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吃逆について

 吃逆とはいわゆるしゃっくりの事である。吃逆の原因は不明のことが多く、突然起こっていつの間にか治ることが普通で、治療上問題にならないことが多い。ところが時には何日も吃逆が続くという人がいる。
 長いこと吃逆の患者さんを診なかったが、最近立て続けに二人の人が見えた。どちらも男の人で原因はよくわからないが何日も吃逆が止まらないという。原因はわからないことが多いが、私の経験では胃腸が冷えているが多いような印象を受ける。
 重症の吃逆の症例は多くはない。かなり以前のことになるが外科医として手術していた頃、術後の患者さんで吃逆が止まらないことがあった。腹が冷えていると考えて四逆湯(しぎゃくとう)という煎じ薬を処方したら見事に効いて吃逆が止まった。そのとき吃逆は胃腸の冷えからくるということを教えられた。他の治験例をみると、難治性の吃逆に呉茱萸湯(ごしゅゆとう)が効くという報告も見られた。呉茱萸湯は胃腸を温める薬であるから、やはり吃逆は腹の冷えが絡んでいる病態であることがわかる。
 吃逆の有名な処方に柿蔕湯(していとう)がある。柿蔕は柿の蔕(へた)のことで、薬能として『苦・微温、逆気を下降し、止呃の用薬、胃気上逆の呃逆に適する。寒熱虚実に基づき適当な配合を行えば著効がえられる。』と成書にかかれてある。
 ちなみに柿蔕湯は丁香、柿蔕、生姜の三味からなる処方。丁香は“辛温、特有の芳香をもち脾胃を温めるとともに陽壮泄肺して逆気を下降する。”とある。生姜も辛微温で温める作用があるから、柿蔕湯ぜんたいとしても温める作用があり、温めてしゃっくりを治す薬であることがわかる、
 また熱性の吃逆には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)とあるが、構成生薬をみると黄連・黄芩が胃熱を冷まし、半夏・人参・乾姜・甘草は胃腸を温める作用があることから、この場合も胃腸の冷えに熱が加わった病態であることがわかる。
 いずれにしても治療処方の効能からみると吃逆は胃腸の冷えが基本にあると考えてよさそうである。つまり腹を冷やすような飲み物や食事が吃逆の原因であると言えそうである。従って冷たいものを控え、胃腸を温めるように呉茱萸湯や人参湯(にんじんとう)、少しのぼせて舌苔が黄色い場合には半夏瀉心湯など、または柿蔕湯などで治療するとよい。そして冷たいものは避けることである。

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肋間神経痛と尾骨の痛み

 最近肋間神経痛の患者さんが見えた。肋間神経とはあばら骨の下縁に沿って、背骨から胸の前にめぐる神経で左右十二対ある。左の乳房辺りが痛いというのである。
 肋間神経痛と診断して、その痛みの部分の肋間神経を辿って背中の方へ回り、正中線上の脊椎の棘突起を確認し、親指で押すと圧痛を見つけることができる。多くの場合その棘突起の捻じれが原因で神経痛が起こっている。そこで棘突起に反対側から痛む方向に力を加えると背骨の捻じれが解消して瞬時に痛みが取れる。その整復に大した力はいらないが効果はドラマティックである。肋間神経痛は腹の冷えに関連して起こることが多いようで、腹を温める作用のある大建中湯(だいけんちゅうとう)と似たような効果のある当帰湯(とうきとう)を使うことが多い。
 またまれな痛みにではあるが、偶に尾骨の痛みを訴える人がいる。尾骨の亜脱臼が原因らしい。その尾骨の整復の仕方は、肛門診の要領で患者を膝を抱えるように側臥位になってもらい、人差し指を肛門に差し入れる。その人差し指と同じ手の親指の間に尾骨を挟み、尾骨を伸ばすように力を加える。するとそれによって亜脱臼が整復されるらしく、痛みが取れる。これは治療の部位が部位だけに最初からやるのはためらわれ、少し内服薬など試みながら、よくならないので仕方なくやるという形にした方がやりやすい。その方が患者もあきらめて治療を受けやすいのではないかと考える。
 いずれの治療もやってみると簡単ではあるが、教科書には載っていない。自分の経験か伝聞によって身に着けた治療法である。
 求めよ!さらば与えられん!

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交感神経過緊張

 最近受診される患者さんの訴えを見ていると、多彩な症状が多いことに気づかされる。例えば頭痛で来院されて、肩こり、頭重、眩暈や、動悸、吐き気などを伴い、場合によっては不安不眠などを訴えることもある。なぜそのように症状が多いのかという理由に最近気が付いた。それは交感神経の過緊張がつづいているからである。交感神経の緊張が持続するため、それにともなう様々な症状が同時に起こるのである。
 人体は自律神経・内分泌・内分泌機構によって体温を一定に保ち、いつでもどこでも活動できるように保たれている。そしてそれは昼間活動し、夜は休息するという一日のリズムにより、エネルギー消費、蓄積のバランスが保たれ、自律神経も交感神経、副交感神経への切り替えをスムーズに行っている。それがスムーズに行われている間は、体は何の違和感もないのであるが、ひとたびリズムが狂うといろいろな症状を引き起こして体の不調として自覚されてくる。
 漢方では病気の原因を内因、外因、不内外因の三つに分けている。外因は風寒暑燥湿熱、つまり気象条件によるもの、内因は喜怒憂思悲驚恐の七情で社会生活のストレスや天変地異の恐怖によってひきおこされる。不内外因は食毒つまり不適切な食事による害、房労(ぼうろう)つまり、過労である。特に最近では多すぎる残業や、夜勤による睡眠不足もそれになるであろう。食事では冷たいものを取りすぎて腹を冷やし、刺激物の摂りすぎや酒飲みすぎなどであろう。そしていくつかの原因が複合的に作用しているのが多くの場合の現実である。例えば過労、睡眠不足、ストレス、冷たい物の摂りすぎなどが同時に作用している。
 これらの病因は人体に交感神経の緊張状態を引き起こし、リラックスしにくくなる。つまり交感神経から副交感神経への切り替えがうまくいかず、緊張しっぱなしということになる。すると精神的にはイライラ、不安がおこり、動悸、喉の詰まりや痞え(つかえ)、胃腸の弱い人は食欲も落ちてくる。身体が緊張していると代謝も少し亢進(こうしん)して微妙に体温も上がって体が火照ってくる。そして寝付けなくなる。この時の熱感を漢方では虚熱と呼んでいる。体は熱いと感じるのに体温計はでは正常の体温を示す。
 このように交感神経の過緊張を示す人の頸椎を診るとレントゲン画像は捻じれや生理的前方への湾曲が失われ、ストレートネックやそれを通り越して後方に湾曲している。それらの骨の変化はまた肩こりや頸椎の伸展制限つまり上が向きにくい、首が回らない不快な症状と関連し、それがまたリラックスを妨げ交感神経の過緊張を助長するという悪循環を形成しているように見える。
 漢方でいう未病は健康で何の違和感もない状態から少し進んで、病気で寝込むほどではないが何となくおかしいと感じる状態である。すると未病の状態ですでに背骨や骨盤の歪みが起こっていてそれが解剖学的な未病の根拠になるのではないかと考えた。
 この状態が進むと原因不明の頭痛や気分の悪さなどから不登校や引きこもりなど深刻な社会的問題にもつながるのではないかと考えられる。

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高齢者の排尿困難

 高齢化社会になり元気な高齢者も増え外来にもいろいろな訴えの方が見える。その中の一つに排尿困難がある。高齢者の男性の排尿困難の原因は前立腺肥大症のことが多い。前立腺肥大症もある程度大きくなると手術適応となることが多いが、極端な高齢になると手術のリスクを考慮してか薬物療法で済ます傾向がみられる。それではあまり効果がないのか、漢方で何とかならないかと来られる方もいる。ところが漢方でも老人の頻尿に使用する八味地黄丸(はちみじおうがん)などを処方してもあまり喜ばれないことが少なくない。
 ある患者さんの場合は便秘を合併していたため便秘の漢方薬を処方した。よく聞いてみると普通の下剤では強すぎて困るというので、これは虚証の便秘であることが分かった。
 虚証の便秘は腸の蠕動運動が弱くて便を押し出すことができないので、強い下剤を使うと便は出るものの、後はぐったりして気分が悪くなるので普通の下剤を使いたがらない。ところが漢方では腸の動きを活発にし、腸を温め腸の動きをよくした上で、弱い下剤を併用するとスムーズに便が出る処方の組み合わせがある。
 そこで膀胱の排尿の神経と直腸の排便の神経は共通であるから、便秘の治療でひょっとしたら排尿も改善するのではないかと考え便秘の治療を行ったところ、以前よりスムーズに尿が出るようになったと喜ばれた。全く問題がないとは言わないがかなり喜んでもらえる程には改善した。
 腸の運動を活発にするのは補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)、老人のコロコロ便の便秘に使うのは麻子仁丸(ましにんがん)、これらを組み合わせると腸の元気のない便秘の人の排便がスムーズになるのでありがたがられる。そのうえ排尿迄楽になるので一石二鳥ということになる。

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涙の意味2

 かなり以前に「涙の意味」という題で文章を『東洋医学の雑記帳』に書いたことがある。涙という字は“さんずい”に戻るという字の組み合わせである。すると涙というのは戻す水ということになる。何を戻すのかということになる。傷ついた心を本来の落ち着いた心に戻すということを,実際に涙を流してみれば実感できると書いた。そして文字を汲め立てた先人の心の在り方に触れた思いがして、意味の適切であることに感動した。
 この度は実際の臨床で漢方薬をのんだら涙が止まらないということが起こったので、改めて涙の意味を考えさせられた。
 更年期前後の女性で、交通事故で追突され首が痛いということで見えた方である。更年期に使う漢方薬、生理痛の漢方薬などを組み合わせて処方し、針治療も行った。治療費は事故の加害者が保険に入っていないので、自賠責の保険でカバーされない為、自己負担が多く困っておられた。一通りの治療が終わったが、気持ちがすっきりしないようで、イライラしているのに気持ちが内にこもる状態の人に処方するとされる抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)を飲んでもらった。その処方を飲みだしたら涙がとまらないと電話がかかってきた。その薬の副作用ではないかというのである。
 それで答えた。「悲しみや辛い感情で涙が出るということは悪いことではない。涙を流すことで感情を発散することができるのです。だから涙が出ることは悪いことではないと思います。薬が効いているのではないかと思う」と。そしたら少し納得されたようであった。あれからどうなったか確認していない。
 おそらく心の高ぶりを抑える処方で気持ちが落ち着き、自然につらい気持ちが素直に表現され、悔し涙として表現され少しは気分が楽になったのではないかと推測する。漢方薬の興味深い効果と考えた。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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