎が多い。多くの場合何年も病院に通っているのに治らないという。抗アレルギー剤を飲んでいる間はいいが、薬をやめると元に戻るという。漢方的に考えると、鼻炎や上気道の炎症は肺の冷えによるので、肺の冷えつまり鼻から気管支に至る上気道の冷えを考慮しないとよくならない。上気道の冷えは多くの場合、体を冷やす飲み物や食べ物で胃を冷やすことで引き起こされる。従ってそれに対する注意をしないと根治はむつかしい。
 次に皮膚疾患が多い。西洋医学的な湿疹の治療はほとんどステロイドを中心とした炎症を抑える軟膏に頼っているように見える。漢方では皮膚の湿疹を抑える内服薬の処方があるので、湿疹の症状にあった処方を選択し組み合わせ、内服薬により炎症の治療ができる。もちろん漢方にも炎症を抑える軟膏もあるが効果は弱いので漢方薬をうまく選択し、組み合わせなければならない。炎症による皮膚の乾燥については西洋医学的な保湿の外用薬を併用する。その上で甘いお菓子を控え、日焼けを避け、疲れやストレスを溜めないという生活指導も、湿疹を悪化させないために必要である。そうすることで根治につながるのではないかと考え、患者さんが自分の病気の成り立ちに気づくように指導している。
 首が凝り、回らない、肩が凝るなどの症状、また肩関節痛や腕の神経痛など、いわゆる頚肩腕症候群といわれる症状を訴えてこられる方も多い。これらの症状は臨床的に観察していると頸椎の捻じれや、いわゆるストレートネックと呼ばれるレントゲン写真に見る変化と関連していることがわかった。当院では頸椎のレントゲン写真に考慮した鍼治療や鎖骨調整という頸椎の矯正法により、より根治につなげるようにしている。
 同様なことは腰痛や座骨神経痛を訴える患者さんにもいえる。腰椎の側弯、変形、骨盤特に寛骨の捻じれや、仙骨の正中軸の傾きなどで表現される骨盤の歪みなど関連した症状であることが理解され、鍼治療や骨盤調整という施術を組み合わせた治療と漢方薬の処方を併せて行い治療効果をあげている。脊椎や骨盤の歪みの生ずる背景にはその人のライフスタイルによる体の動きの積み重ねがあると理解され、それに基づいて木枕による頸椎の手入れや、膝振りによる骨盤矯正などの体の手入れ法を指導してより根本治療に近づけるようにしている。
 不安・不眠、動悸、めまいなどの症状を訴える患者さんも少なくない。いわゆる不定愁訴である。ストレス、過労などにより、交感神経が緊張しっぱなしでおこる、いわゆる自律神経失調症である。検査で異常がないことが多いので心療内科で精神安定剤などを処方されるが効果のない方が多く見える。漢方処方の多くが自律神経のバランスを整えるような効果を目標に組み立てられているので、漢方薬は不定愁訴の治療に欠かせない。
 このように当院の外来に見える患者さんをみていると、現代医学が苦手としている病気や、病気の成り立ちについての考え方の不十分な面がよく見えて興味深い。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

治療に困難を感じるとき

 体の不調はその人の置かれた状況に体や心がついていけないときに起こることは繰り返し述べてきた。話が分かりやすいように健康を心と体に分けて考える。
 精神的な負担を一般的にはストレスと呼んでいるが、ストレスを感じるかどうかはその人の育ってきた環境、家族関係にも関係してくる。小さい頃からきつい言葉で注意されてきた人は、その背後に愛情を感じる場合はきつい言葉も気に留めないでやり過ごせると思われる。きつい言葉による注意を受けたことがない場合は、かなり堪えるようであることは最近の若い世代を相手にする研修に携わる先生方から耳にする機会がある。
 また本人の対応の限界を超えるような圧倒的なストレスがかかる時はそれなりの制度的な対応が必要で、「漢方処方が合っている・合わない」と言ってもどうにもならないのではないかと考えさせられることもある。症状により精神科を受診し、より専門的な社会的サポートが必要と思われることも少なくない。
 身体の健康の面は衣食住が直接関係してくる。寒い冬、季節の気温や湿度に対応した服装を着ないと、よっぽど鍛錬でもしていないと風邪を引いてしまう。それは薬以前の問題になる。鉄不足の貧血や栄養失調の場合であれば十分な栄養を、食事を通して摂らなければならない。漢方処方だけでは解決できない症状もある。最近は栄養の摂りすぎで病気なることを心配していたが、意外にも十分な食事がとれていないのではないかと思われる例もたまに見られる印象がある。
 睡眠が不足して体調を崩す場合は十分な睡眠を確保するような生活に改めなければ、まず治療の前提が成り立たない。経済的な事情で睡眠を削ってでも仕事をしなければならなくて身体の不調を訴える場合、当然のことであるが、睡眠が確保できるようにしたうえで治療をしないと効果は期待できない。
 衣食住・休息など健康維持の基本ができていなくて体調を崩す人が最近ポツポツみえて、クリニックでの対応の限界を感じることが少なくない最近の状況である。

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触らぬ神に祟りなし

 “触らぬ神に祟りなし”余計なことをするから悪いことがおこるということの例えと理解しているが、同じようなことが診療の現場でも起こっているように思う。
 漢方をやっているとアトピーや湿疹など皮膚のかゆみを訴える患者さんが多く見える。その治療をしていると、皮膚が何とか落ち着いたころに治りかけた皮膚が痒いためをかきむしって元の木阿弥に戻してしまうことが少なくない。そんな時に“触らぬ神に祟りなし”と叫びたくなる。せっかく治りかけてきたのにと腹立たしくなるのである。
 皮膚の病気を見ていると触らなければそのまま治っていくのにと思われることが少なくない。どうも皮膚は治りかけたころに痒みが強くなるようで、皮膚をかき壊して悪くし、それを繰り返して慢性化して醜い皮膚になっているように見える。だから「できるだけ触らないようにそっとしてください。」と言い続けているが、「わかってはいるんですけどね。」と言われるのが落ちではある。
 風邪などの場合でも薬だけ飲んだら治ると思うのは誤りで、薬が効くように体を安静にする、体を休めることが必要である。それと同じように皮膚の病気でも皮膚の安静を図ることが治るために必要であると感じる。皮膚の安静ということは言い換えると痒いところを触らずそっとしておく、ということである。対処療法でもなんでも、とにかく痒みを抑えてそっとしておくことそれで時間がたてば自然に治っていくと思うのであるが、それを掻いてしまうためうまくいかないのである。
 医師会の会合で皮膚科の先生が「痒い所を掻くと気持ちがいいですからやめられないと思いますよ。」と意外なことを言われた。たしかに何かの拍子で痒みが起こった時に痒いところに手が届くと気持ちがいいということは、快感の表現にもなっているからそれは間違いないのである。しかし悪い皮膚をかいて悪くするのは、後で痛みも加わって辛くなるのであるから、掻くべきでないと思うのであるが、病人にとっては痒いのに掻くのを抑えるのは大変困難なように見える。
 ストレスがかかると悪い皮膚をかきむしって余計に悪くする人も見られる。そこでストレスの漢方薬を併用することもあるが、“触らぬ神にたたりなし”と言い聞かせながら試行錯誤の毎日である。

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漢方における最近の癌治療

 若いころは癌という病気について、漢方で何とかしなければと悲壮感に満ちて何が何でもねじ伏せようという意気込みで対峙していたように思う。しかし振り返ってみるとあの頃は漢方薬の使い方の技術が未熟であった。今でも未熟ではあるが。また死に向き合う深刻さから肩に力が入りすぎていたように思う。
 ところが最近は大分変ったと感じる。癌で見えるほとんどの患者さんは病名や予後について告知され、厳しい状況であることを自覚して漢方治療を求めてこられる。またお互いに簡単に治るとも思っていないので、ダメ元という気持ちのゆとりを持てるのがいいのではないかと感じる。
 漢方薬の使い方の技術については漢方を30年以上も続けてくると、情報と経験からある程度は見通しが立ってくる。またクリニックでの外来治療を前提としているので、入院が必要になれば、病院の主治医に引き受けてもらえるということも精神的負担をかるくしてくれる。治療する側もリラックスできるようになった。
 さて専門的になるのであるが、癌は瘀血であるという考え方が漢方の基本にある。従って駆瘀血薬という範疇の漢方薬を使えばよいということになっている。瘀血とは滞った血液という意味で、それによって起こる血の巡りの悪さから起こる体の状態を瘀血とみて、その瘀血の病態から癌が起こると考える。瘀血には熱をもった瘀血と冷えた瘀血の区別があり、前者は通導散(つうどうさん)、後者は芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)を基本にした治療を山本巌先生は提唱しておられる。その基本的な考えを知っただけでも、だいぶ気分的に救われた思いがしている。駆瘀血薬を使うと癌の発育する環境が改善され、痛みの症状などが緩和され、運が良ければ治らないまでも病気がおとなしくなりそうなのである。そのうえで全身状態を改善する適当な漢方薬を組み合わせ得ればよい。
 80代の老人が肝内胆管癌でステントを入れて黄疸は良くなったが、食欲もなく、元気がなくなったと来られた。そこで通導散加桃仁牡丹皮という煎じ薬に、全身の免疫力を上げる補中益気湯エキス、胆汁排泄を促進する茵沈五苓散エキスを合わせて処方した。すると食欲が出て体重が増えて元気になり、農作業にも出られるようになった。すると少し外来がおろそかになってきた。しばらくして姿が見えなくなったので聞くと、どうも入院しているらしい。外来通院中の検査で腫瘍マーカーは上昇していたので病気は進んでいるだろうとは思われた。そして結局最近亡くなられたという。しかし半年近くも持ち直して元気に農作業に戻れたのは大きな救いではなかったかと考える。漢方薬の手ごたえを感じた。
 症状がよくなって外来が少し遠のいたころ、「自分の病気は何か知っておられますか?」と聞いたら「癌です」と答えられたので、「難しい病気ですからしっかり漢方薬を飲んだ方がいいですよ」と伝えたのではあるが、一時的にはせよQOLが改善したのは、まあ手ごたえはあったと感じている。このように癌は少しでも良くなれば儲けものという気持ちで命を見据えながら治療ができるようになったのは年を重ねたことによるゆとりではないかと思う。

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頻尿の原因がわからない

 昼も夜も一時間おきにトイレに行くが原因がわからないという女の子が来た。婦人科、泌尿器科、心療内科にも行ったが検査で異常はみとめなかったという。
 少しやせ気味で顔色はあまりよくない。下半身が冷えるという。冷たいものやコーヒーなど体を冷やす飲み物を摂っている。生理不順で生理痛もひどい。
 頻尿の原因で最も多いのは膀胱炎である。膀胱炎では尿が濁り、排尿痛が強いが、この女の子の場合排尿痛はなく、尿も濁っていなかった。尿が濁っていない頻尿の場合は精神的な要因を考えるのが一般的である。精神的なものからくる頻尿は起きている時だけに起こり、寝ている夜間に頻尿はないという特徴がある。ところがこの女の子の場合寝ている時も尿意が起こり目を覚ますというのである。そのような場合の頻尿は精神的な原因ではなく、膀胱組織の異常による頻尿で、例えば間質性膀胱炎などのように膀胱の壁が固くなり、膀胱の容量が小さくなった場合である。膀胱が小さくなり尿をたくさん貯めることができないため尿の回数が増える。ところが泌尿器科の検査で膀胱の容量は正常であった。こうなると西洋医学的には頻尿の原因は不明ということになる。
 ところで漢方では腰の冷えるよる頻尿の場合がある。俗に腰が冷えて尿が近いというような頻尿である。このような頻尿に腰を温める漢方薬を処方する。現代医学的には腎臓の糸球体でろ過された尿の再吸収を高める結果、排泄される尿量が減るので頻尿がよくなる仕組みになっている。この場合最も注目すべきことは冷たいものをよく飲んだり食べたりして体を冷やしていたことで腰が冷え、尿が近くなったことである。そしてそれが冷え性や生理痛の原因にもなっている。
 そこで冷たいものを控え温かいものを飲むように厳重に注意した。冷えは万病のもとである。
 最近前立腺肥大症と言われ、昼間の尿の回数が多いという人が見えた。なんとか手術しないで治療できないかという。残尿が200cc近くもあると言われた。その割には夜間の尿の回数が2回と案外に少ない。すると精神的要因も大きいのではないかと考えたが、エコーの検査で前立腺の大きさを調べたところ確かに大きいし、残尿も多いので手術を勧めた。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
(株)週間レキオ社又は全国の書店および「当クリニック」にて販売中

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