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対症療法と根治療法

 治療には対症療法と根治療法があることはよく知られている。
 対症療法とは、さしあたり困っている症状を抑え込むことである。例えば風邪をひいて頭痛や発熱があるとき、体温を下げるために解熱剤を飲むようなことであったり、或いは虫垂炎で吐き気や腹痛があるときに鎮痛剤を処方したりすることである。
 風邪の発熱は体が冷えて体温を自動調節で維持できないときに悪寒、発熱という生体反応を起こして体温を維持しようとする体の反応とみるなら、解熱剤で体を冷やすということは治癒機転を妨げることになる。一時的には熱冷ましで楽になっても風邪をより治りにくい状態にしてしまうことは、現代医学でも知られるようになってきた。
 また虫垂炎で腹痛を鎮痛剤で押さえてしまうことは痛みによる病気の進行具合をわからなくしてしまうので、治療方針が決まるまでは絶対に痛みを止めていけないと研修医のときに厳重に注意された。しかしそうは言っても症状があまりにも強い場合は苦痛を和らげるための対症療法は必要でないかということも一理はあるが、病気の根本的な治療方針が決まったうえでの対応となる。
 このように根本的な治療方針が決まらないと対症療法は危険である場合もある。リウマチについては西洋医学的には自己の身体組織の膠原繊維に対する自己抗体による抗原抗体反応によって誘発される炎症であるとされ、それに対する消炎効果を狙った治療を行う。以前はボルタレンなど消炎鎮痛剤であったが、さらに消炎作用の強いステロイド剤に変わった。ステロイド剤は副作用が強いので診断基準を満たすまで使用を待っていた。しかしそれまでに炎症による関節の破壊がかなり進むため、さらに早い時期に治療を開始するべく免疫抑制剤や生物学的製剤に治療を始めるように変わってきた。よく見るとそれらもある意味では対症療法である。根本治療は自分の体が自分の体を壊す自己抗体が生産する理由を解明し、そうならない治療を行うこと、あるいは病状を悪化させない具体的な生活指導ではないかと考える。
 逆流性食道炎の治療も同じように見える。現代医学では胃酸の分泌を抑えて逆流する胃液の量を減らす薬物療法を行う。病気の仕組みをよく考えるとストレスにより消化管の運動が抑制され、胃から十二指腸への排泄機能が悪くなり胃液が停滞し食道に逆流するためにおこる炎症と考えられる。すると消化管の運動を正常に戻すこと、そしてその運動を抑制するストレスに対する体の反応を弱め、ストレスを緩和、回避することが根本治療につながるのではないかと考える。最近胃酸の分泌を効果的に抑制する薬剤の長期使用による弊害の記事をよく見るようになった。
 漢方にも対症療法や根治療法と似た考え方があり、標治と本治と呼んでいる。漢方方剤は対症療法と根本的な治療をまず考えるように組み立ててあり、処方していると常に根治すなわち本治とは何かということを考えさせられる。
 本治とは何かを具体的に示し漢方処方や生活指導に結びつけることができればより理想的な治療ができることになる。そのためにはより本質的な病気の成り立ちに対する理解を深めることが必要であるが、その理解が不十分である病気も少なくない場合に治療の限界を感じる。

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漢方の方について

 漢方の方は方向の方である。処方の方も同じ方であろう。そこで方の意味が問題になる。方は方向の方であるが漢方にはどのような方向があるのだろうか?
 漢方における病気の評価の物差しには陰陽・表裏・寒熱・虚実という物差しがある。まず陰陽の物差しのうち、陽は体の新陳代謝が旺盛で体温調節には適度に体温を下げる必要のある状態である。逆に陰は体温調節のために体の新陳代謝を賦活して体を温める必要のある状態となる。そこで漢方の方は体を温めるべきか、冷やすべきかの方向を指していることが理解されてくる。従って診察によって陰陽の方向が決まると、治療薬もその方向に従った処方となる。
 例えば葛根湯であれば風邪の初めに頭痛・発熱・悪寒・首筋残りがある時に使うのであるが、風邪は冷えによって起こっているので、温める治療となるが、薬が効果を発揮すると発汗して解熱する。冷やす部分もあるので紛らわしいが、全体的には熱を下げるべき陽の病態となっている。
 真武湯は内臓が冷えて、元気がなく、立ちくらみがして横になると楽になるような状態で下痢をするときに使う。これは新陳代謝が低下しているので、温めるための処方になっている。
 このように漢方の治療では温めるのか冷やすのかという方向が大事で、それを間違えると病気は治りにくくなったり、こじれたりするのである。 
 そこでより効果的な治療を行うために、さらに療養生活の方向の問題がある。冷えて悪くなる病気であれば、当然体を冷やさないように注意し、温まりやすいような生活を心がけなければならないことになる。薬で温めようとするのに、例えば冷たい水を呑んで腹を冷やすことは治療に逆行することで、薬の効果を打ち消してしまう。
 外来診療で見える患者さんでは特に冷えが問題になる場合が多く、体を冷やさないように、冷たい飲み物食べ物は避けるようにと注意する。アイスクリームやスイカや梨、柿など体を冷やす果物や、甘いもの、またコーヒーなど苦いものは体を冷やすので、体を温める治療が必要のある人は避けるように注意する。最近また暑い夏になってきたが、クーラーや扇風機の使用も冷えを考えて調節するようにと指導している。
 このように衣食住についても漢方処方の方向に合わせて養生しなければ治療効果は十分に上がらないことを理解してもらうようにしている。

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外感と内風

 漢方では病気の原因を外因と内因に分ける。外因とは外から身体に作用するもの、気象の変化でその代表が風寒の邪ということになって、それを外感という。それに対して内因は喜怒悲思憂恐驚の七情となっている。七情は命の危険を察知して起こる情動の変化で精神的なストレス反応につながっていく。環境における気象的変化もストレス反応を引き起こすが、それは体温調整に関連する自律神経中枢に作用していく。一方精神的葛藤は大脳辺縁系から七情すなわち情動のほうに作用していくという違いがある。この違いを漢方で見ると非常に興味深い。
 同じストレス反応でも風寒に代表される気象条件は人体の表面に作用し交感神経に作用し、悪寒発熱にみるように体温調節反応を刺激するが、内面に作用する情動は漢方的な肝、すなわち現代医学的には交感神経に作用し、癇つまり、心・精神のほうに作用していく違いがある。その刺激の代表は外因では風寒、内因では喜怒悲思憂驚恐となっている。肝木は揺れる現象があることに関連して漢方的風につながり、外因の風寒の寒に繋がり、カンにつながる。このように言葉の上でストレスは外風、内風と風につながってくることがおもしろい。処方の上では外風は葛根湯、麻黄湯などの皮膚を温める作用の漢方薬で対応するが、内風の方は肝気鬱結を改善する小柴胡湯や大柴胡湯など柴胡剤に関連し、処方の上では大きな違いがある。
 言葉の上では病気の始まりが、寒、癇のカンで共通していることも興味深い。
 日本漢方では傷寒という、いわば風邪の様々な時期に使われる処方を、風邪以外の例えば、不眠、高血圧、むくみ、婦人病など様々な病気に応用して使用し、効果を上げてきた。それを先人は「傷寒に万病あり、万病に傷寒あり」と表現した。そこで風邪以外の病気でも内から起こる風邪ということで内風という言葉を使っているが、先に述べたような理由で、同じ風でも外からの風邪と内からの風邪では症状がかなり違うことを改めて確認できた。

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急性疾患における本治と標治

 本治について考えていたら、急性疾患の場合の本治と標治について考える必要に迫られた。なぜなら救命救急の場合まず命を救うことを最優先に対応しなければならないから、標治・本治という見方はできないのではないかと考えたからである。
 自分が救急医療を担ったとき、先ず救命のために何をすべきかが問題であった。目の前の患者をいかに救うか瞬時の対応を迫られる。気道を確保し、人工呼吸を施し、心肺蘇生を行う。その時原因探しは後回しになる。急性感染症の場合も起炎菌に効果のある抗生物質を選択して病気の進行を食い止めなければならない。外傷による内臓破裂や出血でもできるだけ速やかに破損部位を修復し、汚染や失血を止めなければならない。これからわかることは救命救急の場合は、目の前の病状を即座に把握し、救命のための治療に入ることが大事である。
 江戸時代の疾医といわれる吉益東洞、永富独蕭庵、原南洋、尾台容堂あたりの治験例は救命救急であったから標治・本治はあまり問題にならなかったと思われる。
 例えば胃潰瘍からの出血は、原因は何であれすぐ止血しなければならない。内視鏡による薬剤注射により止血に成功すると内服による胃潰瘍の治療を続ける。それは潰瘍の原因に対する根本治療ではない。あくまでも潰瘍を治す治療である。ところがなぜ潰瘍ができたかというとその人の生活に潰瘍を起こすような要因があったと考える。職場の人間関係によるストレスかもしれない。残業続きの過労かもしれない。すると根本的に潰瘍を治すためには、ストレスの認識、調整が必要になる。ところが現代医学では、しばらく潰瘍の治療を続けて薬を中止して再発の有無を観察するが、その時は特別に他の治療は行わない。つまり本治がない。最近の医学ではピロリ菌がどうも影響しているらしいと除菌治療に力が入れられているが、本治たりえるのか疑問がある。なぜなら除菌した後も胃のあたりの不快感を訴えて見える患者さんは珍しくないからである。
 私の漢方外来では内視鏡を直接実施するわけにはいかないので、臨床症状を指標に治療を行うのであるが、そのときその人の生活の何が胃の不調に最も影響しているかを問診によって探り出し、それに対して生活指導を行い、本治につなげていく。衣食住の問題、職場の人間関係や勤務状況、睡眠時間など社会生活全体に目を向け、どのあたりに問題があるか検討をつける。漢方処方だけでなく病気を引き起こす根本原因にも目を向けて病根を断つようにするのが本治となる。
 現代医学はとにかく潰瘍が治る臨床効果を重視する。薬を飲んだ人と飲まない人の潰瘍の治り具合の差を観察して有効性を確認する。いわゆる二重盲検試験である。これで効くとなれば潰瘍が治るまで内服を続ける。そして再発の有無を確認して治療を終わる。そのとき衣食住の問題や社会生活にかんする問題点についてほとんど問題にしてこなかった。再発をした場合その原因はどこにあるのか不明のままである。多くの場合薬の効果が不十分であったということになるのだろう。
 このようにみると本治、標治という考え方は漢方独特の概念でしかも慢性疾患の治療の場合に問題になる概念であるあることがわかる。ということは西洋医学の治療は原理的に対症療法で本治がないことを意味する。すなわち漢方で疾患の本治を追及することは病気の治療の新たな対応を開くことになりそうである。

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本治と標治

 漢方には本治と標治という言葉がある。標治とは現在表れている症状に対する治療いわば対症療法である。鼻炎であれば鼻づまり、くしゃみ、鼻水の症状を抑えることで、それに対し上気道を温める治療を行う。薬を飲み続けると自然に症状は軽減していくが、薬をやめるとすぐに症状がぶり返すのは根本的な原因にたいする治療が行われていないからである。本治というのは本を治すという事で、病気の根本原因を治すことである。根本原因は漢方で病因となる外因、内因、不内外因とされ、それらのどれが病気の根本的な原因であるか追及しなければわからない。鼻炎に頻用される小青龍湯の場合、上気道を温める生薬と、甘草乾姜という胃腸を温める生薬が組み合わされている。すなわち上気道や胃腸の冷えという病理があることを示している。すなわち気道の冷えによる症状が胃腸の冷えという根本原因によっておこっていることを示している。すなわち鼻炎であれば体の冷えが根本にあるから、生活のどこに体を冷やす原因があるのか調べ、衣食住を調えなければならない。そこに踏み込んでいくことが本治となる。すなわち根治になる。
 鼻炎で体格がいい人では冷たいものすなわちビール、アイスクリーム、果物などをよく摂取していることが多い。すなわち、冷える飲食物を控えさせることが根治になる。鼻炎でも冷たいものを飲んでいないという人はお菓子や果物が好きという人が多い。砂糖や果物は体を冷やすと漢方では考えている。お菓子も果物もあまりとらない人は生来胃腸虚弱なための冷え症であると考え、根気よく胃腸の働きをよくするような漢方薬、理中湯(りちゅうとう)や小建中湯(しょうけんちゅうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲まなければならない。
 そして本治には時間がかかるし、何よりも病気の本態を見抜く医師の力量が必要とされる。病気の原因が生活にあり、生活の問題が貧しさや社会制度に基因するような場合に医師が行政に口を出すことになるかもしれない。つまり本治は病気の本質に対する根本治療であるから適切な生活指導が出来なければならないし、それは医者にとっても患者にとっても手間暇がかかる作業で、病気をよく理解して根気よく治療を続ける信頼関係が必要になる。
 また漢方的に病態生理が明らかになれば病気の根本的な原因がわかり、根治への手がかりも見つかるが、病態がわからないと結局標治に終始してしまう。
 病気の原因がその人の価値観や生き方にまで行き着いてしまうとそれはその人の人権の問題にもなる。本人の理解で得られ許される範囲で病気の根本原因の軌道修正を図るしかないし、最終的には本人の意識に任せるしかない。病気の本治となると思いのほか根が深く泥沼にはまっていきそうである。
 現代医学的治療は多くの場合標治であるように見える。薬をやめるとすぐ症状が表れる。しかし色々な病気特有の不快な症状を抑えるだけでも進歩であると認識すべきかもしれないとも考える。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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