発達障害について

 漢方をやっていると現代医学的に難しい患者さんが見える。小児では発達障害とおもわれる場合が時に在る。発達障害の人たちは精神的にも不安定なため漢方薬で精神的な興奮を抑える抑肝散などを使う事が多いが、それは対症療法で原因は脳の機能障害にあることが近年明らかになってきた。
 最近NHKスペシャルで発達障害における最新の知見の紹介があった。発達障害には大まかに三つのグループに分けられ、三つのタイプがそれぞれ混ざり合うと色々なバリエーションの場合があると云う事であった。其の中で知覚過敏があることが興味深かった。聴覚過敏があると周囲の騒音が統べて耳に届き、かんじんの聴きたい音がかき消され、はっきりしなくなり、効果的な学習ができないと云う。普通の人では脳が騒音に慣れ、周囲の音を無視して聞きたい音だけを拾い上げるように調節されるので、うるさい教室のようなところでも困らないと云う。また光に過敏な場合は明るすぎるように感じて周囲がまぶしく白く見え、目が開けておれないほどで疲れると云う。また光の粒が飛んでくるような感覚の場合もあると伝えていた。
 番組には三人の発達障害の方が紹介されていたが、何れの方も一流大学を卒業しているので、知的発育障害というよりは知覚過敏による不適応で社会生活が困難であった例であった。普通の人との感覚のずれがあることをお互いが知らないとコミュニケーションに支障をきたし、周囲とうまく協調できず、うつや適応障害などで引きこもる事になって孤立してしまうというのである。
 このような事実は発達障害の人たちが大人になり、自分の感覚を的確に表現し、一般の人との比較で感覚のずれが明らかになってきて初めて理解されるようになったという。
 イギリスでは既に社会で発達障害が認知され、例えばデパートなどではクワイエットタイム、すなわち音を絞り「静かな時間」を設けて、照明を落としたら知覚過敏の人たちの買い物客が増えたという事実が紹介されていた。
 クリニックに見えた患者でも音に敏感で学校生活のつらそうな子や、好みが極端に偏り、いつも不機嫌な不登校の子、眩しそうにして瞼を神経質に動かす成人の方もいた。いずれも一般の人の感覚では理解できないため、精神的にきびしい状態にあった。
 これは薬だけで対応できるものではなく、其の人にあった生活空間の条件設定をしなければならないが、それには専門的な検査が必要になる。そうすればその人の能力を最大限に発揮でき、精神的にも安定すると思われ、いわゆる根本的な解決につながる可能性が見えてくる。
 今後の研究の進展に注目し、患者の心の理解に役立てたいと思ったことである。

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舌痛症

 最近舌の痛みを訴える人が目に付く。舌痛症とは女性に多い原因不明の舌の痛みを訴える病気で治療法もはっきりしない。したがって舌の痛みに加えイライラが募り、遂には不眠を合併し、症状がさらに悪化していく悪循環を形成するようである。
 漢方の立場から病態を考えてみた。更年期を過ぎる頃、女性ホルモンが減少してくることにより、体の水分量が微妙に少なくなり、唾、涙などの分泌も微妙に低下し、汗もかきにくくなるので体が火照ってくる。すると口の中も唾が少なく粘っこくなり不快感を生ずる。そのうち内熱で口の中が乾き、舌のヒリヒリが痛みに変わってくる。効果的な治療法がないため、不安感も募りイライラするとさらに唾液の分泌も低下して症状はさらに悪化する悪循環に入ると考えられる。さらにイライラから不眠などを合併し、さらに内熱は強くなり、症状が袋小路に入ってしまうのではないかと考える。
 体の水分が減少する状態を漢方では陰虚という。陰虚の状態では脱水傾向のため汗や尿に体の熱を効率よく排泄することができないので内熱が起こる。此の熱を虚熱と云う。この状態を改善するためには体に潤いを与え、虚熱を冷ます治療が必要となる。漢方薬には滋陰降火湯(じいんこうかとう)の名前が示すように陰を滋潤し、熱を冷ますそのものずばりの有効な処方がある。イライラする状態には柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、抑肝散(よくかんさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)などが有効である。疲れているのに眠れない時に酸棗仁湯(さんそうにんとう)がある。最初の症状に加えて二次的な病因が加わり、多彩な症状がみられるので、評価が難しくなるが、適当な漢方薬の組み合わせで治療できるのではないかと考える。
 陰虚、虚熱などの概念のない現代医学では病態の理解も治療もできないので、対応に限界があるのはごく当然に思える。

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慢性前立腺炎

 中部病院の外科研修ローテーションで泌尿器科を回ったときに印象に残っている病気の一つに慢性前立腺炎があった。前立腺炎には急性と慢性があり、急性の炎症は細菌感染によるもので、高熱が出て会陰部痛などの症状は激しいが、抗生物質がよく効くので治療上大きな問題はなかった。ところが慢性前立腺炎は、症状は激しくないものの膀胱から会陰部、尿道にかけてチクチク、ムズムズという不快感があり、いつもトイレに行きたいような感じがして落ち着かないため、仕事に集中できず、精神的にも追いつめられるようなことが起る深刻な病気であった。ところが治療にはこれという決定的なものがないのが問題であったが、すぐ命にかかわる病気でもないので何となく放置されたような印象であった。抗生物質はほとんど無効、精神安定剤を内服してもらい、前立腺マッサージなどを施すが満足のいく効果はえられず、患者はあちこちの泌尿器科をドクターショッピングすることになり、挙句の果ては心療内科のほうへ回される状況であった。その状況は今も大してかわっていないのではないかと思う。
 漢方の外来にも時々そのような患者さんがみえるが、治療上余り困ることはない。というのも慢性前立腺炎のような病態に対応する漢方薬があるからだ。
 漢方では前立腺の炎症を肝経の湿熱と考える。肝経というのは鍼灸の十二経絡の厥陰肝経のことである。それは足の拇趾の爪の付け根の外側の大敦というツボに始まり、下肢の内側からソケイ部を経由し、生殖器、膀胱を通って躯幹の前外側を上行し、乳房から腋を通って頚部、顔面前外側を通り、頭頂部の百会にいたる。その経絡上に前立腺があることから、前立腺の炎症を、肝経の湿熱と考えるのである。湿熱とは炎症による浮腫の状態と考えればよい。そのような病態に使う処方が竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)である。竜胆とはリンドウの生薬名で瀉肝とは肝経の病邪を排除することである。この漢方薬を内服すると比較的短期間に不快な会陰部の症状がとれてくる。またこれとは別に下腹部の炎症に使われる処方に大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)がある。教科書的には虫垂炎と思われる病態に使われる処方であるが、前立腺炎にも有効ではないかと考えている。この処方には牡丹皮、桃仁が含まれ、鬱血を除き炎症を抑える働きがある。また下腹部は静脈が鬱滞しやすい場所であるから、血の巡りを良くする桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、通導散(つうどうさん)も効果があるのではないかと考える。難しい症例ではこれらの処方を組み合わせれば何とか解決できると考えている。
 また前立腺炎や痔など下腹部の症状はアルコールの摂取によって確実に悪くなるので、治療期間中お酒は控えるのが原則である。
 西洋医学では有効な抗生物質が数多く開発され、細菌感染症にはきわめて威力を発揮してきたが、一方で抗生物質の無効な病態には今もって治療に難渋しているという現実がある。そんな中で漢方的な発想による治療が有効であることは現代医学における大きな救いではないかと思う。

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生活不活発病、廃用症候群

 大震災の避難が長期化するにつれて問題になっているのが生活不活発病です。私たちは日常生活で家事や仕事を行なうため意識せずして身体を動かしています。なにげなく身体を動かしていることで、運動しようと意図しないで生活に必要な筋肉を動かし、筋力の衰えを防ぎ、運動能力を維持しているのです。震災という非常事態では避難して命が助かったという安心感、救援を待つ以外に特にすることもないことから、特に高齢者や慢性疾患のある人たちは、意識しければ一日中何もせずに座ったり、横になって過ごすことになります。これが一週間も続くと、いざ立って動こうとした時に思うように身体が動かないことがわかり愕然とすることになると思われます。これが生活不活発病といわれるものです。
 また災害避難時におこる注目された病気にエコノミークラス症候群とよばれる致命的になる病気があります。それは下肢静脈にできた血栓による肺塞栓症です。長時間足を動かさないでいると鬱滞した下肢静脈に血栓すなわち血の塊ができて、それが身体を動かした拍子にはがれて心臓に戻り、そこから肺に流れる肺動脈に詰って呼吸不全を起こす、きわめて死亡率の高い病気です。ちなみにエコノミークラスとは旅客機のエコノミークラスで、狭い座席で長時間じっと座っている状態で下肢静脈に血栓ができて起こることからつけられた病名で以前に注目されたことがあります。これもじっと動かないでいることが原因で、生活不活発病と同じ状況で起こります。
 このように避難という緊急時の行動が長期化し、日常生活を中断したとき、無意識に動かしていた身体の動きを止めて、運動しなくなった状態が引き起こす健康への影響は、最近災害が頻発して避難生活をしばしば経験する中で注目されるようになってきたことです。
 災害が起こって避難したときの心の状態、肉体的な状態をイメージしてみましょう。突然の出来事で日常生活が突然中断してしまい、家もない、ものもない、仕事もない。身近な人が命を奪われたかもしれない。恐怖と不安によるショック。最初の数時間は緊張して興奮しているので瞬く間に過ぎるでしょう。翌日夜があけるとあの出来事は夢ではなく現実であることを再確認する。さてどうしたものか、水も食料もない、当然することもないので身を横たえるしかないので身体を休ませることがしばらく続くと思われます。若い人達は体力があるので救援活動に従事し運動能力の低下の問題はないと思われますが、高齢者や持病があり無理ができないと思われる人達は、食事や水の配給をもらい、排尿、排便に動く以外は身体を動かさないと思われます。支援事業もまだ始まっていない。頭はボーっとして横になっているしかないという状況であると思われます。そうしているうちに足腰が弱り、歩行が不安定になり、心肺機能が衰え、生活運動能力の衰えに気づくのです。
 そこで生活能力の低下を予防するためには何が必要かということは先に説明したことから明らかです。すなわち、その人の体力、基礎疾患に応じて、非常時でも少しずつ身体を動かすことです。適度に身体を動かすことは病気予防の基本であることが明らかになったのです。無意識に身体を動かしている日常生活では気づかなかったことを、避難という非日常の生活が教えてくれたのです。
 ところで生活不活発病は災害時だけの問題だけではないのです。
 私の経験ですが、下腿骨折で入院し十日ほど右脚の牽引で臥床をよぎなくされたことがあります。手術をしてギプスを巻き、ベットサイドで立ち上がったときバランスを崩して危うく転びそうになりました。若い人でも動かないと筋力は極端に衰えてくるのです。ましてや年をとっている場合、少し体調を崩し、しばらくごろごろしているうちに、今まで難なくこなしていた動きができなくなっていたというようなことは日常しばしば起こることです。
 特に高齢者の場合は意欲の衰えや、少しの不調でも生活の不活発に繋がりやすいことを意識した対応が必要ではないかと考えます。日常の家事、散歩、軽い体操やストレッチなどが、健康を支えるいわば養生でもあったのです。

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不定愁訴について

 不定愁訴とは『体のどこが悪いのかはっきりしない訴えで、検査をしてもどこが悪いのかハッキリしないものをさす。』と健康用語辞典にある。
 検査をしてもどこが悪いのかはっきりしないというと、現代医学的な評価ができないということで、根本的治療法もないということになり、対症療法に終始する。
 例えば原因不明の頭痛であれば、鎮痛剤で頭痛を抑えてその場しのぎをするのである。すると十年以上も頭痛薬を手放せないということも起ってくる。ところが原因不明というのはあくまで現代医学の枠組みの中の話で、漢方という現代医学とは別の枠組みで頭痛を考えると、頭痛の原因が明らかになる部分が増えて原因不明の部分がかなり減るのではないかと思うのである。
 現代医学は病気の原因を物質で捉えて発展してきた。細菌や化学物質、細胞の変化、更には細胞の中の微小構造の変化、更には遺伝子という物質基盤を徹底的に追究してきた。一方では解剖学的異常を、画像診断を駆使して徹底的に追究してきた。この枠組みで見つかった異常については対応策を見つけて治療に結び付けてきた。現代医学の華々しさはその成果の威力の実績にあると私は思う。ところがこれらの枠組みから外れると比較的簡単なことでも対応できないという弱点をもっている。この最たるものが不定愁訴はではないかと思う。
 漢方では病因を外因、風寒暑燥湿火すなわち気候の変化、内因の七情すなわち喜怒悲思憂恐驚の情動、不内外因の食毒、過労などと考える。これらは人体のホメオスターシス(恒常性)維持装置すなわちバランス維持能力の範囲を超えたときに病因として作動する。人体のホメオスターシスは生理学的には神経・免疫・内分泌システムによって維持されており、フィードバック機構によって自動調節されている。
 例えば冬に冷たい北風に吹き晒されるとする。きわめて短時間であれば問題ないが、多少薄着をして我慢していると悪寒がきて震え、頭痛、発熱、関節痛と続いていく。そのときおそらく検査では異常ないが、体温の自動調節機能の範囲を超えており、悪寒、発熱という非常手段が発動している。このようなときに葛根湯や麻黄湯などの風邪の漢方薬を使う。
 冷たい飲み物を取り続けると胃腸が冷え、食欲が落ちる。また胃腸の消化吸収が低下するので腹痛、下痢を起こしてくる。また腸の動きが悪くなり、腹が張ってガスがたまり、おならが増える。このようなとは人参湯、大建中湯などを使う。
 また仕事や人間関係の難しい問題を抱えたとする。そのストレスに直面すると不安に襲われ、動悸がして、胃腸の弱い人は食欲がなくなる。そして不安のため夜眠れなくなる。また眠りは浅く、悪い夢にうなされたりする。そしてわずかな物音にも敏感に反応する状態が続く。すなわち昼夜となく交感神経の緊張が続いた状態である。このようなときは柴胡加竜骨牡蛎湯などを使う。
 更年期は閉経を前にエステロゲンや黄体ホルモンの周期的な変動が不安定になり、さまざまな症状が出る。イライラ、不安、頭痛、肩こり、ホットフラッシュ、生理の異常等取り止めのない症状が起る。このようなときに加味逍遥散がよく効果を発揮する。
 このように気温の変化などの外界の刺激、恐れ驚きなど心の動き、不適切な飲食物、加齢など日常的に遭遇する要因が、ホメオスターシス維持機能の範囲を微妙に超えてくるとき不定愁訴が起ると私は考えている。このような微妙な変調を呈する時期は血液検査などでもほとんど異常をきたさず、現代医学的病名がつかない。従って治療法も見えないというのが現状であろう。
 ただ私の臨床経験ではその人のライフスタイルやストレス、過労による心身の負担は、脊椎や骨盤の微妙な歪み、捻れとなって蓄積され、それがわかりにくい不定愁訴に影響していると考えている。そこで背骨や骨盤の調整と漢方薬を併用して治療効果を挙げる戦略をとるのである。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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