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交感神経過緊張

 最近受診される患者さんの訴えを見ていると、多彩な症状が多いことに気づかされる。例えば頭痛で来院されて、肩こり、頭重、眩暈や、動悸、吐き気などを伴い、場合によっては不安不眠などを訴えることもある。なぜそのように症状が多いのかという理由に最近気が付いた。それは交感神経の過緊張がつづいているからである。交感神経の緊張が持続するため、それにともなう様々な症状が同時に起こるのである。
 人体は自律神経・内分泌・内分泌機構によって体温を一定に保ち、いつでもどこでも活動できるように保たれている。そしてそれは昼間活動し、夜は休息するという一日のリズムにより、エネルギー消費、蓄積のバランスが保たれ、自律神経も交感神経、副交感神経への切り替えをスムーズに行っている。それがスムーズに行われている間は、体は何の違和感もないのであるが、ひとたびリズムが狂うといろいろな症状を引き起こして体の不調として自覚されてくる。
 漢方では病気の原因を内因、外因、不内外因の三つに分けている。外因は風寒暑燥湿熱、つまり気象条件によるもの、内因は喜怒憂思悲驚恐の七情で社会生活のストレスや天変地異の恐怖によってひきおこされる。不内外因は食毒つまり不適切な食事による害、房労(ぼうろう)つまり、過労である。特に最近では多すぎる残業や、夜勤による睡眠不足もそれになるであろう。食事では冷たいものを取りすぎて腹を冷やし、刺激物の摂りすぎや酒飲みすぎなどであろう。そしていくつかの原因が複合的に作用しているのが多くの場合の現実である。例えば過労、睡眠不足、ストレス、冷たい物の摂りすぎなどが同時に作用している。
 これらの病因は人体に交感神経の緊張状態を引き起こし、リラックスしにくくなる。つまり交感神経から副交感神経への切り替えがうまくいかず、緊張しっぱなしということになる。すると精神的にはイライラ、不安がおこり、動悸、喉の詰まりや痞え(つかえ)、胃腸の弱い人は食欲も落ちてくる。身体が緊張していると代謝も少し亢進(こうしん)して微妙に体温も上がって体が火照ってくる。そして寝付けなくなる。この時の熱感を漢方では虚熱と呼んでいる。体は熱いと感じるのに体温計はでは正常の体温を示す。
 このように交感神経の過緊張を示す人の頸椎を診るとレントゲン画像は捻じれや生理的前方への湾曲が失われ、ストレートネックやそれを通り越して後方に湾曲している。それらの骨の変化はまた肩こりや頸椎の伸展制限つまり上が向きにくい、首が回らない不快な症状と関連し、それがまたリラックスを妨げ交感神経の過緊張を助長するという悪循環を形成しているように見える。
 漢方でいう未病は健康で何の違和感もない状態から少し進んで、病気で寝込むほどではないが何となくおかしいと感じる状態である。すると未病の状態ですでに背骨や骨盤の歪みが起こっていてそれが解剖学的な未病の根拠になるのではないかと考えた。
 この状態が進むと原因不明の頭痛や気分の悪さなどから不登校や引きこもりなど深刻な社会的問題にもつながるのではないかと考えられる。

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ジャンル : 心と身体

高齢者の排尿困難

 高齢化社会になり元気な高齢者も増え外来にもいろいろな訴えの方が見える。その中の一つに排尿困難がある。高齢者の男性の排尿困難の原因は前立腺肥大症のことが多い。前立腺肥大症もある程度大きくなると手術適応となることが多いが、極端な高齢になると手術のリスクを考慮してか薬物療法で済ます傾向がみられる。それではあまり効果がないのか、漢方で何とかならないかと来られる方もいる。ところが漢方でも老人の頻尿に使用する八味地黄丸(はちみじおうがん)などを処方してもあまり喜ばれないことが少なくない。
 ある患者さんの場合は便秘を合併していたため便秘の漢方薬を処方した。よく聞いてみると普通の下剤では強すぎて困るというので、これは虚証の便秘であることが分かった。
 虚証の便秘は腸の蠕動運動が弱くて便を押し出すことができないので、強い下剤を使うと便は出るものの、後はぐったりして気分が悪くなるので普通の下剤を使いたがらない。ところが漢方では腸の動きを活発にし、腸を温め腸の動きをよくした上で、弱い下剤を併用するとスムーズに便が出る処方の組み合わせがある。
 そこで膀胱の排尿の神経と直腸の排便の神経は共通であるから、便秘の治療でひょっとしたら排尿も改善するのではないかと考え便秘の治療を行ったところ、以前よりスムーズに尿が出るようになったと喜ばれた。全く問題がないとは言わないがかなり喜んでもらえる程には改善した。
 腸の運動を活発にするのは補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)、老人のコロコロ便の便秘に使うのは麻子仁丸(ましにんがん)、これらを組み合わせると腸の元気のない便秘の人の排便がスムーズになるのでありがたがられる。そのうえ排尿迄楽になるので一石二鳥ということになる。

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涙の意味2

 かなり以前に「涙の意味」という題で文章を『東洋医学の雑記帳』に書いたことがある。涙という字は“さんずい”に戻るという字の組み合わせである。すると涙というのは戻す水ということになる。何を戻すのかということになる。傷ついた心を本来の落ち着いた心に戻すということを,実際に涙を流してみれば実感できると書いた。そして文字を汲め立てた先人の心の在り方に触れた思いがして、意味の適切であることに感動した。
 この度は実際の臨床で漢方薬をのんだら涙が止まらないということが起こったので、改めて涙の意味を考えさせられた。
 更年期前後の女性で、交通事故で追突され首が痛いということで見えた方である。更年期に使う漢方薬、生理痛の漢方薬などを組み合わせて処方し、針治療も行った。治療費は事故の加害者が保険に入っていないので、自賠責の保険でカバーされない為、自己負担が多く困っておられた。一通りの治療が終わったが、気持ちがすっきりしないようで、イライラしているのに気持ちが内にこもる状態の人に処方するとされる抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)を飲んでもらった。その処方を飲みだしたら涙がとまらないと電話がかかってきた。その薬の副作用ではないかというのである。
 それで答えた。「悲しみや辛い感情で涙が出るということは悪いことではない。涙を流すことで感情を発散することができるのです。だから涙が出ることは悪いことではないと思います。薬が効いているのではないかと思う」と。そしたら少し納得されたようであった。あれからどうなったか確認していない。
 おそらく心の高ぶりを抑える処方で気持ちが落ち着き、自然につらい気持ちが素直に表現され、悔し涙として表現され少しは気分が楽になったのではないかと推測する。漢方薬の興味深い効果と考えた。

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頸椎の臨床

 最近首こり、肩こりなどを訴えて見える患者さんが多い。多くの場合整形外科や脳神経外科を受診し、大きな問題はないと言われ、リハビリなどを受けるがよくならないという。レントゲンで椎間板が狭くなっているとか、MRIでもヘルニアは大したことはないと言われていることが多い。
 ところがこのような人の首を診察すると後頭部、頸椎上部あたりの頸椎の両側の叩打痛、肩関節全面、肩甲骨中央部の圧痛に左右差がある。また頸椎の進展つまり天井を向く動きに制限されるか、又は痛みを伴い、首を捻じって左右を向くといずれかが向きにくいなどの可動域制限の診察所見が得られることが通例である。臨床症状では肩こり、首筋の痛み、頭痛、めまい、動悸、目の疲れが取れない、顎関節の動きが悪いなど頭頚部の症状が目白押しである。
 このような人の単純レントゲン写真を見ると、正面像で脊椎の側弯に伴ない、頸椎が左右いずれに傾き、棘突起を示す中央に並ぶ楕円や三角形の像が中心から左右いずれかにずれてみえる。側面像では生理的前湾が失われ、脊椎が直線化しいわゆるストレートネックといわれる状態にあるか、それを通り越して後方に凸の湾曲になっている。これ等の所見は現代医学ではストレートネック以外ほとんど注目されず、したがって治療法もなく放置されているように見える。 
 漢方薬による治療の場合には。その患者の状態が特定の処方の適応があれば、効果てき面の場合に頚部の症状も改善することがある。
 鍼灸でもからだの左右の緊張のバランスをとるような治療を行うと、一時的に症状が軽減する場合も見られる点で現代医学よりは治療効果はいいと思われる。
 当院では鎖骨調整という施術で頸椎の捻じれや生理的湾曲の消失を矯正することにより上記症状の改善を認め、その結果からは次のような仮説が導かれる。
 すなわち頸部の疲労は頸椎の直線化、捻じれとして蓄積され、それらが強制されないと疲労は回復しない。すなわち症状が取れない。首凝り・肩こり・頭痛・眼精疲労も頸椎の異常と関連があり、交感神経の過緊張も頸椎と関連している。
 頸椎の直線化、後弯により頸椎の進展が制限されると前屈の俯いた姿勢をとりがちで、暗い人生のポーズとなる。頸椎の異常を矯正すると容易に上がむけ、眼の調節力が回復して視野が明るくなり、前方やや上をむいた未来を見つめる明るい人生のポーズになる。そこで今日からあなたの人生明るくなりますと声をかけることにしている。
 頸椎の捻じれで首が回らない状態は、おそらく借金で首が回らないという巷の言葉の医学的表現ではないかと考えている。

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鉄不足による不定愁訴と漢方

 今年の東洋医学会総会の特別講演で、鉄不足により女性の不定愁訴が引き起こされ、鉄の補充により症状が改善することを紹介していた。女性は月々の生理により一定量の血液を排泄する体の仕組みから、鉄の補充を意識的に行わないと鉄不足になりやすい傾向がある。それが女性の不定愁訴と密接な関係にあるとすると、女性の不定愁訴の治療を得意とする漢方は患者の血清鉄の過不足に注意を向けなければならないことが浮かび上がってくる。
 鉄は血液の中で赤血球のヘモグロビン色素に含まれ、酸素と結合し、酸素を肺から全身の細胞に運ぶ一方、全身の細胞から炭酸ガスを肺まで運んで排泄する働きがある。つまり、呼吸によって取り入れた酸素を組織まで届け、その酸素で栄養を燃やし、その結果できた炭酸ガスを運び出し、エネルギーを作り出す仕組みにかかわっている。
 更に細胞の中ではグルコースを分解してエネルギーの本になるATPという物質を効率よく産生する化学反応に鉄イオンがからんでいることがわかっている。
 すると体内で鉄が不足するということはエネルギー不足に直結することから、鉄不足が体の元気に影響を及ぼすことは容易に理解できる。
 またエネルギー不足は自覚症状としては、体が冷えて温まりにくい、疲れやすい、疲労回復が遅いなどの症状として表現される。これらの症状を漢方では「気虚」すなわちエネルギー不足、さらに重症な場合は「陽虚」すなわち熱不足による体温低下と表現している。
 このような状態に使用する漢方薬は人参、乾姜、附子などで、細胞の代謝を刺激しエネルギー産生を促すとされる生薬である。漢方処方では四君子湯(しくんしとう)、人参湯(にんじんとう)、四逆湯(しぎゃくとう)などの処方になる。
 すなわち鉄のはたらきとこれらの漢方薬には共通の働きが見られるので、どのようにその働きが関与しあっているのかということは、漢方薬の薬理作用の現代医学的な理解に重要なヒントを与えてくれるのではないかと考える。
 最近更年期の女性で、小さいころから体が弱く、元気がなく、寒さに対する抵抗力が極めて低くて困っている人がいた。附子、人参、乾姜などの入った四逆加人参湯(しぎゃくかにんじんとう)という処方したところ、これまでになく元気が出て寝込むこともなくなってきたと喜んでいた。そこで血液検査をしたところヘモグロビンの値はそんなに低くなかったが、貯蔵鉄を測ってみたら極めて低かった。改めて聞いてみたら生理は若い頃からずっとだらだらと長く続く傾向があったという。鉄不足があることは間違いなので鉄材を処方したら興味深いことに、ギアーチェインジをしたように体が元気になったと教えてくれた。また鉄の効果が切れるとこれまた燃料切れでエンジンが止まったように元気がなくなるという。
 これは漢方薬ではカバーされない鉄の役割があることを示しており、漢方薬に加え鉄の不足を補うことがより効果的な「気虚」や「陽虚」すなわち「陰病治療」につながることを教えている。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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書籍の紹介

東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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