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風邪の漢方薬が風邪以外の病気にも処方される訳

 日本漢方での第一の古典は傷寒論である。「傷寒」という言葉の意味は「寒によって障害される」という意味であるから、一番わかりやすいのは寒い北風に吹かれて風邪を引くような状況ではないかと考える。そもそもなぜ風邪を引くのかということが問題である。それは人間が恒温動物であるからというのが私の考えである。人体は食物を摂り、酸素を吸って食物を燃焼させて熱を発生し、体温を一定に保つように進化してきた。動物は羽毛に覆われて体温を保つようになっているが、万物の霊長たる人間は毛が少なくなり、服を身に着け、温かい住居に住むことで寒さをしのぎ、体温を維持しやすい状態を確保している。そのような人が体温を維持できずに風邪を引いたとき、症状に応じた漢方処方を紹介してあるのが傷寒論である。
 人の体温の維持は体のホメオスターシス維持機構によってなされている。その仕組みは主として自律神経、内分泌系の自動調節による。自律神経は昼間活動するときに作用してエネルギー消費が優位になる交感神経と、夜は休息してエネルギーをため込むときに働く副交感神経で構成され、それに対応して内分泌系では昼はエネルギーを消費して代謝を上げるホルモン、夜間はエネルギーの消費を抑えるホルモンが分泌され、自覚しないままに体温が維持されている。その自動調節の範囲を超えて風寒により体が冷えた時に頭痛、悪寒、発熱、関節痛、倦怠感などの風邪の症状が起こってくる。
 一方でヒトは危機に遭遇するとき生き延びるために逃げるか闘うかしなければならない。そこでも寒冷に対して体温を維持するために働く自律神経やホルモンの仕組みと同じ仕組みを動員して人体を守るのである。その時はストレスによって引き起こされる七情すなわち喜怒思悲憂驚恐の激しい感情が病気の原因として体に作用するとしている。
 これで明らかになったように人体は気象の変化という外的要因、それ以外の社会的ストレスによる情動の変化を伴う内的要因ともに同じ仕組みを使って生き延びるようになっている。いずれのストレスにも対応する仕組みは同じであった。
 すると漢方の風邪の処方つまり気象の変化というストレスに対する治療薬は、精神的ストレスにも応用できる仕組みになっていることが理解される。つまり風邪処方は精神的ストレスにも対応できる原理があることがわかる。
 漢方では気象の変化によって引き起こされる症状を“風”という言葉で代表している。一方で内因七情によって引き起こされる症状をわざわざ“内風”と呼んだのではないだろうか。いずれも自律神経、内分泌機構の変動によって引き起こされる現象であるから風をその原因により内外に分けて区別したのではないかと考えてみた。
 ちなみに漢方の辞書には風について「病理学の発達しなかった古代においては風寒湿暑燥火の気象学的因子を六淫といって病原とみなした。風はこの六淫の首位にあるもので、これを病因として起こる疾病のうち軽いものは感冒、重きものは傷風即ち肺炎の如きもの、更に重きものは中風即ち神経系統の疾患とした。」とあり、内風については「中風の病因が房事にあるのをいう」とあるが、私は内風を上記のように考えた。

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

新型コロナ発熱外来の問題点

 新型コロナが指定感染症になって一般のクリニックでは発熱を主訴とする患者を初診で診察する機会が激減した。発熱の患者はまず新型コロナではないかと疑ってPCR検査を受けるように指定医療機関に誘導したのであるが、保健所や指定医療機関の対応能力にも限界があり、指定医療機関以外に発熱外来を設けて対応可能人数を増やしてきた。
 発熱外来の診察においてやることはまずPCR検査、あとは解熱剤を処方して症状が軽ければ自宅で経過を見るということのようである。一番の狙いはPCRによって感染者を見つけ隔離し、重症化する人を早く見つけ入院治療に結び付けることであると理解できる。ところがまず問題はPCR検査ですべての患者が見つかるわけではないということと、約90パーセントが陽性として検出され、10%は見逃しがあるという。擬陽性の確率もないわけではないので、見逃しや、誤診もあり、問題がないわけではない。
 さらに救命救急ということが最重要課題であるから、軽症の人は自然治癒力に任せてよいとする暗黙の了解があるように見える。救急医療の最も重視する点は救命にある。自然治癒力の旺盛な、重症化しない人は自然の経過に任せてもよいという無意識の対応になっているように思える。さらにその裏には風邪に対する現代医学的対応が反映されているようにも見える。すなわち風邪の処方解熱剤、抗ヒスタミン剤、抗生剤などの対症療法しか見当たらないので、積極的な治療がみあたらないのである。
 漢方は風邪の治療を基本に創設発展してきたようなものであるから、風邪の治療にはきめ細かいものがある。すると漢方では症状の軽い風邪でも診察すれば適切な処方や生活指導ができるのではないかと考える。すると軽症の状態で治癒に向かわせ、重症化への進行をくい止め治癒に向かわせることができるかもしれない。
 ただ新型コロナには指定感染症という制約があるとから感染対策を万全にし防護服を着たうえでの診療となり、軽症の場合は最低限の対応のみとなるので、そうもいかないことになるところが問題であると考えるのであるが、どうだろうか。つまりコロナの重症化リスクを考慮したうえで漢方的診療ができる状況があればもう少し積極的な対応につながると考えるのである。指定感染症制約の中で診療する場合は漢方のメリットも発揮しにくいといえる。

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プロフィール

仲原靖夫

Author:仲原靖夫
昭和51年広島大学卒業、中部病院で外科の研修を終え、八重山病院、アドベンチスト・メディカルセンター、ハートライフ病院、屋比久産婦人科小児科東洋医学センターで西洋医学と東洋医学を併用した診療を続けてきた。現在、『仲原漢方クリニック』(沖縄県那覇市牧志)院長。

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東洋医学の雑記帳

仲原漢方クリニック院長のドクター仲原が、1992年から2001年まで、週刊レキオに東洋医学、漢方関連の記事を掲載していたものをまとめた本です。現代西洋医学と東洋医学の病気の考え方の違いや漢方についてわかりやすく解説されています。 冷えの害、不定愁訴について、漢方で癌は治せるか、リウマチと漢方、肩こりについて、風邪について、偏頭痛、不眠、関節痛、自律神経失調症など。

定価:1,000円(税込価格)

発行:(株)週刊レキオ社
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