鉄不足による不定愁訴と漢方

 今年の東洋医学会総会の特別講演で、鉄不足により女性の不定愁訴が引き起こされ、鉄の補充により症状が改善することを紹介していた。女性は月々の生理により一定量の血液を排泄する体の仕組みから、鉄の補充を意識的に行わないと鉄不足になりやすい傾向がある。それが女性の不定愁訴と密接な関係にあるとすると、女性の不定愁訴の治療を得意とする漢方は患者の血清鉄の過不足に注意を向けなければならないことが浮かび上がってくる。
 鉄は血液の中で赤血球のヘモグロビン色素に含まれ、酸素と結合し、酸素を肺から全身の細胞に運ぶ一方、全身の細胞から炭酸ガスを肺まで運んで排泄する働きがある。つまり、呼吸によって取り入れた酸素を組織まで届け、その酸素で栄養を燃やし、その結果できた炭酸ガスを運び出し、エネルギーを作り出す仕組みにかかわっている。
 更に細胞の中ではグルコースを分解してエネルギーの本になるATPという物質を効率よく産生する化学反応に鉄イオンがからんでいることがわかっている。
 すると体内で鉄が不足するということはエネルギー不足に直結することから、鉄不足が体の元気に影響を及ぼすことは容易に理解できる。
 またエネルギー不足は自覚症状としては、体が冷えて温まりにくい、疲れやすい、疲労回復が遅いなどの症状として表現される。これらの症状を漢方では「気虚」すなわちエネルギー不足、さらに重症な場合は「陽虚」すなわち熱不足による体温低下と表現している。
 このような状態に使用する漢方薬は人参、乾姜、附子などで、細胞の代謝を刺激しエネルギー産生を促すとされる生薬である。漢方処方では四君子湯(しくんしとう)、人参湯(にんじんとう)、四逆湯(しぎゃくとう)などの処方になる。
 すなわち鉄のはたらきとこれらの漢方薬には共通の働きが見られるので、どのようにその働きが関与しあっているのかということは、漢方薬の薬理作用の現代医学的な理解に重要なヒントを与えてくれるのではないかと考える。
 最近更年期の女性で、小さいころから体が弱く、元気がなく、寒さに対する抵抗力が極めて低くて困っている人がいた。附子、人参、乾姜などの入った四逆加人参湯(しぎゃくかにんじんとう)という処方したところ、これまでになく元気が出て寝込むこともなくなってきたと喜んでいた。そこで血液検査をしたところヘモグロビンの値はそんなに低くなかったが、貯蔵鉄を測ってみたら極めて低かった。改めて聞いてみたら生理は若い頃からずっとだらだらと長く続く傾向があったという。鉄不足があることは間違いなので鉄材を処方したら興味深いことに、ギアーチェインジをしたように体が元気になったと教えてくれた。また鉄の効果が切れるとこれまた燃料切れでエンジンが止まったように元気がなくなるという。
 これは漢方薬ではカバーされない鉄の役割があることを示しており、漢方薬に加え鉄の不足を補うことがより効果的な「気虚」や「陽虚」すなわち「陰病治療」につながることを教えている。

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最近目にする不思議な頭痛

 最近頭痛を訴えてくる人が少なくない。その頭痛の背景が複雑で対処療法的対応で根治は無理と思われたので、そのからくりを整理してみた。
 頭痛を訴える更年期の女性が来院した。最近急に体重が増え、頭痛がひどく、つらいというのが主訴である。体重増加は10kg以上、口が乾くので冷たいものをよく飲むという。肩こりもひどく、体がだるい。最近この症例のように、食欲はあり肥満であるのに、体がだるくてやる気がないという矛盾する訴えの人を見る。元気がない場合、食欲もなくなるのが普通であるのに、食欲はあって、体重がどんどん増えている。そんな時、炭水化物や砂糖の過剰摂取、いわゆる炭水化物中毒、砂糖中毒ではないかと考えるようにしている。本人に確認すると、どんどん炭水化物を食べだして体調が悪くなったというのが通例である。
 糖質は食べれば食べるほどもっと欲しくなるという性質がある。血糖が急激に上昇するとインスリンも大量に分泌され、急速に血糖が下げられ、低血糖になり、さらに甘いものが欲しくなるという悪循環が起こるためと考える。
 口が乾くので水をよく飲むというのも体の仕組みからくる。体温を一定に保とうとする人体は、冷たいものを飲むと冷えた部分を温めないといけないから、上部消化管を温めようとして熱を出す。すると余計に口が乾くのでさらに冷たいものを飲んでしまうという悪循環が起こる。
 先の人の場合、短期間に体重がかなり増加しているので、甘くて冷たいものを飲み続けたのだろうと推測できる。
 また女性は生理周期に伴いホルモンバランスが変化する。更年期でない若い人の場合は排卵から生理前までの黄体期は黄体期でホルモンの作用で浮腫み、体重が減りにくく、頭痛、イライラなどの症状が起こる。いわゆる月経前症候群である。更年期になるとホットフラシュが起こったり、のぼせたりする。そしてホルモンバランスの変化は水のバランスの変化を伴う。
 このようなホルモンバランスの変化をともなう状態に甘いものや炭水化物を摂りつづけると浮腫みや体重の増加とともに、頭痛がひどくなり、体がだるくなり、やる気もなくなるという複雑な状態になる。
 おそらく検査では糖質の摂りすぎで血糖が高めに出るか、脂肪肝で肝酵素の値が少し上がる程度の変化はあるかもしれない。
 したがってこのような場合、冷たくて甘いものに習慣性・依存性があるということを理解してもらって、糖質を制限するという生活指導が最も重要になる。その上で症状に対応した漢方薬を処方し、鍼灸治療、頸椎の異常などを治せばよい。
 月経前緊張症や更年期障害には加味逍遥散(かみしょうようさん)が効くことが多い。頭痛には五苓散(ごれいさん)、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)などが効く。
 この年齢になると首の疲れがたまって頸椎がストレート化し、捻じれているのが普通であるから、鎖骨調整で早く症状を取ることもできる。
 頸椎が捻じれると首が回らなくなる。首の回らない状態は頭痛、めまい、頭がぼーっとするなどの不定愁訴が起こり、頭の働きが鈍くなることと関連づける。そして金がたまらないすなわち金がないという世事に結びつけると皆さん納得してくれる。

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原因不明の全身倦怠感

 最近体がだるいのに原因がわからないという女性の方が何名か見えた。そんな人は色白の小太りでなんとなく血色が悪く、浮腫んだ感じがするなどの特徴がある。朝起きにくい、頭痛、肩こりなどもあり、何もする気がしないなど、鬱っぽい感じもあり、冷え症であるという症状もある。イライラしやすく生理の前には特にひどい。ところが元気のない割には食欲があり、最近体重が増えている。内科を受診しても特に検査上は問題ないという。
 このような状態だと全身倦怠感の原因が大体見えてくる。甘いものをチョコチョコ食べていて、やめられないでしょう? 特に甘いアイスコーヒーを飲んでいるのではないですか? 睡眠はとっているのに朝起きにくいのではないですか? 果物は食べ過ぎていませんか?
 すると患者さんはすべて見透かされたような感じの顔をして黙ってしまう。
 「砂糖中毒ですね。特に冷たくて甘いものが悪いですよ。また時々甘いものをとるのは構わないが、連続して食べるのが特に悪いですよ。やめられなくなります。」というと「わかりました」という返事がかえってくる。
 連続して甘いものをとり続けると血糖を下げるインスリンが出っぱなしになり、血糖は下がり続けるので結果的には低血糖になる。するともっと甘いものがほしくなる。低血糖の状態は飢餓状態であるから、体は動きたくなくなるし、意欲もわかなくなり、エネルギーを温存する休養モードに体のバランスがセットされるので体がだるくなると仮説を立ててみる。冷たいもので体を冷やすとくしゃみ鼻水の鼻炎になり、頭痛も起こる。さらに生理前にはイライラ気分の落ち込みなどが増幅されて、月経前緊張症や月経困難症なども絡んで病態が分かりにくくなる。
 漢方的に見ると鼻炎は肺の冷え、倦怠感は気虚、イライラは気滞、生理痛は瘀血と複雑な病態になっている。その倦怠感の根本的な原因が甘い物、冷たい物の取りすぎということであるから全体を考慮した対応が必要になる。おそらく現代医学の検査では引っかからないので治療法もわからないと思われる。
また鼻炎、月経前緊張症、月経困難症など個別の症状の治療のみでは全体の病態をカバーできないことは明らかで、そこにこの病態認識及び治療のむずかしさがある。
 漢方の古い先生方が砂糖顔ということを言っておられたことを思い出す。何のことを言っておられるのか当時はわからなかったが、砂糖の過剰摂取ために浮腫んで貧血様顔貌で皮膚がくすんで色つやがないような顔のことを言っていたのだということが最近分かってきた。そのような人は、先に紹介したような特有の病態があることもその意味に含まれていたのだと思われる。
 砂糖や冷たいものの摂取を改めると比較的短期間に倦怠感の症状の改善が認められる。当然他の症状はそれに応じた漢方薬を組み合わせて治療することになる。
 ちなみに野菜のトマトでは乾燥させた土地で栽培すると水分を確保するためグルコースを作り、甘くなり水分を保つということがためしてガッテンで紹介されていた。

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しばらく調子は良かったのだが

 漢方薬を飲んでしばらく調子は良かったのだが、薬が効かなくなったという人が最近目についた。一人は胃の具合が悪い人で食後胃もたれがしてあまり食事がとれないという方であった。胃腸の働きをよくする漢方薬でおなかがすいて調子が良いといっておられた。ところがしばらくするとまた胃もたれが出てきたという。薬が効かなくなっているというのである。ところが体重を見ると前より増えているので、「最近調子が良いので食べ過ぎているのではないですか」と聞くと、苦笑いして、そうかもしれないときた。今まで抑えられていた食欲が解放されてつい食べ過ぎたため調子が悪いというところでしょう、と食事の摂取量を抑えてもらった。
 もう一人の方は自律神経が不安定で無理ができないということで来られた。首の具合が悪いので針治療や鎖骨調整によりかなり良くなっていた。もちろん漢方薬は胃を温め元気を補う薬にした。しばらく調子が良かったのであるが、最近少し具合が悪いという。食欲や睡眠にも問題はなさそうであった。それで仕事の方はどうですかと聞いたら、順調だという。そこで最近頑張りすぎではないですかと聞いてみた。すると最近調子がいいので、孫の面倒も見て少し疲れたのかもしれないと言われた。あまり頑張りすぎないように、ペースを落とすように注意した。
 治療が順調であるのに悪くなった、あるいは薬が効かないと訴える場合がある。そのような時は治療により体が変化して、処方が合わなくなることを真っ先に考えるのであるが、処方は合っていても本人が無理をして体に負担をかけて薬が効かないように見える場合がある。胃の具合が悪くてあまり食べられなかったのに、少し食べられるようになったのでつい食べ過ぎたり、冷たいものをとったり不摂生して胃に負担をかけやすいことは想像しやすい。あるいは疲れやすくて元気がなくて仕事のペースを落としていたのに、治療により少し無理ができるようになってペースを上げると、見かけ上もとにもどって元気がなくなり薬が合わないように見えるのである。
 そのような場合は必ず生活に変化がないのか確認する必要がある。やっと良くなってきたのだから無理をすると元の木阿弥になることを納得してもらうのである。今まで食べられなかったり、動きが制限されたり不自由であったのが少々無理できるとなるとつい無理してしまう気持ちはわからないではないが。

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変わった病態による咳

 今年は春から夏にかけて本格的に暑くなるのに時間がかかった。ところが暑くなり始めると短期間のうちに気温が急激に上がり、クーラーの調節や飲料水の摂取による体温調節が難しいような印象を受ける。そのような状況が外来の患者さんの訴える咳の性質も微妙に違うような気がする。その中で極めて珍しい咳があった。
 30代の男性である。喉にむずむずする感じがあって咳が出る。くしゃみ鼻水を伴う咳では麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)や小青竜湯(しょうせいりゅうとう)に麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)を組み合わせ、冷えが強い場合は苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)などでよくなる咳の場合が多い。また喉のムズムズを気にする場合は半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)にする。ところがこのような範囲の処方でまったくよくならない咳が人がいた。そこで腹をみると鳩尾(みぞおち)が硬く、あまり飯が食えないというのとストレスが多いという訴えから、ストレスで胃の内容物が十二指腸に排出されにくくなり、食物が食道に逆流してそれが喉を刺激して咳が出るという病態を考えた。そこで大柴胡湯去大黄エキスに半夏厚朴湯エキスを組み合わせて処方したら、ぴたっと咳が止まって、こんなに気分のいいのは初めてだと言われた。このような咳の傾向は子供のころからあったことを初めて聞かされ、こちらもびっくりしたのであった。
 人体にはストレスが起こると胃の出口の幽門が緊張して胃が縮んで胃の内容が十二指腸に流れにくい病態がある。漢方では「心下急、鬱々微煩」という、鳩尾(みぞおち)が突っ張って不快感があるという症状が起こる。それに対してストレスを緩和する柴胡・芍薬の組み合わせで対応し、胃腸のつかえを枳実芍薬で解除する組み合わせになっている大柴胡湯が効く。さらに食道から喉の逆流には半夏厚朴湯が効くので、的を射抜いたように効果が出たと理解した。
 漢方薬の効果を最大限に発揮させるためにはその症状の成り立ちすなわち病態生理を的確に把握することが不可欠であると改めて実感した。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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