肥満と糖尿病

 肥満と糖尿病は密接な関係にあるということで肥満が注目されているが、中には相当な肥満で血糖値は勿論HbA1cも正常な人がいる。そのような人は血糖値が正常ということで多少肥満していても安心しているような様子がうかがえる。そこでなぜ肥満なのに血糖が上がらないかを考えてみた。
 インスリンが血糖を下げるホルモンであるのは、糖尿病でインスリンが不足して血糖が上がるのでわかりやすいと思う。そもそもどのようにしてインスリンが血糖を下げるかが問題である。
 インスリンはまず血糖すなわちグルコースを筋肉に消費させることによって糖を下げる。するとあまり体を動かさない現代人の生活では糖は下がりにくいという面があり、運動療法の必要性と関係してくる。
 もう一つのインスリンの働きはグルコースを脂肪に変えて血糖を下げる。運動でグルコースが消費されない場合、グルコースがどんどん脂肪に変換され肥っていくのである。これはインスリンの同化作用すなわち脂肪を体に蓄えるという側面である。
 つまりインスリンが十分に分泌されているが、運動不足でグルコースが筋肉に消費されないとき、血糖を下げるためにグルコースがどんどん脂肪に変換され蓄積され、肥満になるのである。普通は高度の肥満になるとインスリンの作用が鈍くなり、あるいは膵臓が疲れてインスリンのホルモン産生が低下し、インスリンの作用が低下し、血糖やHbA1cが上昇傾向を示し、一定期間が過ぎると糖尿病といわれる数値になる。
 ところが中には極端な肥満でも血糖が正常で糖尿病でない人がいるのである。すなわちインスリンの分泌がよく、効きが悪くならなければ糖尿病にならずにいくらでも体重は増えることができるということである。
 一般的にアジア人とくに日本人はインスリンの分泌能力が低いとされている。これは大した肥満にならずに糖尿病になりやすいことを意味している。一方西洋人はインスリン分泌能がアジア人に比べて高いというデータが紹介されていた。これは西洋人では糖尿病になる前の肥満の程度が大きいことを示している。これが、欧米人が一般的な印象で肥満傾向の強い理由でないかと考える。
 たまにアメリカなどで三百キロを超す肥満の人が紹介されることがある。糖尿病かどうかは紹介されていなかったが、太り続けるということはインスリンの働きが十分で、グルコースがどんどん脂肪に変化した結果であることを示しているので、多分糖尿病にはなっていないと推測される。
 此の事からインスリンさえ十分分泌されればいくらでも体重は増えるといえる。ところが多くの場合インスリンの分泌能力には限界があって、それをこえるとインスリンの効きが悪くなるか、膵臓が疲れて分泌量が減ってインスリンが働くなり、血糖が上がり、また血糖から脂肪への合成ができないので、痩せて典型的な糖尿病になる。

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過活動膀胱

 年をとると尿が近くなる。これまで頻尿は前立腺肥大症で一回の排尿で完全に膀胱を空っぽにできないため残尿が発生し、それが少しずつ増えて、膀胱容量がいっぱいになるまでの時間が短くなって尿が近くなると考えていた。ところが自分が年をとってきてわかったのは、前立腺肥大症がなくても、比較的少ない量の尿に膀胱が過敏に反応して尿意が起こるため頻尿になることがわかってきた。つまり過活動膀胱である。
 そしてその尿意は、一定時間は続くがそれを過ぎると緊張がゆるんで収まることも観察すると分かってきた。
 そこで過活動膀胱の治療薬は膀胱の緊張を緩めるような薬を使用することになる。
 ところが別の問題も絡んで実際の臨床ではより複雑になっていることが実感された。それは加齢にともなう精神的動揺である。急におしっこがしたくなって慌ててトイレに行こうとするが間に合わずに漏らしてしまうことの精神的なショックが影響していると思われる。大の大人が失禁する。するとこれまでのプライドが傷つき、もう年を取ってしまったという衝撃は決して小さくないと思われる。そのショックで気が動転して踏ん張りがきかず、失禁が常態化していくことに対する不安と恐怖が大きくなる。そしてそのことでパニックになるのではないかと推測されるのである。
 そこで薬以外の過活動膀胱への対処法を研究してみた。この場合尿意の知覚過敏はあるが、膀胱括約筋がマヒしているわけではないのがミソである。膀胱括約筋がマヒしていないのであるから、尿意が強くなっても気持ちを集中して排尿を我慢すれば漏らさないはずである。しばらくすると尿意が弱くなってくるので、そこでゆっくりゆとりをもってトイレに行けばよいのである。それを自分で実行してみるとうまくいくので患者にはそのように指導している。するとしっかり尿意を踏ん張れば漏らさないということを学習し、自信ができ、精神的な動揺も納まるという計算である。
 ただ注意すべきは水を呑みすぎて膀胱が充満しているときは尿意をあまり長くは持ちこたえられないので早めに排尿した方が良いということである。
 先日離島の友人からそのような相談を受けたので、全神経を集中して尿意を我慢する訓練をするようにしたらいいと教えた。久しぶりに同期会で会ったら「あれでうまくいった。お前は名医だなあ。」といわれ自分の考えは間違っていなかったと内心うれしかった。
 ちなみに漢方では残尿感に効く猪苓湯や筋肉のけいれんを抑える芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)などを組み合わせるといいのではないかと考える。

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発達障害について

 漢方をやっていると現代医学的に難しい患者さんが見える。小児では発達障害とおもわれる場合が時に在る。発達障害の人たちは精神的にも不安定なため漢方薬で精神的な興奮を抑える抑肝散などを使う事が多いが、それは対症療法で原因は脳の機能障害にあることが近年明らかになってきた。
 最近NHKスペシャルで発達障害における最新の知見の紹介があった。発達障害には大まかに三つのグループに分けられ、三つのタイプがそれぞれ混ざり合うと色々なバリエーションの場合があると云う事であった。其の中で知覚過敏があることが興味深かった。聴覚過敏があると周囲の騒音が統べて耳に届き、かんじんの聴きたい音がかき消され、はっきりしなくなり、効果的な学習ができないと云う。普通の人では脳が騒音に慣れ、周囲の音を無視して聞きたい音だけを拾い上げるように調節されるので、うるさい教室のようなところでも困らないと云う。また光に過敏な場合は明るすぎるように感じて周囲がまぶしく白く見え、目が開けておれないほどで疲れると云う。また光の粒が飛んでくるような感覚の場合もあると伝えていた。
 番組には三人の発達障害の方が紹介されていたが、何れの方も一流大学を卒業しているので、知的発育障害というよりは知覚過敏による不適応で社会生活が困難であった例であった。普通の人との感覚のずれがあることをお互いが知らないとコミュニケーションに支障をきたし、周囲とうまく協調できず、うつや適応障害などで引きこもる事になって孤立してしまうというのである。
 このような事実は発達障害の人たちが大人になり、自分の感覚を的確に表現し、一般の人との比較で感覚のずれが明らかになってきて初めて理解されるようになったという。
 イギリスでは既に社会で発達障害が認知され、例えばデパートなどではクワイエットタイム、すなわち音を絞り「静かな時間」を設けて、照明を落としたら知覚過敏の人たちの買い物客が増えたという事実が紹介されていた。
 クリニックに見えた患者でも音に敏感で学校生活のつらそうな子や、好みが極端に偏り、いつも不機嫌な不登校の子、眩しそうにして瞼を神経質に動かす成人の方もいた。いずれも一般の人の感覚では理解できないため、精神的にきびしい状態にあった。
 これは薬だけで対応できるものではなく、其の人にあった生活空間の条件設定をしなければならないが、それには専門的な検査が必要になる。そうすればその人の能力を最大限に発揮でき、精神的にも安定すると思われ、いわゆる根本的な解決につながる可能性が見えてくる。
 今後の研究の進展に注目し、患者の心の理解に役立てたいと思ったことである。

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舌痛症

 最近舌の痛みを訴える人が目に付く。舌痛症とは女性に多い原因不明の舌の痛みを訴える病気で治療法もはっきりしない。したがって舌の痛みに加えイライラが募り、遂には不眠を合併し、症状がさらに悪化していく悪循環を形成するようである。
 漢方の立場から病態を考えてみた。更年期を過ぎる頃、女性ホルモンが減少してくることにより、体の水分量が微妙に少なくなり、唾、涙などの分泌も微妙に低下し、汗もかきにくくなるので体が火照ってくる。すると口の中も唾が少なく粘っこくなり不快感を生ずる。そのうち内熱で口の中が乾き、舌のヒリヒリが痛みに変わってくる。効果的な治療法がないため、不安感も募りイライラするとさらに唾液の分泌も低下して症状はさらに悪化する悪循環に入ると考えられる。さらにイライラから不眠などを合併し、さらに内熱は強くなり、症状が袋小路に入ってしまうのではないかと考える。
 体の水分が減少する状態を漢方では陰虚という。陰虚の状態では脱水傾向のため汗や尿に体の熱を効率よく排泄することができないので内熱が起こる。此の熱を虚熱と云う。この状態を改善するためには体に潤いを与え、虚熱を冷ます治療が必要となる。漢方薬には滋陰降火湯(じいんこうかとう)の名前が示すように陰を滋潤し、熱を冷ますそのものずばりの有効な処方がある。イライラする状態には柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、抑肝散(よくかんさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)などが有効である。疲れているのに眠れない時に酸棗仁湯(さんそうにんとう)がある。最初の症状に加えて二次的な病因が加わり、多彩な症状がみられるので、評価が難しくなるが、適当な漢方薬の組み合わせで治療できるのではないかと考える。
 陰虚、虚熱などの概念のない現代医学では病態の理解も治療もできないので、対応に限界があるのはごく当然に思える。

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慢性前立腺炎

 中部病院の外科研修ローテーションで泌尿器科を回ったときに印象に残っている病気の一つに慢性前立腺炎があった。前立腺炎には急性と慢性があり、急性の炎症は細菌感染によるもので、高熱が出て会陰部痛などの症状は激しいが、抗生物質がよく効くので治療上大きな問題はなかった。ところが慢性前立腺炎は、症状は激しくないものの膀胱から会陰部、尿道にかけてチクチク、ムズムズという不快感があり、いつもトイレに行きたいような感じがして落ち着かないため、仕事に集中できず、精神的にも追いつめられるようなことが起る深刻な病気であった。ところが治療にはこれという決定的なものがないのが問題であったが、すぐ命にかかわる病気でもないので何となく放置されたような印象であった。抗生物質はほとんど無効、精神安定剤を内服してもらい、前立腺マッサージなどを施すが満足のいく効果はえられず、患者はあちこちの泌尿器科をドクターショッピングすることになり、挙句の果ては心療内科のほうへ回される状況であった。その状況は今も大してかわっていないのではないかと思う。
 漢方の外来にも時々そのような患者さんがみえるが、治療上余り困ることはない。というのも慢性前立腺炎のような病態に対応する漢方薬があるからだ。
 漢方では前立腺の炎症を肝経の湿熱と考える。肝経というのは鍼灸の十二経絡の厥陰肝経のことである。それは足の拇趾の爪の付け根の外側の大敦というツボに始まり、下肢の内側からソケイ部を経由し、生殖器、膀胱を通って躯幹の前外側を上行し、乳房から腋を通って頚部、顔面前外側を通り、頭頂部の百会にいたる。その経絡上に前立腺があることから、前立腺の炎症を、肝経の湿熱と考えるのである。湿熱とは炎症による浮腫の状態と考えればよい。そのような病態に使う処方が竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)である。竜胆とはリンドウの生薬名で瀉肝とは肝経の病邪を排除することである。この漢方薬を内服すると比較的短期間に不快な会陰部の症状がとれてくる。またこれとは別に下腹部の炎症に使われる処方に大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)がある。教科書的には虫垂炎と思われる病態に使われる処方であるが、前立腺炎にも有効ではないかと考えている。この処方には牡丹皮、桃仁が含まれ、鬱血を除き炎症を抑える働きがある。また下腹部は静脈が鬱滞しやすい場所であるから、血の巡りを良くする桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、通導散(つうどうさん)も効果があるのではないかと考える。難しい症例ではこれらの処方を組み合わせれば何とか解決できると考えている。
 また前立腺炎や痔など下腹部の症状はアルコールの摂取によって確実に悪くなるので、治療期間中お酒は控えるのが原則である。
 西洋医学では有効な抗生物質が数多く開発され、細菌感染症にはきわめて威力を発揮してきたが、一方で抗生物質の無効な病態には今もって治療に難渋しているという現実がある。そんな中で漢方的な発想による治療が有効であることは現代医学における大きな救いではないかと思う。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

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