原因不明の全身倦怠感

 最近体がだるいのに原因がわからないという女性の方が何名か見えた。そんな人は色白の小太りでなんとなく血色が悪く、浮腫んだ感じがするなどの特徴がある。朝起きにくい、頭痛、肩こりなどもあり、何もする気がしないなど、鬱っぽい感じもあり、冷え症であるという症状もある。イライラしやすく生理の前には特にひどい。ところが元気のない割には食欲があり、最近体重が増えている。内科を受診しても特に検査上は問題ないという。
 このような状態だと全身倦怠感の原因が大体見えてくる。甘いものをチョコチョコ食べていて、やめられないでしょう? 特に甘いアイスコーヒーを飲んでいるのではないですか? 睡眠はとっているのに朝起きにくいのではないですか? 果物は食べ過ぎていませんか?
 すると患者さんはすべて見透かされたような感じの顔をして黙ってしまう。
 「砂糖中毒ですね。特に冷たくて甘いものが悪いですよ。また時々甘いものをとるのは構わないが、連続して食べるのが特に悪いですよ。やめられなくなります。」というと「わかりました」という返事がかえってくる。
 連続して甘いものをとり続けると血糖を下げるインスリンが出っぱなしになり、血糖は下がり続けるので結果的には低血糖になる。するともっと甘いものがほしくなる。低血糖の状態は飢餓状態であるから、体は動きたくなくなるし、意欲もわかなくなり、エネルギーを温存する休養モードに体のバランスがセットされるので体がだるくなると仮説を立ててみる。冷たいもので体を冷やすとくしゃみ鼻水の鼻炎になり、頭痛も起こる。さらに生理前にはイライラ気分の落ち込みなどが増幅されて、月経前緊張症や月経困難症なども絡んで病態が分かりにくくなる。
 漢方的に見ると鼻炎は肺の冷え、倦怠感は気虚、イライラは気滞、生理痛は瘀血と複雑な病態になっている。その倦怠感の根本的な原因が甘い物、冷たい物の取りすぎということであるから全体を考慮した対応が必要になる。おそらく現代医学の検査では引っかからないので治療法もわからないと思われる。
また鼻炎、月経前緊張症、月経困難症など個別の症状の治療のみでは全体の病態をカバーできないことは明らかで、そこにこの病態認識及び治療のむずかしさがある。
 漢方の古い先生方が砂糖顔ということを言っておられたことを思い出す。何のことを言っておられるのか当時はわからなかったが、砂糖の過剰摂取ために浮腫んで貧血様顔貌で皮膚がくすんで色つやがないような顔のことを言っていたのだということが最近分かってきた。そのような人は、先に紹介したような特有の病態があることもその意味に含まれていたのだと思われる。
 砂糖や冷たいものの摂取を改めると比較的短期間に倦怠感の症状の改善が認められる。当然他の症状はそれに応じた漢方薬を組み合わせて治療することになる。
 ちなみに野菜のトマトでは乾燥させた土地で栽培すると水分を確保するためグルコースを作り、甘くなり水分を保つということがためしてガッテンで紹介されていた。

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しばらく調子は良かったのだが

 漢方薬を飲んでしばらく調子は良かったのだが、薬が効かなくなったという人が最近目についた。一人は胃の具合が悪い人で食後胃もたれがしてあまり食事がとれないという方であった。胃腸の働きをよくする漢方薬でおなかがすいて調子が良いといっておられた。ところがしばらくするとまた胃もたれが出てきたという。薬が効かなくなっているというのである。ところが体重を見ると前より増えているので、「最近調子が良いので食べ過ぎているのではないですか」と聞くと、苦笑いして、そうかもしれないときた。今まで抑えられていた食欲が解放されてつい食べ過ぎたため調子が悪いというところでしょう、と食事の摂取量を抑えてもらった。
 もう一人の方は自律神経が不安定で無理ができないということで来られた。首の具合が悪いので針治療や鎖骨調整によりかなり良くなっていた。もちろん漢方薬は胃を温め元気を補う薬にした。しばらく調子が良かったのであるが、最近少し具合が悪いという。食欲や睡眠にも問題はなさそうであった。それで仕事の方はどうですかと聞いたら、順調だという。そこで最近頑張りすぎではないですかと聞いてみた。すると最近調子がいいので、孫の面倒も見て少し疲れたのかもしれないと言われた。あまり頑張りすぎないように、ペースを落とすように注意した。
 治療が順調であるのに悪くなった、あるいは薬が効かないと訴える場合がある。そのような時は治療により体が変化して、処方が合わなくなることを真っ先に考えるのであるが、処方は合っていても本人が無理をして体に負担をかけて薬が効かないように見える場合がある。胃の具合が悪くてあまり食べられなかったのに、少し食べられるようになったのでつい食べ過ぎたり、冷たいものをとったり不摂生して胃に負担をかけやすいことは想像しやすい。あるいは疲れやすくて元気がなくて仕事のペースを落としていたのに、治療により少し無理ができるようになってペースを上げると、見かけ上もとにもどって元気がなくなり薬が合わないように見えるのである。
 そのような場合は必ず生活に変化がないのか確認する必要がある。やっと良くなってきたのだから無理をすると元の木阿弥になることを納得してもらうのである。今まで食べられなかったり、動きが制限されたり不自由であったのが少々無理できるとなるとつい無理してしまう気持ちはわからないではないが。

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変わった病態による咳

 今年は春から夏にかけて本格的に暑くなるのに時間がかかった。ところが暑くなり始めると短期間のうちに気温が急激に上がり、クーラーの調節や飲料水の摂取による体温調節が難しいような印象を受ける。そのような状況が外来の患者さんの訴える咳の性質も微妙に違うような気がする。その中で極めて珍しい咳があった。
 30代の男性である。喉にむずむずする感じがあって咳が出る。くしゃみ鼻水を伴う咳では麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)や小青竜湯(しょうせいりゅうとう)に麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)を組み合わせ、冷えが強い場合は苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)などでよくなる咳の場合が多い。また喉のムズムズを気にする場合は半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)にする。ところがこのような範囲の処方でまったくよくならない咳が人がいた。そこで腹をみると鳩尾(みぞおち)が硬く、あまり飯が食えないというのとストレスが多いという訴えから、ストレスで胃の内容物が十二指腸に排出されにくくなり、食物が食道に逆流してそれが喉を刺激して咳が出るという病態を考えた。そこで大柴胡湯去大黄エキスに半夏厚朴湯エキスを組み合わせて処方したら、ぴたっと咳が止まって、こんなに気分のいいのは初めてだと言われた。このような咳の傾向は子供のころからあったことを初めて聞かされ、こちらもびっくりしたのであった。
 人体にはストレスが起こると胃の出口の幽門が緊張して胃が縮んで胃の内容が十二指腸に流れにくい病態がある。漢方では「心下急、鬱々微煩」という、鳩尾(みぞおち)が突っ張って不快感があるという症状が起こる。それに対してストレスを緩和する柴胡・芍薬の組み合わせで対応し、胃腸のつかえを枳実芍薬で解除する組み合わせになっている大柴胡湯が効く。さらに食道から喉の逆流には半夏厚朴湯が効くので、的を射抜いたように効果が出たと理解した。
 漢方薬の効果を最大限に発揮させるためにはその症状の成り立ちすなわち病態生理を的確に把握することが不可欠であると改めて実感した。

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最近経験した手荒れの二つの原因

 手荒れの代表的な病名は主婦湿疹である。より専門的には指掌角皮症という病名になる。つまり指や掌の皮膚が乾燥して硬くなり痒みを訴える。すなわち皮膚が厚く肥厚して乾燥している状態をいう。すると湿度が下がり乾燥する季節、秋から冬にかけて悪化し、皮膚がひびわれすることもある。その結果、家事を極めて不快なものにする。体の病理的変化では乾燥すると虚熱が起こるので、手は何となく火照って乾燥する。このようなとき滋陰清熱すなわち組織に潤いをあたえ、熱をさますはたらきの漢方薬を使う。また乾燥して血流が悪くなるので血流を増やして手先の血の廻りを良くする補血の作用のある漢方薬を併用する。具体的には加味逍遥散(かみしょうようさん)、四物湯(しもつとう)を組み合わせると比較的よく治る。紅斑の程度が強い場合、すなわち炎症が強いときは、四物湯を温清飲(うんせいいん)にかえるとよい。さらに外用薬としては紫雲膏(しうんこう)を塗ると比較的早く軽快する。
 このように手荒れの病態の原因は陰虚や血虚、すなわちこの場合は手足が乾燥し、血流が悪くなっているということになる。最近興味深い原因の手荒れを二例経験した。
 一例目は60代の女性で、指先が乾燥してがさがさになっているという。一般的な治療をしていたがどうも指が冷たく、指先に小さな皮膚の欠損を認める。指の血の巡りがかなり悪いのではないかと考え、冷たいものにふれると手の指が白くなるのではないかと聞くと、紫色に変わるという。いわゆるレイノー症状のような血液循環の異常が起こるのであるが、ロウソクのような白ではなくチアノーゼ様の紫色に変わる点が少し違う。いずれにしても寒さにたいして指の血管の神経が過敏に反応して血流が悪くなることが確認できた。いわゆる霜焼けのような状態になることがわかった。何か体を冷やすようなことをしていないか尋ねたら、特にそういうこともないという。何を飲んでいるかと聞いたら、最近沖縄に引っ越してきて、暑いから氷水を持ち歩いて飲んでいるという。それが一番わるいのでやめるように指示した。漢方薬は末梢循環が悪くて手足が冷えるときに使う当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を併用することにした。
 二例目は産後一年目の母親である。手があれるということで治療していたが、あまり元気もなさそうで顔色もよくない。手荒れの原因についてはよくわからなかったが、よく聞くと子供は一歳になるのにまだ離乳食を始めていないという。まだ完全母乳で育てているという。あんな大きな子に母乳ばかりで育てていると、自分の体の栄養と水分が吸い取られ元気がなくなるのは当然であり、体の水分も不足して手があれるのではないかと説明し、離乳するように勧めた。その時母親が言うのに、そういえば前に手があれたのも前の子に授乳している時であったといった。そこでその手荒れの原因が、授乳により母体の水分や栄養が吸い取られ、手の循環が悪くなった結果起こったことが推測された。まさか授乳が、陰虚や血虚の原因になるとは思いもよらなかった。漢方的な病態認識により病気を観察すると意外な発見がある。

水分の摂取で介護度が改善した

 先日テレビである介護施設での取り組みを紹介していた。其の施設では意思の疎通の取りにくい介護度の高い手のかかる高齢者が入居してしばらくすると、意識がはっきりし、自分の力で自発的に動き、意志の疎通も計れるようになったという、びっくりするような事を紹介していた。それはできるだけこまめに水分を摂るように促すという単純なことを実行しただけであった。その簡単なことがお年寄りの意識を鮮明にし、活動の範囲を広げたのであった。それはお年寄りたちが普段多くの場合脱水の状態にあることを示している。なぜ水分摂取が少ないかというと、トイレに行く回数をできるだけ減らすために、水分を可能な限り減らすということで慢性的な脱水になるからだと紹介していて興味深かった。このことは適切な水分量が健康な体の働きの維持、具体的には体の組織の血液循環の維持に極めて重要であることを示している。
 同じような病態の患者さんを以前に経験したことはあった。主訴は原因不明の発熱で体がだるいと云う事であった。入院して検査をしたが、血液検査でも特に異常なかったので原因が分らなかったが、ある時一日の尿の回数が1~2回と極端に少ない事に気づき脱水が原因であることに思い至った。その患者さんは脳性マヒで、体が不自由で装具をつけ、松葉つえを使って移動していた。それでトイレの回数が多いことを負担に感じ、水分の摂取量をできるだけ減らしていたのであった。その結果便秘をして、皮膚が乾燥し汗をかかず、微熱が出て、体がだるい、何となく元気が出ないなどの症状を呈したのであった。水分摂取を促し適当な尿量を確保するように指示したら微熱も収まり、他の症状もよくなり退院した。
 水分の不足が慢性化した状態を漢方では陰虚という。この状態では全体の水分量が不足するので、水の排泄で体温調節するようにできている人体は、脱水のため体温をスムーズに下げることができない。その結果内熱がこもってくる。水分の排泄はまず発汗であるが、汗が減るので皮膚が乾燥しがちになる。皮膚はカサカサになり皮膚がかゆくなる。また口の中が乾燥して物が呑み込みにくくなり、便が硬くコロコロになり、便秘する。尿量が減少し、尿が濃縮されてコーヒーの色になり膀胱炎のような症状が出やすくなる。そして神経が過敏になりイライラして不眠になる。そのうち頭がボーとして働きが悪くなるなどの症状が起こってくる。
 このような状態は徐々に起こるので、少しずつ体が脱水に慣れて症状が出にくいので本人も周囲も気づきにくく 見逃される可能性が高い。そして一定の限度を越すと症状が出るのではないかと考えられる。また認知症であればさらに症状が悪く複雑になることも考えられる。したがって体が不自由な人や高齢者に慢性の脱水が起こりやすいということをしっかり心にとめる必要がある。
 このような病態が比較的短時間に起こると脱水症、熱中症という状態になり、命に係わる状態になる。これは急激な変化で皆も注意しているから比較的わかりやすい。
 このような人は普段からしっかり水分の補給を心がけることである。最近認知症の人が増えているが、水分摂取の不足が症状を悪化させていることがあるかもしれない。
 漢方には脱水を伴う状態に使う処方があるので、そのような漢方薬を併用するともっと効果的である。動悸息切れがあるとき炙甘草湯(しゃかんぞうとう)、カラ咳が出るときに麦門冬湯(ばくもんどうとう)や滋陰降火湯(じいんこうかとう)、便秘に麻子仁丸(ましにんがん)や潤腸湯(じゅんちょうとう)、皮膚が乾燥して痒い場合に当帰飲子(とうきいんし)、火照って熱い場合に白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、不眠に酸棗仁湯(さんそうにんとう)などである。尿が近くて手足が火照る場合には六味丸(ろくみがん)を併用する。
 若い人の場合水分の過剰摂取で水毒に注意するが、高齢者の場合は摂取不足の陰虚に注意するというのも年代による病態の特徴がみられて興味深い。
プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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